欧州連合(EU)との二者間協定の維持、そしてエネルギーシフトの推進と実行。連立与党で中道派の市民民主党はこの2点を次期国会の最優先事項として掲げる。マルティン・ランドルト党首に話を聞いた。
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「選挙の年に、出鼻をくじかれた」。州選挙での敗北を受け、グラールス州出身で下院議員のランドルト氏は率直にそう認めた。だが国政選挙では有権者が州選挙とは別の基準で投票し、市民民主党や他の中道派政党を支持してくれると同氏は確信している。
swissinfo.ch: 市民民主党が次期国会に掲げる最優先事項を二つ教えてください。
マルティン・ランドルト: 一つ目は二者間協定を保持し、EUとの関係をクリアにし、「大量移民反対イニシアチブ」の実施を巡る不透明感を一日も早く払しょくすることだ。
二つ目はエネルギーシフトを着実に推進し、実施することだ。我々はエネルギーシフトでビジネスチャンスを引き出したいと思っている。現在、その第一段階が連邦議会で検討されている。また、第二段階となる環境保護を目的としたインセンティブ(動機付け)型の税制改革については難航することが予想されるため、全力で取り組んでいきたい。
swissinfo.ch: 市民民主党はEUとの二者間協定を維持する方針ですが、具体的にどういった対策をお考えですか?
ランドルト: 我々は二者間協定が重要な柱と考える。欧州に対するスイスの立場には3通りある。一つ目は孤立。二つ目はEUへの加盟。だが我々はその両方とも望んでいない。
従って残された道は三つ目の、これまで通り二者間協定を維持することだ。移民の数を抑制したいという国民の意思は、(大量移民反対イニシアチブの是非を巡る)2014年2月9日の国民投票でも浮き彫りになった。我々はこの三つ目の立場を憲法で規定し、欧州との関係を明確にしたい。
この国民の意思を実現させるには、二者間協定に抵触することなく移民の流入を抑えなくてはならない。我々は、国内労働力の活用がその解決策になることを示した唯一の政党だ。
swissinfo.ch: スイスフラン高の影響を緩和するための対策は?
ランドルト: 正直なところ、特効薬はない。フラン高の影響は顕著になってきており、とても難しい課題となっている。だがフラン高自体は珍しいことではない。フランはここ数十年、安定した強い通貨でありながら輸出産業は好調だった。
だが我々は、決して政治的な日和見主義には陥らないつもりだ。フラン高を理由に、国民から不人気な政策を実行しないというつもりはない。
短期的に効果が見られるような特別な対策があれば、実施するつもりだし、我々も案を練っている。だが、規制緩和や官僚制度の見直しを求める不満の声に関しては、具体性に欠けるうえ、どこの政党もここ何十年と課題として取り上げている。そのため、我々はこの点に関しては今のところ関わるつもりはない。
swissinfo.ch: ここ数年、ヒジャブ(ベール)論議、過激化、テロリズムなどイスラムを巡る議論が絶えません。イスラムはスイス社会でどのように位置づけされるべきだと考えますか?
ランドルト: 国家と宗教が明確に分かれるのであれば、イスラム教はスイス社会で共存していくべきだ。だがカトリックやプロテスタントなど、宗教として授業の科目に取り入れられる宗教とは異なる。
社会的な規制をあまり設けないことに私は賛成だし、市民民主党もそうした立場を取っている。社会生活を営む上で守るべきルールが破られない限り、イスラム教徒も自由に信仰生活が送れるよう、我々は環境を整備しなくてはならない。
swissinfo.ch: 現状では、市民民主党は従来から支持の多かった州(グラウビュンデン州、グラールス州、ベルン州)でのみ優勢が保たれています。スイス全国、特にスイス西部ではどうやって支持率を増やすつもりですか?
ランドルト: 我々は州を三つのカテゴリーに分けている。一つは市民民主党が結成されたグラールス州、ベルン州、グラウビュンデン州。これらの州では、我が党から州政府の閣僚が輩出されている。
もう一つは州政府の閣僚には選ばれなかった州だ。こういった州では熱心に活動する党員が多いにもかかわらず市民民主党の政策を知ってもらうのが難しい。
そして最後に市民民主党が州議会で議席を持つ州。こうした州の中には、我が党が会派を結成しているところもある。バーゼル・ラント準州での選挙結果から分かったことだが、こういった州で一部伸び悩んだようだ。
だからこそ今回の選挙戦への準備は万全だと確信している。これまで市民民主党が取り組んだことで成果があったテーマや、今後も積極的に取り組んでいくテーマを有権者に訴えているからだ。これらのテーマや今までの我々の活躍を判断基準にしてもらえれば、必ず有権者の支持を得られると信じている。
swissinfo.ch: 市民民主党を「連邦閣僚を出す最小の党」と呼ぶ人もいます。現在、市民民主党の政党支持率は5%を若干上回る程度ですが、選挙後も再び市民民主党から連邦閣僚が選出されるチャンスはどれくらいだと予想されますか?
