2010年の主な出来事を振り返る
2009年から持ち越されたUBS銀行顧客の脱税容疑をめぐるスイスとアメリカの争いは、今年一応の決着を見た。日本との協力関係では日・スイス租税条約改正議定書に署名するなど、飛躍の年になった。
内政では連邦大臣2人が辞任。新内閣は初めて女性が多数を占めることになった。一方では、観光客に人気の氷河特急が脱線事故を起こし、日本人女性が死亡するという悲しい出来事もあった。
UBS銀行の顧客情報開示
連邦行政裁判所は1月8日、UBSがアメリカ金融当局に約250件のアメリカ人顧客情報を開示したことに対して違法判決を下した。その後、裁判所は決定権を連邦議会に譲り、6月、連邦議会は4450件の顧客情報開示を承認。これによってUBSに対する民事訴訟は回避された。
バンクーバー冬季オリンピック開催
2月12日、バンクーバー冬季オリンピックが開幕。スイスは金メダル6個、銅メダル3個を獲得。そのほか4位が6人、10位以内に27人が入った。金メダルはアルペンスキーのカルロ・ヤンカ、ディディエ・デファゴ、スキークロスのミヒャエル・シュミットらの手に。ジャンプのシモン・アマンはソルトレイクシティ大会の後2度目の個人2冠を達成。
国民投票 I
3月7日、「企業年金制度改正」と「動物弁護士導入」について国民投票が行われた。企業年金基金の運営悪化のため法定利回りを引き下げる法案は、国民の72.2%が反対。また、動物虐待で刑事訴訟に発展した場合に、動物側に立つ弁護士を確保するためのイニシアチブも否決された。連邦政府は現行の動物保護法で十分という見方をしており、国民はその意向に沿った形となった。
ローザンヌバレエコンクール創始者死去
4月3日、ローザンヌ国際バレエコンクールの創始者フィリップ・ブランシュバイグ氏ががんのため死去。享年82歳。プランシュバイグ氏は1997年まで同コンクールを率い、引退後もダンス界のために尽力した。
アイスランドで火山噴火
アイスランドの火山噴火の影響でヨーロッパの空の交通が麻痺状態に陥った。スイス領空も4月15日から21日まで閉鎖され、航空会社スイスインターナショナルエアラインズ ( Swiss International Airlines/略称スイス ) は十億円単位の被害を被った。この間、被害にあった同社の乗客数は20万2184人に上った。また、スイス連邦鉄道 ( SBB/CFF ) は5日間で合計163本の臨時列車を運行し、運輸費および人件費に280万フラン ( 約2億4500万円 ) を費やした。
全国で禁煙
5月1日、公共施設内での喫煙が禁止に。受動喫煙から国民を守るために新しい連邦法が発効したが、床面積が80平方メートル以下の飲食店は喫煙の認可を得ることができるなど、例外も認められている。
スイスと日本が租税条約改正議定書に署名
5月21日、ハンス・ルドルフ・メルツ財務相 ( 当時 ) と小松一郎特命全権大使がスイスの首都ベルンで「所得税に対する租税に関する二重課税の回避のための、日本国とスイスとの間の条約を改正する議定書」に署名した。議定書には、投資先の国におけるライセンス使用料に対する課税、持株が50%以上の会社の配当に対する課税が免除になるなどの改正が盛り込まれた。
リビアの人質解放
6月14日未明、2年間リビアに拘束されていたマックス・ゲルディ氏が帰国。2008年夏、リビアの最高指導者ムアンマル・カダフィ大佐の息子夫妻が傷害などの疑いでジュネーブ警察に逮捕された。その後名誉を傷つけられた報復として、ゲルディ氏は旅券法違反と非合法入国の罪で投獄された。もう1人のスイス人ラシド・ハムダニ氏が2月22日に解放された後も、ゲルディ氏は旅券法違反と非合法入国の罪で出国できなかった。ゲルディ氏解放にはスイスのミシュリン・カルミ・レ外相をはじめ、ベルルスコーニ伊首相、スペインやマルタの外務大臣などの協力があった。こののち、カルミ・レ外相がひそかに人質救出計画を練っていたことが明らかになり、連邦内閣での独走が非難された。
ハイエック氏死去
6月28日、スウォッチの創業者ニコラス・G・ハイエック氏が心不全のため82歳で亡くなった。ハイエック氏はスウォッチグループ ( Swatch Group ) の取締役会長を務めており、執務中に倒れた。安価な腕時計「スウォッチ」は1983年代に世界的な人気を博し、斜陽のスイス時計業界のカンフル剤となった。
スイスと日本 覚書に署名
7月5日、連邦外務省 ( EDA/DFAE ) のペーター・マウラー事務次官と小松一郎特命全権大使がベルンで、外務省レベルの協力関係強化に向けた大綱策定に関する覚書に署名。民主主義と権利、国際的な研究施設の改革、軍縮と不拡散の促進、人の安全の改善などの分野で協力が行われる。スイスにとって、日本は中国に次いでアジアで2番目に重要な取引国。
