スイスで19日、国民投票が行われた。欧州連合(EU)の銃規制強化をスイスも踏襲するか否かと、法人税改革と年金の追加財源確保を合体させたスイス版「税と社会保障の一体改革」はいずれも賛成多数で可決された。バーゼルの巨大水族館建設は住民の支持を得られなかった。
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マルチメディア・ジャーナリスト。2017年にswissinfo.ch入社。以前は日本の地方紙に10年間勤務し、記者として警察、後に政治を担当。趣味はテニスとバレーボール。
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2019年5月19日の国民投票結果
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EUの銃規制強化
EUの銃規制強化に伴う国内法改正案は賛成63.7%、反対36.3%で可決された。法改正に伴い、大型マガジン(弾倉)付きの半自動銃の所有は厳しい規制が課せられる。
改正法案では、銃器の部品に製造元がわかる識別番号を付記して追跡を容易にし、闇取引対策も強化するほか、シェンゲン条約加盟国で緊密な情報共有を図る。
大型のマガジンを持つ半自動銃は今後「禁止」武器に分類され、所有する場合は特別な許可を得る必要がある。スポーツ射撃をする人は5年、10年後に射撃団体に所属するか、または定期的に射撃に参加していると証明しなければならなくなる。
ただスイスは兵役義務がありスポーツ射撃が盛んなため、政府は関係団体の反発を懸念し、EUと交渉の末、兵士は退役後も従来通り「(軍で使用している)半自動銃の自宅保管とスポーツ射撃への使用」を認めるなどの例外規定を設けた。
テロ事件などを受けEUは2017年、犯罪目的の銃使用を防ぐため銃規制を強化。スイスはEU非加盟だが、すべてのシェンゲン協定加盟国は規制を適用するよう求められていたため、スイスも国内法の改正案を議会で可決した。シェンゲン協定にとどまるため不可欠な措置だったというのが理由だ。
ただ半自動銃の規制強化をめぐっては、国内の射撃協会関連団体が強く反発し、保守派の国民党も「スイスの安全が弱体化し、警察の業務負担が増大する」などと批判。スイス射撃協会(IGS)や国民党議員らが法の見直しを求めるレファレンダム外部リンクを提起した。
連邦政府、国民党を除く全政党はいずれも銃規制法改正案を支持していた。
世論調査団体gfs.bernが実施した4月末の世論調査では賛成65%、反対34%で、賛成が優勢だった。
投票率は43.3%だった。
スイス版「税と社会保障の一体改革」
法人税改革と年金の追加財源確保を合体させたいわゆるスイス版「税と社会保障の一体改革」は賛成66.4%、反対33.6%だった。
2017年2月の国民投票で否決された第3次法人税改正法案と、同年9月に否決された抜本的な年金改革案を練り直したもので、正式には「税制改革およびAHV財源確保に関する連邦法」(STAF)と呼ばれる。
国際企業への優遇税制を廃止して国内拠点の企業に一律の課税ルールを適用する一方、税率を低く抑えて国際競争力を維持する。研究開発費の追加控除などのほか、法人税改正後に税収が減る州に対し、より大きな補償を行う。これらを盛り込んだSTAFが可決されたことで、スイスで国際水準に則った法人税制が実現する。
今回の改革により、短期的には法人税収が20億フラン(約2200億円)減るが、日本の国民年金に当たる遺族・老齢年金(AHV)の保険料を被雇用者、雇用者ともに0.15%引き上げる。年金保険料の引き上げは過去40年間で初めてで、国庫負担の引き上げと合わせ、減収分を相殺する毎年20億フランの追加財源を確保する。
国際基準に則った法人税制度と年金の追加財源確保は政府の喫緊の課題だった。政府は一度否決された法案を、より国民の支持が得られるような内容に修正し、さらに合体させることで2つの政策を一気に前進させる狙いだった。
ところが、左派の緑の党などが「改正案は2つに分けて国民が正しい選択を行えるようにするべき」などとして、同法案に反対するレファレンダムを提起。必要な署名を集めて国民投票に持ち込んだ。
連邦政府のほか急進民主党、社会民主党、キリスト教民主党などが改革法案を支持していた。
4月末の世論調査外部リンク(5817人対象)でも賛成59%、反対35%で、可決が優勢とみられていた。
投票率は42.7%だった。
バーゼルの巨大水族館は水の泡に
バーゼル・シュタット準州では、バーゼル市の巨大水族館建設をめぐる住民投票があり、建設反対が54.56%で賛成の45.44%を上回った。
バーゼル動物園外部リンクが10年前から進めていた計画で、数千匹の海洋生物、淡水生物を集めた巨大水族館(Ozeanium)外部リンクを市中心部に作るというもの。市が建設計画を承認したが、環境保護団体のフランツ・ヴェーバー財団などが「持続不可能なプロジェクトだ」などとしてレファレンダム外部リンクを提起、住民投票に持ち込んだ。
投票率は55.49%だった。
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