2011年の総選挙と各党の主張 - 2 –
今秋10月23日に行われる連邦議会総選挙。前回に引き続き、各主要政党の主張を概観する。
第2回目は急進民主党(FDP/PLR)、キリスト教民主党(CVP/PDC)、その他小政党を取り上げる。
急進民主党(FDP/PLR)
「スイスのために」を合言葉に、かつて長年第一党であった中道右派の急進民主党は、経済基盤の強化および煩雑な行政手続きの簡略化や規制緩和を政策の中心に据えて支持率回復に臨む。
急進民主党の支持率低下はすでに20年以上前から続いている。前回2007年の選挙では36議席から31議席へと議席数が減り、右派の国民党(SVP/UDC)や中道派の自由緑の党(Grünliberale/Vert’libérauxl)に多くの支持者を奪われた。
急進民主党は政治介入の少ない自由経済や個人の選択の自由を擁護してきた。だが近年では特に欧州連合(EU)との関係で市場開放が急速に進み、労働移民がスイスに急増。こうした状況を不安に思う国民への対応の遅れが支持率低下の原因となった。さらに、福島原発事故を受けメディアで脱原発を巡る議論が活発になった中、原発容認派の急進民主党は苦境に立たされた。
だが、現在ではスイスフラン高がメディアを賑わしており、同党が基盤を置く経済政策分野に世間の注目が注がれている。連邦閣僚として内務省にディディエ・ブルカルテール氏を、産業界の代表者であるヨハン・シュナイダー・アマン氏を経済省に送り出している。
キリスト教民主党(CVP/PDC)
「私たちがいなければスイスは成り立たない」。国の繁栄に責任を持つという意味を込めたスローガンの元、中道派のキリスト教民主党は家族支援や再生可能なエネルギー政策で選挙に挑む。現在全州議会では第一党。国民議会では前回の選挙で28議席から31議席に議席数を増やした。
キリスト教で説かれる人間像を党の理念に据え、人種差別や性差別に反対。個人の自由を擁護する一方、社会や家族など人と人との連帯感を重視してきた。今回の選挙戦でも家族支援は同党の重要なテーマだ。現在、子ども手当の非課税および婚姻関係にあるカップルに対する課税削減を求める二つの国民発議(イニシアティブ)成立に向け、署名活動を行っている。
注目すべきは、同党の原発政策に対する急激な変化だ。今年1月に開かれた党大会では当面原発を容認する決定をしたが、福島原発事故を受け、クリストフ・ダルベレ党首は脱原発に向け舵を切った。同党所属で連邦閣僚のドリス・ロイタルト環境・エネルギー相もこれに追従し、連邦内閣の脱原発決定を促す要因となった。ここで得た支持者を総選挙まで引き止められるかが、ダルベレ党首の腕の見せ所だ。
その他小政党
連邦閣僚の座には就いていないものの、徐々に勢力を伸ばしている小政党がいくつかある。
その代表が緑の党(Grüne/Les Verts)だ。環境保護を基本方針に、2007年の総選挙では13議席から20議席へと躍進を遂げた。同党は2008年に原発新設反対キャンペーンを行うなど、いわば反原発運動の「老舗」。福島原発事故により、同党への国民からの信頼度はさらに高まった。ただ、緑の党は同じく左派の社会民主党(SP/PS)と政策に関して共通点が多いため、いかに社会民主党と差をつけ、支持者層を拡大できるかが課題だ。
同じく名前に「緑」をつけている新しい政党がある。2004年緑の党を離党したメンバーが設立した自由緑の党(Grünliberale/Vert’libérauxl)だ。前回の国民議会総選挙では、議席配分が最大の選挙区チューリヒ州で3議席を獲得。同党の基本方針は、環境保護と自由主義経済を調和させていくことだ。環境保護には興味があるが、経済的発展も支持する有権者を多く引き付けており、新しい中道派として支持者を確実に増やしている。
もう一つ注目すべき政党は、2008年に設立された市民民主党(BDP/PBD)だ。2007年連邦閣僚選挙で、国民党(SVP/UDC)が推薦するクリストフ・ブロッハー氏の再選に対し、一部の国民党議員らがブロッハー氏の行き過ぎた右翼的政策に反対。対抗馬として支持した同党グラウビュンデン州支部所属のエヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ現・財務相が連邦閣僚の任命を受諾したため、国民党はグラウビュンデン州支部を追放。そこでグラウビュンデン州支部は市民民主党として新政党を創設した。
現在、市民民主党は国民議会に5議席、全州議会に1議席をが占めているが、これは元々国民党に所属していた議員の議席だ。市民民主党は、社会保障の赤字削減など経済政策を中心に主張しており、いかにメディアの関心を引き付けるかがカギとなっている。なお、原子力エネルギーに関しては脱原発派だが、キリスト教民主党と同様、5基の原子炉の稼動期間終了を待つ「段階的な脱原発」を支持している。
国民党(SVP/UDC)62議席
社会民主党(SP/PS)43議席
急進民主党(FDP/PLR)31議席
キリスト教民主党(CVP/PDC)31議席
緑の党(Grüne/Les Verts)20議席
自由党(2009年以降急進民主党に統合)(LPS/PLS)4議席
自由緑の党(Grünliberale/Vert’libérauxl)3議席
その他 6議席
キリスト教民主党15議席
急進民主党12議席
社会民主党9議席
国民党7議席
緑の党2議席
自由緑の党1議席
州の代表を選出する選挙は、ほとんどの州が国民議会選挙と同時に行う。しかし半州のアッペンツェル・インナーローデンは、連邦議会選挙が開かれる年の4月に青空議会(ランツゲマインデ/Landsgemeinde)を開き、州の代表を住民が直接投票で選ぶ。
主要政党以外にも国民議会に議席がある政党がいくつかある。2議席を獲得しているのは、中道派のスイス福音党(EVP/PEV)だ。そのほか1議席を占めているのは、聖書を党の基本方針にする連邦民主党(EDU/UDF)、共産主義の流れをくむスイス労働党(PdA/PST)、ティチーノ州のみで活動している右派政党ティチーノ同盟(Lega di Ticinesi)、キリスト教民主党(CVP/PDC)から独立して創設された中道左派のキリスト教社会党(CSP/PCS)の4党だ。
(一部情報提供、スイスインフォ・ドイツ語及びイタリア語編集部)
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