スイスの視点を10言語で

「インドネシアのパーム油は、スイスの時計製造よりも大きな存在」

ambassador
インドネシアは森林破壊の抑止にコミットしている、とムリアマン・ハダド駐スイス大使は強調する。 swissinfo.ch

スイスでインドネシアとの自由貿易協定(FTA)締結に反対する国民投票(レファレンダム)が提起された。駐スイスインドネシア大使は、インドネシアのパーム油輸出は持続可能性が高いと主張する。

欧州自由貿易連合(EFTA)諸国とインドネシアの間で計画されているFTAは批判の渦を起こし、ついに国民投票にかけようとする動きが広がった。批判されているのは、パーム油をめぐる環境問題だ。

インドネシアのムリアマン・ハダド駐スイス大使は、パーム油もFTAの対象になるべきだと考えている。

インドネシアとEFTA諸国(スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)との間で2019年12月に調印されたFTAは、インドネシア産パーム油の輸出1万トンに対して最大40%の関税引き下げを盛り込んだ。ただパーム油は食品から化粧品までさまざまな製品に使われているが、関税引き下げは環境破壊につながるとしてスイスでは批判が大きい。

スイスの農業団体「ユニテール」らは22日、議会の決めた法律・条約を覆すための国民投票(レファレンダム)の提起に必要な数の署名を連邦内閣事務局に提出した。ユニテールは、インドネシアの現行法は熱帯林のパーム油プランテーションへの転換を食い止めるのに十分な効力がないと主張する。またFTAは大企業の利益になるだけで、現地の小規模農家の利益にはならないと訴える。

swissinfo.chは、FTAやそれに対するレファレンダムについて、インドネシアの見解をハダド大使に聞いた。

swissinfo.ch:なぜスイス・インドネシア間にFTAが必要なのでしょうか?

ムリアマン・ハダド氏:双方にとって大きなチャンスになる。スイスは人口2億8千万人という巨大なインドネシア市場に参加できる。インドネシアはさらに域内の近隣諸国とも自由貿易を行っているため、潜在的には7億人市場だ。

両国とも新型コロナ危機により、大きな経済減速に見舞われている。何らかの後押しが必要で、FTAは危機の終息後にインドネシアやスイスの回復を促すだろう。

swissinfo.ch:パーム油の輸入に対してこれほど強い批判が起きるのはなぜだと思いますか?

ハダド:メディアは真の事実に基づいて議論すべきだ。パーム油自体には問題はない。1ヘクタール当たりの生産性は他の植物油より高い。他の作物に比べて必要な土地も少ない。植物油の需要は確実に増加しており、パーム油がなければ他の種類の油を生産するためにより多くの森林が伐採されることになる。

swissinfo.ch:スイスでは、FTAに対しこれだけ反論が出ることは想定内だったのでしょうか?

ハダド:全体像を見落としてはいけない。FTAはパーム油だけではなく、包括的な経済連携だ。年間1万トンの上限があり、持続可能性の原則を順守しなければならない。

swissinfo.ch:レファレンダムの試みをどう思いますか?

ハダド:スイスの民主主義の一環として尊重する。決めるのはスイス国民だ。私たちは環境問題を順守すると約束している。インドネシアとスイスは過去数十年にわたり、様々な分野、特に経済分野で良好な関係を築いてきた。今後、この関係はさらに強まると期待している。

swissinfo.ch:スイスのレファレンダムを支持する人々は、インドネシアの現行法は森林破壊を防ぐのに十分ではなく、ジョコ大統領が提案した企業に優しいオムニバス法(包括的法制度改革)は環境規制を弱めるだろうと主張しています。どう答えますか?

ハダド:インドネシアは新しいパーム油プランテーションの認可を一時停止し、森林破壊を減らすことに非常に力を入れている。オムニバス法はインドネシア貿易を大きく増やし、インドネシアのより有望で環境に優しい投資環境を整備する。

swissinfo.ch:FTAでの1万トンの割当量は、インドネシア全体のパーム油輸出量3500万トンのごく一部に過ぎません。反対の声がある中で、なぜパーム油をFTAから削除しないのでしょうか。

ハダド:パーム油はインドネシアにとって重要なセクターだ。輸出収入への寄与度は2番目に大きく、スイスにとっての時計産業よりも大きい。経済全体を見て、これを除外することはできない。

自由貿易には差別はなく、すべての製品が同じように扱われるべきだ。

パーム油は、インドネシアの人々を貧困から救うという意味でも重要だ。

swissinfo.ch:スイスへ輸出されるパーム油が森林や野生生物に害を与えないようにするために、どのような措置が講じられていますか?

ハダド:スイスは他国と多くのFTAを結んでいる。最近締結したオーストラリアとのFTAはパーム油も含む。環境にやさしく、すべての国際ルールを順守した形でパーム油を取引することには賛成だ。

データや事実をもってより広い視野で問題を眺めることが重要だ。世界中が環境に関心を持ち、私たちも同じだ。グローバルにビジネスを展開したいのであれば、グローバルなルールを遵守しなければならない。

swissinfo.ch:FTAに影響を受ける他の主要分野は?

ハダド:まず両国の関税の98%が撤廃される。スイスは機械や医薬品を生産し、インドネシアは履物や衣料品、家具、コーヒーなどの商品を生産している。互いに補完し合っている。

まだネスレ、ノバルティス、ABBのような多くのスイスの大企業がすでにインドネシアに進出している。スイスの中小企業の中には、インドネシアを投資先や貿易相手として考えている企業もある。FTAが他の企業の投資を後押しすると期待する。

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部