難民法改正にイエス、連邦閣僚直接選挙にノー
6月9日、スイス全国で今年2回目の国民投票が行われた。今回の法案は、難民法の強化と、国民が連邦閣僚を選出する制度の導入の二つだ。結果は予想通り。難民法改正は賛成約80%で可決、連邦閣僚の直接選挙は反対75%以上で否決された。
国民が政府や議会の勧めに従い、難民法を厳しくしたのはこれで5回目。ドイツ語圏では80%以上、フランス語圏でも60から70%という高い支持率だった。州レベルでも、すべての州が可決するという結果になった。投票率は40%弱。
「アラブの春」からスイスへ
スイスの難民認定手続きは、欧州連合(EU)のそれに比べて時間がかかる。「アラブの春」以降、難民申請者の数も増えた。そこで連邦議会は2012年、難民法を強化する目的で同法の改正を実施。同法はすでに施行されているが、左派の一部と労働組合、人権団体らがレファレンダムを決行した。
「スイスの人道主義の伝統が危ぶまれる」と問題になったのは以下の三つの点だ。まず、難民申請はこれまで外国のスイス大使館にも提出できたが、それをスイス国内だけに制限したこと。次に、脱走兵や兵役拒否者を自動的に難民と認める措置を廃止したこと。最後に、公共の秩序と安全を脅かす難民申請者を特別な施設に収容することだ。
難民法改正を支持していた中道派および右派は、この強化案を法の悪用や犯罪に走る難民申請者を効率的に取り締まるための手段だと見なしている。国民もそれに倣った形だ。スイス国営ドイツ語放送(SRG)が5月末に行ったアンケート調査では、59%が賛成、29%が反対だった。
PLACEHOLDER左派社会民主党のシルヴィア・シェンカー下院議員はスイス通信(SDA/ATS)に対し、「今のスイスは、(対策の)強化が多数の支持を得られる風潮にある」と語る。「それでも国民に投票してもらったのは、やはり正しかったと思う」
右派国民党のクロード・アラン・フォイブレット副党首も、この結果は世相の表れだという見方だ。「この領域に関しては、わが党の政策と国民の大方の意見は一致している」。そして「『社会福祉ツーリズム』に対する対策が必要」と、今後もさらに厳しい難民政策を追求する意向を明らかにした。
連邦閣僚は議会が選ぶ
しかし、その国民党のイニシアチブ「連邦閣僚の直接選挙」は全面的に否決された形となった。有権者の約77%が反対しただけでなく、やはりすべての州がこれを否決した。事前のアンケートでは66%が反対していた。これにより、連邦閣僚は国民ではなく、これまでどおり議会が選出する。投票率は40%弱。
この法案には国民党を第一党に導いた立役者、クリストフ・ブロッハー氏が大きく関わっている。国民党は1990年代後半、同氏を連邦閣僚にと考えていた。だが、問題発言が多かったブロッハー氏を連邦議会が選出するとは思われなかった。そこで国民党は連邦閣僚の直接選挙を求めるイニシアチブの開始を決めたが、2003年ブロッハー氏が閣僚選出を果たしたためイニシアチブは棚上げになった。ところが2007年、ブロッハー氏が解任されたことから、再び棚から下ろされることになった。
このイニシアチブを支持していた政党は国民党のみだ。「この結果は残念ながら、予想されていた」とアルフレッド・ヘール下院議員は言う。「意見は国民党内部でも分かれていた」
「連邦閣僚の直接選挙」イニシアチブ
賛成23.7%、反対76.3%
賛成州なし、反対州23
投票率:39.5%
「難民法改正案」
賛成78.5%、反対21.6%
賛成州23、反対州なし
投票率:39.4%
(全26州のうち六つの準州は0.5票と計算する)
国民による内閣閣僚の選出を求める。形式は多数決選挙で、国民議会(下院)選挙と同時に4年ごとに行う。
スイス全土を一つの選挙区とする。フランス語とイタリア語を話す地域や州向けに、内閣閣僚全7席のうち少なくとも2席を確保。
絶対多数を得た候補者は、1回目の投票で当選する。2回目の投票は単純多数でも当選。
連邦大統領と副大統領の選出は内閣の責任となり、議会はその権限を失う。
国民党による同イニシアチブは、政府も連邦議会も否決。支持している政党は国民党のみ。
難民申請者の収容場所探しを容易にするため、政府は州や自治体の承認なく最高3年まで、その地域にある軍施設など国が所有する建物を収容所として利用できる。その代わり政府は州に対し、保安対策費用や難民申請者が従事できる作業プログラムを提供。
安全だと見なされている国の出身者に対する不服申し立て期間を短縮。
この2点に関しての反対はほとんどなかった。問題となったのは以下の点。
公共の安全や秩序を乱す、もしくは政府管轄の難民センターの運営を大幅に妨げる難民申請者は特別施設に収容する。
外国の公館における難民申請を廃止。緊急を要する場合は、人道的見地から発給する人道ビザでスイスに入国することができる。その後3カ月以内に難民申請を届け出ない場合は、スイスを出国しなければならない。
兵役拒否者や脱走兵は今後、母国で極端な刑罰を受ける恐れがない場合は難民と見なされない。
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