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「愛国心に燃えるファンは制御が難しい」スイスのロシア専門家が語るサッカーW杯

ファン
CSKAモスクワのファン Keystone

サッカーのワールドカップ(W杯)が開かれているロシア。ところでロシアはどんな国なのだろうか?国民性は?サッカーファンは?スイスのザンクト・ガレン大でロシア社会・文化を専門とするウルリッヒ・シュミット教授が解説する。

シュミット教授、まだ「ロシア魂」というものはあるのでしょうか?

ウルリッヒ・シュミット:「ロシア魂」というのは西側諸国が作り出した概念です。西側の人たちはロシア国民の人柄を、その広い大地のような美しいものとしてあがめてきました。しかし、ロシアは古き欧州的な文化国家であり、アヴァンギャルドやモダニズムといった芸術の時代に多大な影響を及ぼしています。現在の緊迫する政治情勢ではもちろん、民族自決主義という戦略が介在します。クレムリン(ロシア政府)はロシアが独自の国益、価値観を持つ固有の文明の上に成り立つ国だと主張しています。

ウルリッヒ・シュミット
ウルリッヒ・シュミット教授 SRF-SWI

現在のロシアの若者が大切だと思っているものは何でしょうか?

ロシアの若者はソーシャルメディア、映画、テレビシリーズを通じ、西洋のポップカルチャーと密に接しています。ロシアと西ヨーロッパの若者たちは、同じような夢と理想を持っています。彼らはみんな「Y世代」ー公平な社会に住みたい、それを作って行きたいと望む世代なのです。

ロシア社会を最も苦しめているものは?

最大の問題は、ロシア政府が自国の社会を精神的に囲い込んでいることでしょう。メディアの雰囲気は緊迫しています。政府が主要なテレビチャンネルを全てコントロールしているから。国民には、西側諸国がロシアに敵対心を持っており、ロシアが世界で台頭して欲しくないと思っているーと伝えているのです。

ロシアに対する制裁措置(欧州連合のものも含め)の影響は?

とりわけ米国が最近出した制裁の影響を受けていますね。すでに低迷している経済がさらに困難な状況に追い込まれるでしょう。ロシアは巨大な国内市場がありますが、最近では数多くの深刻な経済危機を経験しています。ただはっきり言えるのは、西側諸国が制裁をもってクレムリンの外交政策に影響を与えることはできない、ということです。

スポーツの話題に移りましょう。サッカーの社会的価値はどうですか?

(ロシアの)独立調査機関Levada Institute外部リンクが2013年に行った調査によると、サッカーに全く関心がないと答えたのは全体の63%に上りました。したがって、ドイツやイタリア、英国、ブラジルほど国民的スポーツとはいえない。これはロシア代表が過去のトーナメントで良い成績を残していないからでしょう。ロシアはむしろアイスホッケー大国ですから。

W杯は、とりわけプーチン大統領にとって大きな成功となりそうですね。

もちろん、W杯はプーチン氏が自らの威信をかけたプロジェクトです。ただ、参加国はどこも象徴的な理由でW杯や欧州選手権に参加しています。自国に対する世界の評価を高めたいという理由ですね。それはロシアも例外ではありません。

ロシアのスタジアムでは、暴動や人種差別が日常茶飯事です。フーリガン対策は?

フーリガンはあらゆる国で問題になっています。サッカーを熱狂的に愛するファンはいるし、暴力的なグループも一部で存在します。最近で非常に目立つのは、ロシア政府がいかにして国民主義的政策を支持しそうな人を社会の中から見つけ出し、それをバックアップしてきたかということ。例えば、オートバイクラブの「Nachtwölfe(夜のオオカミ)」ですね。メンバーはアンダーグラウンドで活動していましたが、いまや政府の国民主義的、宗教的な理想をおおっぴらに掲げています。同じことがサッカーのシーンにも当てはまるでしょう。愛国心に燃えるファンは、制御が難しい。ロシア政府は望まない結果を生まないように注意しなければいけない。ワールドカップでは大規模に警察官が動員されるでしょう。

警察
仏マルセイユでは2016年、地元警察が英国人のファンに対し催涙ガスを使用した Ariel Schalit

同性愛はまだサッカーのタブーです。ロシア国内でも受け入れられていません。

ロシア国内では2013年施行の法律により、同性愛を公然と宣伝することは出来ません。これは、「伝統的でない」性のあり方から未成年者を保護することが目的のようです。(14年の)ソチ五輪でも同じ問題が起こりました。そのときは米軍の古い解決策に倣ったんですね。「Don’t ask, don’t tell(聞かない、自分からは言わない)」と。今回のワールドカップも、このスローガンが暗黙のうちに使われるでしょう。選手や西側からの観光客は、同性愛を話題に出さない方が良いでしょう。

このワールドカップに望むことは?

この国が夢のようなサッカーの世界を楽しみ、ワールドカップが緊張の緩和につながれば良いですね。ロシアの人たちが国外から訪れる多くのファンたちと触れあい、西側諸国は敵ではない、欧州はロシア国民に友好的だということを分かって欲しい。理想は、このワールドカップが1957年のモスクワ青少年祭と同じ成果を生むことですね。あの時は、イデオロギーの衝突は全く問題になりませんでした。鉄のカーテンの両側から、人々は密接に関わりあっていました。

ロシアはワールドカップでどれくらい勝ち進むでしょう?どこが優勝すると思いますか?

スボルナヤ(ロシア代表の愛称)がグループステージを突破すれば、おそらくスペインかポルトガルと当たる。これは厳しい戦いになるでしょう。そうでなければ、英国の元サッカー選手のゲーリー・リネカーの古いジョークを拝借して、こう言うしかないですね。「サッカーは単純なゲームだ。22人の男が90分間ボールを追いかけ回し、最後は必ずドイツ人が勝利をかっさらって行く」

(ザンクト・ガレンの地元紙「St. Galler Tagblatt外部リンク」の記事を翻訳しました)

(独語からの翻訳・宇田薫)

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