高速料金は値上げすべきか?
スイスで高速道路を利用するには、ヴィニエットと呼ばれる高速道路利用ステッカーが必要だ。その価格を現行の40フランから100フランに引き上げるスイス政府と連邦議会の方針は強い反発を受け、レファレンダムが発足した。11月24日の国民投票で是非が問われる。
高速料金の値上げ予告後、国民からは大きな不満の声が上がった。「40フラン(約4300円)がいきなり100(約1 万800円)フランでは値上幅が広すぎる」「短期ヴィニエットを使える外国からの高速道路利用者が優遇される」「何台もの社有車を抱える中小企業には不利な条件」などが反対派の意見だ。
反対派は即、委員会を結成し、「高速料金の不当な値上げ阻止」をスローガンに、スイス政府と連邦議会の計画を食い止める署名活動を行った。法案を国民投票に掛けるには5万人分の署名が必要だが、わずか3カ月間で10万7424人分もの有効な署名が集まった。
「車の運転者は税金を支払うばかりで何の見返りもない」と言うのはナジャ・ピエーレン国民党所属の下院議員。ヴィニエットの値上げに反対するレファレンダム委員会の共同委員長も務める。
「値上げをしても渋滞が減るわけでもなく、交通の便が良くなるわけでもない。今ある道路に更に多くの税金を支払うに過ぎず、費用負担が州から国に移行するだけ」と強調する。
スイスの高速道路を利用するには、頻度にかかわらず年間40フランのヴィニエットが必要。
ヴィニエットは1985年に導入され、当時の価格は30フラン(1年間有効)。1995年に現在の40フランに値上げされた。
ヴィニエットはフロントガラスに貼るステッカーで、収益は国が高速道路を建設、運営、整備する資金にあてられる。
今回の100フランへの値上げは、スイス政府と連邦議会が採択した「国道網に関する連邦決議」の実施に欠かせない要件。これは、現存の州道376kmを国の道路交通網に取り入れ、中規模の都市や周辺地域の要望に応えようとする国の施策だ。
この決議により州都は全て国の道路交通網とつながることになる。
また、州が行う道路の増設工事は、国にとっても重要な道路である場合、スイス政府が費用を持ち、財政上の負担を軽減する。これらの新しい道路設備(迂回路、騒音や雪崩防止対策など)の建設、運営、整備に対し、国は3億5百万フラン(約329億円)の追加支出を見込んでいる。
100フランのステッカーに加え、外国からの旅行者は新たに2カ月間有効のステッカーを40フランで入手できるようになる方針。
緑の党も反発
スイスの二大自動車協会、スイス自動車クラブ(ACS)とスイス・ツーリングクラブ(TCS)も政府の草案に反対し、道路事業の財源構造を見直すべきだとスイス政府に要求している。
別の理由から値上げに反対しているのは、環境団体のスイス交通クラブ(VCS)。「さらに多くのお金」を道路建設や新しい国道に費やすことに異議を唱えている。
緑の党もこの草案に反発している。とりわけ、高速道路をこれ以上増やすことは望ましくないとし、高速道路の利用頻度に応じた課金システムの方が、高速道路利用者から均一の金額を徴収するシステムよりも適していると主張。また、80フランに値上げなら同党は同意したという。
EUは短期ヴィニエット(1週間、又は10日間有効)の導入に関し、スイスと協議を始めると予告。
スイスを除き、ヴィニエット制を導入している国全てで、低価格の短期ヴィニエットを購入できる。
値上げを求める国民も
値上げ賛成派にはスイス政府、連邦議会の多数派、スイス建築・計画・環境部長会議、市町村協会、スイスのホテル業者が挙げられる。右派の「ヴィニエット賛成」委員会も値上げを要求している。
「安全で優れたインフラがスイスには不可欠」と言うのはキリスト教民主党の党首クリストフ・ダルベレ下院議員。ヴィニエット賛成委員会の共同委員長も務める。「我々は長年、道路にあまり投資してこなかった。その遅れを取り戻すのは今だ。道路は、我々にとってそれだけの価値があるインフラだ」
ヨーロッパの中で、スイスほど橋やトンネルが多い国はないと同議員は言う。建設費や整備費を考慮すれば「100フランは納得できる金額。意義ある投資だ」。
ドリス・ロイタルト運輸相(同じくキリスト教民主党所属)は9月末、政府によるヴィニエット値上げ賛成キャンペーンを開始した。「ヴィニエットの値上げは市民にもメリットがある。安全性が向上し、迂回路のおかげで車の騒音が減少する町も多い」と同運輸相は国営ラジオで話している。
一方、反対派のピエーレン議員は「今、我々が抱えている道路交通上の問題を解決できないのにヴィニエットを値上げするのは不当な措置。隠れた増税にすぎない」と反発する。
車を利用する人ばかりに負担を押し付けるのは間違っていると同議員は言う。「車を利用する人をいつも搾取して、国が作った財政の穴を埋めるという状況を改めなければならない。我々の値上げ反対の理由はそこにあり、『ストップ!もう限界』と訴えている」
現在のヴィニエットはフロントガラスに貼り付けるステッカーで、非常に剥がしにくい。
先ごろドリス・ロイタルト運輸相は「2019年に」ステッカーを電子式に置き換えると予告。
税関の報告によると、欧州諸国では既に電子式の料金収集システムが導入されている。
メリットは、運営やコントロールが簡単、コスト節約、悪用が減る、など。
ヴィニエットの偽造や使い回しによる被害総額は年間3千万フラン(約32億円)と推定される。
外国人は優遇されているか?
ピエーレン議員が不満に思うことは他にもある。通常のヴィニエットの他に、短期ヴィニエット(2カ月間有効)を新しく導入し、外国からの高速道路利用者を優遇しようという案だ。「不公平なのは、外国人の負担は40フランだけだが、ヴィニエットを12カ月間利用するスイス人はめったに高速道路を利用しなくても、外国人より150%多く支払わなければいけないという点だ」と反発する。
賛成派のダルベレ議員は、外国からの高速道路利用者も支払いを義務付けられている点を評価している。「全て税金でまかなわなくてはならないのであれば、スイス人とスイス企業のみが徴収の対象だ」
「公共の交通手段にはもう十分過ぎるほど投資されてきているのに、(それにひきかえ道路建設はないがしろにされていると)反対派は悲しんできたことだろう。モリッツ・ロイエンベルガー前運輸相の時代は、道路建設に関する話はタブーだった。新しい運輸相の元でやっとこの懸案に取り掛かることができる。早急に取り組まねばならない課題は多い」とピエーレン議員は言う。
ところが、ヴィニエットの値上げで高速道路の整備・拡張資金のあてが出来た矢先に、国民投票という次の難関が立ちはだかった。「今後もスイスというサクセスモデルを維持したいのであれば、決して外せない条件がある。整備されたインフラはその一つだ」とダルベレ議員は言う。
11月24日の国民投票は、スイス政府の決議に対する投票であるため、国民の賛成過半数で可決となる。賛成する州の数が過半数に達するか否かは今回は関係ない。
(独語からの翻訳 シュミット一恵)
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