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スイスの難民制度、改正めぐり再び国民投票に

チューリヒの難民センターは2014年、難民審査の簡易化を試験的に実施。簡易化により、審査にかかる期間や費用が削減できた Keystone

スイスではまたしても難民制度の改正をめぐり是非が問われる。難民申請検査の迅速化とコストダウンを目的にした改正案だが、右派が反対している。押し寄せる難民の数が過去最高に達した欧州連合(EU)にとっても、今回のスイスの国民投票は注目に値する。

 スイスの難民制度はまるで大規模な工事現場のようだ。改正されたかと思えばまたすぐに次の改正案が浮上する。難民制度が導入された1981年以来、ほぼ3年おきに改正が行われた。その数はすでに十数回。そのうち5回は国民投票が行われた。

 国民党は90年代以降、難民法の強化を訴えることで支持者を増やしてきた。今や難民問題が国民党の選挙活動の主要なテーマになっている。近年では中道派の有権者からも支持を増やしている。

 それに対し左派は、スイスが持つ人道支援の伝統を強調してきたが、重ねて敗北。難民認定法の強化法案が連邦議会で承認された際は、その取り消しを求めて国民投票を行うこと(レファレンダム)が何度かあったが、結果はいつも惨敗だった。

 6月5日に行われる国民投票の注目すべき点は、その立場が全く逆である点だ。今回は連邦議会が承認した難民法の改正案を左派が支持し、右派はその取り消しを求めてレファレンダムを起こした。

 「従来の改正は全て、難民法の強化が目的だった」とセスラ・アマレル下院議員(社会民主党)は言う。「しかし今回は、難民申請者の法的保護の強化や、難民認定制度の改善が議会で認められた。左派が改正を支持するのはそのためだ」

難民認定の迅速化へ

 難民法の改正は2015年に連邦議会を通過。今回の最大の目的は難民認定手続きの迅速化だ。難民認定を拒否された人を迅速に祖国に送還し、また難民として認められた人が早く職を見つけられるようにする。

 現在は400日掛かる手続きも、今後は簡易化により最長140日間で審査が完了する予定だ。この期間中にまだ不明点が残る場合は、1年の審査期間が与えられる。

 この改正案ではさらに難民申請者の権利保護が強化される。例えば初めから無償で弁護士などの法的な援助が受けられるようになる。

 チューリヒの難民センターで14年に実験的に行われた試みでは、認定手続きの期間が39%短縮され、苦情の数も33%減少した。また、自主的に帰国する人の数は3倍になった。

 認定制度が簡易化されれば、今後は新たに政府が直轄する難民センターで全体の6割のケースが処理される。センターには公務員の他にも通訳、弁護士、送還の相談を受ける職員が常に配置される予定だ。

 新難民センターは、従来の1400人から3倍以上の5千人が収容できる予定。難民認定が複雑なケースは、これまでと同様に州管轄の難民センターが手続きを担当する。

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「まるでスイスへの招待状」

 スイス政府の概算では、新難民センターの実現には増改築、新築、職員の採用など、約5億フラン(約553億円)の費用が発生する。しかし法改正により、中期的には、政府及び州は年間約2億フランが節約できる見通しだ。

 改正案は当初、主要党派全てに支持されていたが、15年に入り国民党が連邦議会で反対姿勢を示した。改正は不必要で逆効果というのがその理由だ。連邦議会で改正案が承認された数日後の9月、国民党は6万5千件の署名を集めレファレンダムを立ち上げた。

 「この改正法は11年の時点で考案された。まだ難民申請数が昨年の半分に過ぎず、ダブリン協定もある程度機能していたころの話だ」とアルベルト・レシュティ下院議員(国民党)は言う。「他の欧州諸国が国境を閉鎖する中、スイスは難民の受け入れを増やそうとしている。スイスで難民申請者の大半を占める経済移民をどうやって拒否、送還するか解決策を見つける代わりに、スイスへの招待状を出しているようなものだ」

 国民党はまた、無償の法的保護に反対している。「難民申請者が皆、無償で弁護士を頼めるのは納得がいかない。これはスイス市民にさえ与えられていない特権だ。従って連邦憲法が定める平等待遇の原理に反する」とレシュティ氏は続けた。

州と自治体も改正に賛成

 これに対し「それは正しくない。金銭に余裕のない国民は皆、無償で法的保護を要求する権利がある」と前出のアマレル氏は反論する。「難民申請者には法的な代弁者がいることが大変重要だ。難民申請者の大半は我々の法律制度を知らないため、難民手続きがどのように機能するか分かっていない。そのため、(弁護士に無償で相談できたら)申請が拒否された場合でもその理由を納得しやすく、異議申し立ての数も減る」

 国民党は他にも、政府の施設内に新難民センターが設置できる点を批判している。その施設が立地する州や自治体は、それを認めることも拒否することもできない。しかも場合によっては政府が土地を収用することもありうるという。

 「政府が新しい収用権を得ることになれば、我々の法的制度に真っ向から対立することになる。市民の権利や、州・自治体の自治権を奪うことで難民問題を解決するのは間違っている」とレシュティ氏は強調する。

 だが「その論理は理解できない。今回の難民法の改正は、14年に州及び自治体の代表ら全員一致で承認された」とアマレル氏は反論する。「この改正の実現に向け、政府は難民センターをいち早く整え、そこで難民審査ができるようにする必要がある。それは州や自治体も望んでいることだ」

歴史的な数の難民申請者

昨年、欧州諸国で140万人の外国人が難民申請した。これは2014年の2倍以上。スイスでは15年に3万9523件の難民申請があった。これは前年比で66.3%増。

昨年に欧州全体で提出された難民申請のうち、3%はスイスで提出された。これは過去20年間で最低の値。12年にスイスが占める割合は8.2%だった。

ただし人口に対する難民申請数では、スイスは欧州で7位。15年には住民千人に対し4.9件の難民申請があった。欧州の平均は2.9件。

昨年、難民申請者の出身国はエリトリアが9966人でトップ。以下アフガニスタン(7831人)、シリア(4745人)、イラク(2388人)、スリランカ(1878人)、ソマリア(1253人)、ナイジェリア(970人)と続く。

スイスの難民法

難民法は長い間、外国人法の一部だった。1981年に独自の法律となり、発足当初はかなり寛容な内容だった。

以後、スイスの難民法は十数回にわたり部分的、全体的に改正が行われ、強化の一途をたどった。

難民法改正案はこれまで4回(1987年、99年、2006年、13年)国民投票に掛けられ、4回とも可決された。

ただし02年に国民党が立ち上げた「難民権の悪用に反対するイニシアチブ」は国民投票の結果、反対50.1%で、紙一重で否決された。

(独語からの翻訳・シュミット一恵 編集・スイスインフォ)

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