スイスのベルセ大統領は実に庶民的な男だった
ニューヨークの街中で、地べたに座るスイスの大統領―。そんな一国のトップらしからぬアラン・ベルセ連邦大統領の画像が、ソーシャルメディア上で話題になった。日本では考えられないが、スイス人にとっては見慣れた光景だ。
9月末、国連総会に出席するためニューヨークを訪問していたベルセ大統領は、おもむろに道ばたに腰を下ろし、手元の書類に目を凝らした。重要人物のそんな庶民的な姿はソーシャルメディア上で瞬く間に広がった。
画像はなんとアフリカでも注目の的に。とあるブロガーは、いすに座るウガンダの大統領とベルセ大統領が地べたに座る画像を並べ、「アフリカの大統領VSヨーロッパの大統領」と書き、ウガンダ大統領をこう批判した。
「アフリカの指導者はこんな意識だから国民が貧困から抜け出せない。ウガンダのムセベニ大統領は、電話を一本かけるためだけに交通量の多い高速道路を一時閉鎖した。一方、スイスのアラン・ベルセ大統領は第73回国連総会が行われた国連ニューヨーク本部そばの道路脇で、メモを読んでいる姿が撮影された」
この画像が出回ったとき、ソーシャルメディアではベルセ大統領がニューヨーク滞在中、小さなアパートでスタッフと一緒に食事を自炊していたという情報も飛び交った。ただ報道官はニュースポータルサイトwatson.chに対し情報を否定、ベルセ大統領はいつも通りホテルに泊まったと語った。
スイスの大統領は7人の内閣閣僚が毎年交代で務める。ベルセ氏は大統領でもあり、連邦内務相でもある。そして地べたに座ってズボンを汚すのをいとわない閣僚は、ベルセ大統領だけではない。
数週間前、女性閣僚のドリス・ロイトハルト氏(下記画像の右側)は、混み合う電車の階段に座っているところを写真に撮られた。撮影したのはスイス公共放送(SRF)で、近く予定されていた国民投票の「自転車専用道の整備を連邦憲法に盛り込む案」を引き合いに出し、「ロイトハルトさん、次回はぜひ自転車で移動して下さいね」というジョークを添えた。
Ungemein sympathisch, dieser «Auftritt» von Bundesrätin Doris #Leuthard外部リンク. Auf ihrem Weg in die #SRF外部リンク #Arena外部リンク setzt sie sich im vollen Zug ganz einfach auf die Treppe. Ab 22.25 Uhr diskutiert die Verkehrsministerin auf SRF1 über den Gegenvorschlag zur Velo-Initiative. pic.twitter.com/wnWHtvh69m外部リンク
— SRF News (@srfnews) August 31, 2018外部リンク
ロイトハルト氏だって電車に乗る。ただそれは彼女が交通政策を担う運輸相であり、環境・エネルギー・通信相だからではない。ベルセ氏も先週、ニューヨークからフィラデルフィアまで電車の旅を楽しみ、その様子を自身のツイッターで投稿している。
On the move in the #USA外部リンク🇺🇸: from the fascinating metropolis of New York 🏙 we are taking the @Amtrak外部リンク train down to Philadelphia, to @Penn外部リンク for a discussion on direct democracy. #UNGA外部リンク #swisspresident外部リンク pic.twitter.com/qEqIkg62gz外部リンク
— Alain Berset (@alain_berset) September 27, 2018外部リンク
数年前には、ボディーガードをつけずにホームで電車を待つディディエ・ブルカルテール大統領兼外相(当時)の画像がツイッターで話題になった。ただ、これはスイスのトップ政治家にとっては普通のこと。連邦議事堂がある首都ベルンではトラム(路面電車)で政治家と乗り合わせたり、ショッピング中の政治家に出くわしたりすることは珍しくない。
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ボディーガードを付けないスイスの政治家たち
警護なしはもちろんリスクが伴う。2012年、外相を辞任したばかりのミシェリン・カルミ・レ氏はジュネーブの路上で男から顔面にパイをぶつけられる事件があった。
危険が伴う可能性のある状況では閣僚に警護が付く。だが地べたに座るかどうかは、彼らの自由だ。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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