ポランスキー監督釈放
2009年9月26日にチューリヒ空港で逮捕され、グシュタード ( Gstaad ) の別荘に軟禁されていたアメリカの映画監督ロマン・ポランスキー氏が7月12日釈放された。ポランスキー氏はチューリヒ映画祭の授賞式に出席するため空港に降り立ったところを、アメリカ当局の国際指名手配により逮捕された。しかし、結局アメリカへの身柄引き渡しはなかった。
氷河特急が横転事故
7月23日昼過ぎ、観光客に人気の氷河特急が脱線事故を起こし、日本人女性1人が死亡した。原因はスピードの出し過ぎ。事故はヴァレー/ヴァリス州フィーシュ ( Fiesch ) の手前で起こり、乗客230人のうち40人が重軽傷を負った。うち28人が日本人。事故現場は緩いカーブになっており、全車両がカーブを曲がりきったあとに加速すべきところを、加速のタイミングが早過ぎたため最後の6両目が脱線。4両目と5両目もそれに巻き込まれた。
潤う国庫
8月11日、ハンス・ルドルフ・メルツ財務相 ( 当時 ) が2010年上半期の黒字収支を発表。当初は20億フラン ( 約1620億円 ) の赤字が予想されていた。しかし、景気回復で国民総生産 ( GNP ) の伸びが上昇したほか、支出も予算を下回る見込みとなり、2010年は最終的に黒字で締めくくることができそうだ。
カムバック
陸上の欧州世界選手権バルセロナ大会で、マラソンのビクトール・ロスリンが金メダルを獲得。肺塞栓症を2度患った上、かかとの故障で手術も受けるという不運が続き、2008年の北京オリンピック以来初めての大会出場だった。
女性多数の連邦内閣
9月22日、女性多数派内閣誕生。辞任を表明した連邦環境・運輸大臣及び連邦財務大臣の席を巡る新閣僚選挙で、連邦議会は社会民主党 ( SP/PS ) のシモネッタ・ソマルガ氏と急進民主党 ( FDP/PRD ) のヨハン・シュナイダー・アマン氏を選出。女性のシモネッタ・ソマルガ氏が閣僚に選ばれたことで、女性の閣僚が7人中4人になりスイスの政治史上初めて、女性多数派内閣が誕生した。
国民投票 II
9月26日、第4回失業保険改正法案が国民投票で承認された。失業保険 ( ALV/AC ) は今年6月の時点で約70億フラン ( 約6000億円 ) の赤字を計上。その対策として、保険料率の引き上げや給付期間の短縮などが実施されるが、そのしわ寄せは若年層にいくとみられている。
トンネル貫通
10月15日、新ゴッタルド基底トンネル貫通。午後2時17分、スイス南部のゴッタルド山塊の地中を縦貫する新ゴッタルド基底トンネルがついに貫通した。貫通式では、作業員が最後に残された厚さ1.8メートルの岩盤を掘削。トンネルが南北を突き抜けた。これは全長57キロメートルの世界最長の鉄道トンネルで、最終的に開通するのは2017年の予定。
国民投票 III
11月28日、外国人犯罪者の国外追放強化。国民投票で「重罪を犯した外国人、または社会保障 を悪用した外国人の滞在許可証を自動的に取り上げる」という右派国民党のイニシアチブが承認された。スイスで生まれ育ったがスイス国籍を持たない移民の第2、第3世代が不安感を覚えている。反外国人を旗印に掲げる国民党 ( SVP/UDC ) は、昨年の国民投票のイニシアチブ「イスラム寺院の尖塔ミナレットの建設禁止」に続く第2回目の成功を収めたことになる。
フェデラー上り坂に
11月29日、ロジャー・フェデラー5度目のマスターズカップを手に。世界最強トップエイトが年間チャンピオンの座を競う「ATPワールドツアー・ファイナル」の決勝戦は、世界ランク1位のラファエル・ナダルと2位のスイスのフェデラーの夢の対決となった。結局フェデラーはナダルを6-3、3-6、6-1で破り、5度目のファイナル優勝を果たし、イワン・レンドルとピート・サンプラスの記録に並んだ。
ウィキリークスもスイスで波紋
2006年に立ち上げられた告発サイト、ウィキリークス ( Wikileaks ) は、アフガニスタン戦争やイラク戦争に関する機密情報をネット上で大量に公開してきた。スイス郵便の金融部門ポストファイナス ( Post Finance ) は12月6日、登録されていた住所が架空のものだったという理由で、ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジュ編集長がジュネーブに開いていた寄付金用口座を閉鎖したと発表。その後、アサンジュ編集長に同情したハッカーたちがポストファイナンスのサイトに攻撃を仕掛け、同サイトは一時機能不能に陥った。
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