スイスが中国で気候変動対策に取り組んでいる。2国間プロジェクトでスイスの大気浄化やエネルギー効率の技術を供与する。中国の大都市を「実験室」に、自らの研究成果を実証しようという試みだ。
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中国陝西省の省都、西安。兵馬俑の存在で世界的に知られ、シルクロードの起点としても有名だ。中国有数の大都市であるここでも、大気汚染との戦いに直面している。
人口14億人、経済規模は世界第2位を誇る中国にとって、空気の浄化は国家的プロジェクトだ。目的達成のために、まずは中国の大都市が空気の質をリアルタイムで監視できる測定システムを備えなければならない。
スイスは大気化学に関して特殊な知識や先端技術を持っている。大気中のさまざまな粒子を特定・測定し、分類して分析できるのだ。こうした技術を中国に提供するプロジェクト「クリーン・エア・チャイナ(CAC)」が20日発動した。
スイス連邦外務省開発協力局外部リンクのヤニーネ・クリガー気候変動・環境グローバルプログラム課外部リンク長は、CACの目標は5年の共同事業で各都市の大気汚染源を、ほぼリアルタイムになるべく自動的に、なおかつ高いクオリティで特定することだと説明する。これにより、中国政府は科学的な裏付けに基づいた大気汚染対策を練ることができる。
安上がりなプロジェクト
クリガー氏は、気候変動のような世界的課題に対して知見を共有する2国間プロジェクトは、他のやり方に比べれば安上がりだと話す。開発協力局は必要に応じてスイスの大学や研究機関、民間企業にも知見を求める。
プロジェクト費用はスイスが320万フラン(約3億5千万円)、中国が約570万フランを負担する。実施パートナーとしてパウル外部リンク・シェラー研究所(PSI)外部リンクやスイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)、スイス連邦材料試験研究所(Empa)外部リンクが協力。中国側は中国科学院外部リンク、中国環境保護部、西安市の他に北京、石家荘市、廊坊市、武漢市、重慶市の5都市が参画する。
スイスにとっても得るものは多い、とクリガー氏は考える。「中国各都市はいわば出張実験室のようなもの」。スイスも中国という大規模な環境で実験することによって、汚染源のデータバンクがより充実し、新しい汚染対策を立てやすくなる。
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「信頼できるパートナー」
中国との共同事業は何を意味するのか?中国政府は科学的知見に基づいた政策の立案・改革にかじを切っている。そして「中国側にはプロジェクト実施に信頼できるパートナーがそろっている」(クリガー氏)。
実はスイスが中国の大気浄化事業に協力するのはこれが初めてではないという。2010~15年にも、スイスがとった大気汚染対策の経験を中国と共有。16年の中国の大気汚染防止法改正に貢献した。
今後は建設業界でも
こうした協力事業は開発協力局の主要任務の一つ。特に中国のような急速に都市化が進む国への協力は持続可能な国土形成、ひいては気候変動の阻止に欠かせない。
気候変動・環境グローバルプログラムの2国間事業に関する予算は年間約3千万フラン。ただ国ごとの予算が決まっているわけではない。クリガー氏は「過去数年、中国でのプロジェクトには毎年400万~500万フランを投じてきた」と話す。
今後、中国と建設分野でも協力していくことを検討中だ。課題は建物のエネルギー効率。開発協力局は2011年以降、インド外部リンクで似たような事業を行っている。中国では全エネルギー消費の2割以上を家屋が占めている。
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