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高額の医療負担にあえぐスイス国民

医療
基礎医療保険料の度重なる引き上げが、スイス人の最大の関心事になっている。スイス公共放送協会の世論調査でもその傾向が浮き彫りになった Keystone / Martin Ruetschi

スイスの医療制度は高額の医療保険料に加え、患者の自己負担額も大きい。2024年は基礎医療保険料が約10%近く上昇することになり、家計をさらに圧迫しそうだ。 

医療費の増加に伴う基礎医療保険料の引き上げは、もはや毎年の恒例行事と化している。連邦保健庁は26日、民間保険会社が毎年改定する基礎医療保険料が来年は平均で8.7%上昇するとの集計結果を発表した。 

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スイスの保険会社は、加入義務のある基礎医療保険から車両保険や個人賠償責任保険まで、様々な保険を提供している。

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基礎医療保険料の度重なる引き上げは、10月22日の総選挙に向けたスイス公共放送協会(SRG SSR)世論調査で、有権者が最も気にする関心事に選ばれた。政界の議論も熱を帯びる。 

各党は独自の医療制度改革案を打ち出し舌戦を展開するが、簡単に解決できる問題ではない。 

医療費の大部分が保険料と患者の自己負担によって賄われているという事実は、スイスの制度の特徴といえる。スイスに住む全ての人は、基礎医療保険への加入が義務付けられる。民間保険会社が提示するプランを選んで加入するが、その保険料は会社によって異なる。 

基礎医療保険は病気、けがによる医療費全額を負担するわけではなく、被保険者は年間の免責額に達するまでは治療費や薬代を自己負担する。この免責額が高いプランほど、月額の保険料が安くなる。免責額の上限は年間2500フランだ(約40万円)。 

このような仕組みにより、スイスの医療費の25.3%は患者が直接負担する。経済協力開発機構(OECD)によれば(下記グラフ参照)、この数字はOECD加盟国平均を上回る。フランスでは医療費の家計負担は9.3%。ドイツは12.7%、イタリアは23.3%だ。 

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スイスの医療制度に詳しい経済学者のカルロ・デ・ピエトロ氏は、国内医療費に占める個人負担割合は、この数年に急増したわけではないと指摘する。「1996年の基礎医療保険に関する連邦法(LAMal)施行以来、個人負担の割合は高い水準にある。この点で、スイスは欧州でも特殊だ」 

個人の責任に基づく制度 

デ・ピエトロ氏によれば、医療保険は個人の責任を志向する社会的選択の帰結ともいえ「ある種のスイスのシンボル」だ。「豊かな国であるスイスは、医療費の社会負担を増やすことができる。同じく家計に負担させる余裕もある。家計の大部分が裕福だからだ」 

同氏によれば、このスイスモデルが特殊たるゆえんは、医療保険料に被保険者の世帯収入や経済力が考慮されていない点だ。「これは世界でも例外だ。他のほとんどの国では、保険料は世帯収入に比例し、多くの場合、制度は税金で賄われている」 

平等な医療アクセス 

スイスの制度の長所は、誰もが等しく同じ医療を受けられることだ。「貧しい人が神経系の問題を抱えていたとする。その人は中産階級の人と同じ神経科医にかかることができるし、予約も取りやすい」とデ・ピエトロ氏は指摘する。 

また、強制基礎医療保険がカバーする医療行為の範囲は医療費総額の44.3%と、国際比較しても広いと指摘する。これはOECD平均を上回る数字だ。 

同氏は「我々は贅沢な制度を持っている」と言う。しかし、富裕層と貧困層が同額の保険料を支払うこの制度は「貧乏人に高級車を買わせるようなものだ」と、負の側面も指摘する。 

高すぎる保険料 

その結果、国民の多くが保険料の支払いが困難であるか、あるいは全く支払うことができない状態に陥る。ローザンヌ社会福祉保健大学の貧困観測室所長、エミリー・ローゼンシュタイン氏は 「基礎医療保険料の負担が家計をますます圧迫している」と話す。 

医療保険料の支払いにおいて、公的支援を必要とするのは貧困人口の実に4分の1以上に上る。政府は、補助金という形で保険料の減額を認めている。受給者割合は年によって25~30%と、比較的変動が少ない。 

しかし、医療費の急増を受け、連邦と州はこうした公金支出の増額を余儀なくされている。連邦保健庁によると、2005年の約32億フラン(現在のレートで約5200億円)から2021年には54億フラン超となり、15年間で約70%増加した(以下のグラフ参照)。 

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今のところ、補助金は被保険者の負担を軽減する数少ない手段の1つだ。もう1つの救済手段は、補足給付の受給者だけが受けられる。補足給付は、年金や障害者年金を受けてもなお生活が困難な人に支給される政府の公的補助だ。 

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「つまり、補助金は例外的措置ではない。制度の一部だ」とデ・ピエトロ氏は指摘する。そして、医療費が賃金をはるかに上回るスピードで上昇する中、支援を必要とする人の数は今後さらに増える可能性が高いという。 

援助を増やすか、給付を減らすか 

「真の解決策は、最も難しいことではあるが、医療費の伸びを抑えることだ」とデ・ピエトロ氏は言う。実際、医療費はとめどなく上昇している。「医療費を押し上げているのは技術の進歩と人口の高齢化だ。阻止するのが難しい要素でもある」 

制度改善策として別の2つの選択肢を挙げる。「1つは、増税して国庫負担を増やすこと。もう1つは、制度を変えない代わりに保険料を払えない人への補助金を増やすことだ」 

これらの案は左派政党が支持する。社会民主党(SP/PS)は、基礎医療保険料の支払いが所得の最大10%を超えてはならないとするイニシアチブ(国民発議)を提起した。これを実現するため、連邦と州の公金支出を増やすよう求める。 

一方、右派が主張するのは給付削減だ。急進民主党(FDP/PLR)は昨年5月、「低額」保険の設立を提案した。これは保険料固定で「全部型」のサービスを提供するのではなく、必要なサービスだけを選んで保険料を節約する「アラカルト型」に変えるという内容だ。 

独語からの翻訳:宇田薫 

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