ランドルト: 確かに市民民主党は連邦閣僚を出す最小の政党だ。それは認めているし、実際の規模より大きく見せるつもりはない。今の状況になったのは意図的ではなく、これは「下から上」ではなく「上から下に」勢力を拡大していった、我が党の特殊な背景によるところが大きい。
しかし、我々は「解決策を全面的に打ち出す政党」として確立していきたい。我が党所属の連邦閣僚ヴィトマー・シュルンプフ氏と時には力を合わせ、時には別々の立場を取っていく方針だ。総選挙では問題解決指向型の勢力が支持率を伸ばすに違いない。我々もそうした勢力の一部だ。こうした勢力が連邦議会で過半数を占め、また連邦内閣の過半数を構成するのだと、我々は確信している。
ヴィトマー・シュルンプフ氏は、キーパーソンだ。素晴らしい手腕に加え、エネルギーシフトや企業税改正、金融業界の改革、二者間協定の維持といった長期的に重要なプロジェクトを推進するための「確実な」過半数を勝ち取っている。
swissinfo.ch: 2016年も市民民主党から連邦閣僚が選出されると思いますか?
ランドルト: 恐らく2016年も市民民主党から連邦閣僚が1人出るだろう。力強い中道派、そして力強い市民民主党が閣僚をしっかりとサポートしていく。
市民民主党
2007年12月の連邦閣僚選挙で国民党所属のクリストフ・ブロッハー氏が再選を逃した後、国民党を離党した議員たちが08年11月、グラールス州で市民民主党を結成した。
07年の連邦閣僚選挙では、当時まだ国民党に所属していたエヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ現財務相がブロッハー氏の後任として選ばれた。ヴィトマー・シュルンプフ氏はその後、市民民主党に所属先を変更。以来、連邦内閣には市民民主党から1人輩出されている。
グラールス州とグラウビュンデン州の民主党、及びベルン州の農工市民党が合併し、1971年に国民党が結成された。そのため市民民主党もこれらの州では短期間で多数の支持を得るに至った。現在17州に支部がある。
11年に行われた選挙で市民民主党は大きく躍進。政党支持率は5.4%。国民議会(下院)では9議席、全州議会(上院)では1議席を占めている。
(独語からの翻訳・シュミット一恵 編集・スイスインフォ)
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今秋に行われるスイス総選挙に向け、最大与党の国民党は経済問題の解決に向けて指揮を執ろうとしている。他の保守政党とともに規制緩和を目指していけば、輸出産業に強く依存するスイス経済はスイスフランショックの影響を跳ね返すことができるとトーニ・ブルンナー党首は話す。
自党を「右派で、リベラルな保守派」と位置づけ、影響力の強さを武器に10月の総選挙に臨む国民党。移民規制や、欧州連合(EU)からの独立を政策の中心に捉え、過去10年間は絶えずトップの支持率を得てきた。
swissinfo.ch: 国民党は2007年の総選挙で支持率を29%まで伸ばし、11年の総選挙では03年と同様、約27%でした。今回の総選挙では確実に票を伸ばしたいと考えているようですが、目標ラインは30%ですか?
トーニ・ブルンナー: 前回の総選挙結果を固め、可能な限りこれまでの得票数を上回ることが我々の目標だ。現在、国民党は他党を引き離し、最も高い支持を得ているため、このまま限りなく支持率を伸ばすことはできない。結局のところ、国民党も他党と同じように競争にさらされている。
連邦議会と政府では現在、中道左派が多数を占めているが、この現状を変えたいのであれば、国民党が票を伸ばさなければならない。
swissinfo.ch: 次の任期に向けた、国民党の最優先事項2点について教えてください。
ブルンナー: 一つ目は、連邦政府がEU間との交渉において、スイスとEUを制度的に結びつけようとしていること。ここで問題となっているのはスイスの独立性や国民主権で、我々はそれらを何としても守りたいと考えている。直接民主制、国民の政治参加、自由、中立性、そして連邦主義という国の核となる部分が危険にさらされている。
そして二つ目は、スイスの企業にとって魅力的な枠組みを作り、雇用を確保することだ。特に税制面に注目する必要がある。また、スイス国立銀行が対ユーロの上限撤廃を決定した今、(各政党が団結して)規制緩和に向けて取り組むことが重要となっている。ここでは国民党が先陣を切り、急進民主党、キリスト教民主党と経済強化を目指すことで合意した。
swissinfo.ch: スイス経済は規制圧力の低下を歓迎しているようですが、一方で、国民党の政策にはスイス経済と対立している点があります。経済連合エコノミースイスは、国民党が提案した移民規制案が実施されれば、EUとの2者間関係が壊れるかもしれないと強く警告しています。国民党はスイス経済と対立していませんか?
