2024年施行のスイスの新法・新規則
年金制度改革、インターネットや電話の監視強化、出産後の死亡に伴う忌引休暇日数の引き上げなど、スイスで1月1日に施行された新たな法律・規制の一部を紹介する。
電気自動車:電気自動車も今年から自動車税の課税対象になった。1997年に始まった免税措置は廃止された。電気自動車には、人・物の輸送に使用される自動車に対する通常税率4%が課される。小売価格ではなく輸入価格が課税対象。電気自動車の年間輸入台数は2018年の約8千台から2022年には4万5千台以上に増加した。
乳がん:特定の高リスク遺伝子に伴う予防的な乳房・卵巣摘出術の費用が、強制加入の基礎医療保険でカバーされるようになる。これまでは、2つの特定の遺伝子変異がある場合のみ保険が適用されていた。
年金改革:年金制度改正の第1弾が施行された。年金の一部繰上げ・繰下げ受給が全ての人に可能になる。例えば労働時間を減らして、減給分を年金でカバーすることもできるようになる。また年金受給開始年齢(定年)後も給料をもらって働く人は、収入に対して年金保険料を支払うか、月1400フラン(約23万円)の手当を受けるかを選択できるようになる。これには、被保険者がこれまで収めた保険料の不足分を埋め、年金受給額の上限まで補てんできるメリットがある。
映画:スイスのオンラインストリーミングサービスおよびテレビサービスは、国内で得た収益の最低4%をスイスの映画製作に投資し、配信コンテンツ全体の少なくとも30%を欧州制作の映画や番組に割り当てなければならない。これは、2022年5月に国民投票で可決された、いわゆるネットフリックス法に基づくルールだ。これにより、国内の映画製作者や映画のロケ地としてのスイスは、主にシリーズやオーディオビジュアル形式などのコンテンツ制作にあたり、年間推定1800万フランを自由に使えるようになる。
インターネット:スイスに居住する人、またはスイス国籍を持つ人は、.swissで終わるドメイン名を取得できる。建築家や工芸家など、商業登記簿に登録されていない個人事業主も.swissのドメイン名を取得できる。
気候: スイスの大企業は、気候関連報告書の発行が義務付けられる。従業員500人以上、貸借対照表総額2千万フラン以上、または売上高4千万フラン以上の株式公開会社、銀行、保険会社が対象。報告書は、少なくとも10年間は公開されなければならない。企業は、気候変動関連活動に伴う財務リスクを説明し、その活動が気候に与える影響についても開示することが義務付けられる。直接・間接的な温室効果ガス排出の削減目標を、実施計画とともに説明しなければならない。
消費者ローン:消費者ローンの上限金利は、現金融資の場合11%から12%に引き上げられる。また、クレジットカードなどの当座貸越の上限金利も13%から14%に引き上げられる。
法人税: 国際的に活動する大企業に課される法人税率の下限は、2024年の課税年度から15%となる。連邦政府は、OECD(経済協力開発機構)とG20諸国が合意した最低法人税率を実施する。全世界での年間売上高が7億5千万ユーロを超える企業(スイスで事業を行う企業の約1%が該当)に適用される。
コソボ国民:コソボ人は90日以内の滞在であれば査証なしでシェンゲン協定加盟国に入国できる。この免除措置はスイスにも適用される。バイオメトリクス(生体認証)パスポートを所持していることが前提条件。スイスで就労するにはビザが必要。
充電ネットワーク: 携帯電話・その他ワイヤレス機器用向けに、統一された充電プロトコルとインターフェイスが国内で導入される。広く普及するUSB-C規格が使われる。タブレット端末、デジタルカメラ、ノートパソコン、ヘッドフォン、電子書籍リーダーなど、ワイヤレスコンポーネントを搭載したその他の機器にも適用される。製造業者は、機器の充電特性や充電器が付属しているかどうかについて、パッケージや添付文書で消費者に通知しなければならない。また、充電器が付属していない製品を提供する義務もある。
付加価値税(VAT):スイスの消費は再び割高になる。商品とサービスの付加価値税が7.7%から8.1%に引き上げられる。食品に対する軽減税率も2.5%から2.6%に引き上げられる。
監視:インターネットや電話のデータを監視するための当局の選択肢が増える。例えば匿名の爆弾予告電話を追跡し、危険が及ぶ可能性がある人たちの居場所を特定することが容易になる。法執行当局も、より迅速なデータアクセスが可能になる。これまで当局が要請してから電気通信サービスが対応するまでに1日を要していたが、これが6時間に短縮される。
郵便:スイス郵便は手紙と小包の料金を値上げする。手紙のA(優先)およびB(一般)の郵便料金はそれぞれ0.10フランの値上げ(Aが1.20フラン、Bが1フラン)、小包はプライオリティ(優先)、エコノミー(一般)それぞれ1.50フランの値上げとなる。
忌引休暇: 出産後に子供の親が死亡した場合、配偶者が取得できる忌引休暇・育児休暇の日数が増えた。子供の母親が出産後14週間以内に死亡した場合、配偶者は2週間の育児休暇に加え、14週間の休暇を取得できる。子供の出生後6カ月以内に父親、あるいは母親の妻(同性婚の場合)が死亡した場合、母親にも2週間の追加休暇が与えられる。
英語からの翻訳:宇田薫
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