ブルンナー: いや、スイス経済とはうまく折り合いをつけている。我々は国民から、「国が今後、再び移民規制を行い、移民数の減少を図る」という新憲法規定を実施するよう委託されている。それはつまり、移民数の国別の割り当て、スイスに滞在する外国人の上限数の設定、また労働市場における自国民の優遇をするということだ。
これからカギとなるのは、これをどう計画し実施していくかだ。2者間協定の全てに疑問符をつけようとする人はいない。しかし、労働者の自由な移動に関する協定の改定をめぐりEUと再交渉することが必要だということは、誰の目にも明らかだ。他に方法はない。
この協定には問題がある。協定のせいで移民は急増し、人口は毎年1%増加した。それに伴い行政手続きも増えた。協定を実施する際に導入された補足的措置についても考えてみてほしい。他党の代表たちもまた、大量の移民数を減らせるようにすることは大切だと考えている。だが、これまでは誰も行動に移さなかった。
swissinfo.ch: 労働者の自由な移動を制限することに関し、EUはスイスに全く譲歩していません。
ブルンナー: スイスとEUの両者とも、必要もないのに2者間協定の全てを取りやめてしまうことはないだろう。ただ、EUが交渉を拒否した場合は、スイス側から破棄を申し出るだろう。しかし私は、両者とも解決策を模索していく構えがあると思っている。
たとえばスイスの移民数が過剰に多いという点に関しては、スイスが説明をすれば、EUは理解を示すだろう。現在、スイスの移民の年間流入数は10万人に達する勢いで、これは人口800万人の国にとっては多すぎる。
もし連邦政府がEUに対し「我々は国民から移民規制案の実施を委託されている。あなた方に交渉する構えがないのであれば、我々は2者間協定を破棄しなければならない」とはっきり意思表示をするのであれば、結果は見えてくるだろう。EUが破棄を望むのか?それは疑わしい。
もちろん、スイス国内にも移民規制案に反対するグループは存在しており、すでに移民規制案を取り下げるための国民投票を呼びかける声も上がっている。もしそうなれば、それは国民党にとって断然有利となる。国民主権の、世界に対しオープンなスイスを望むか、それともEUに取り入り、EUに加盟することを望むかが国民に問われるからだ。
swissinfo.ch: 連邦政府や経済界、左派から右派の各政党は、スイスがEUと2者間協定を結んでいたおかげで、他のヨーロッパ近隣諸国と比べて金融危機にうまく対応できたと考えています。
ブルンナー: スイスの経済的豊かさが、EUとの協定によるものであるという考えは一度無くしたほうがいい。先にも述べた通り、誰も2者間協定に反対しようとはしていない。私にとってこの協定は、同等の立場の当事者が平等に取り決めたもので、必要なものだ。しかし、スイスは世界に開かれた国であり、ヨーロッパの国々だけと関係を築いているわけではない。
スイスが安定している更に大きな要因は、スイス独特の直接民主制にある。国民が最終的な決断を下し、政治家がただ自身の好きなように政治を行うことはできないとわかっているため、政治の考え方や取り組み方も他とは違う。
調査によれば、スイスは世界に対し最も開かれた国の一つだという。EUとの協定がスイス経済の豊かさを保障するものかどうかは、数値化することはできない。また、近年は不法労働、麻薬取引、売春なども国内総生産(GDP)に含まれているため、GDP成長率を指標とする際は気をつけなければならない。
swissinfo.ch: 近年、女性が頭に巻くスカーフや、過激化、テロなど、イスラム教に関する話題がよく取り上げられます。スイス社会にとってイスラム教はどのような立ち位置となるのでしょうか。
ブルンナー: スイスはキリスト教に基づいた国で、憲法の前文にも「神の名において」とある。しかし、スイスは他の宗教に対して寛容で、信仰の自由が認められている国だ。表現の自由、集会の自由など基本的な人権が誰にも平等に与えられる。しかし同時に、スイスで暮らし、こうした自由を享受したいのであれば、他の宗教や文化がスイスの価値観に対応していかなければならない。スイスに暮らすのであれば、この国の秩序を守らなければならないということは、誰もが知っておくべきことなのだ。
もっと読む スイス第一党の国民党「断然有利な立場で選挙戦に臨む」
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