スイス連邦政府は国内の高速道路網を広げ、都市部の道路を刷新する計画を提案した。予算は160億フラン(約1兆8千億円)を見積もり、当初計画の18億フランを大きく上回る。
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ロイトハルト交通相は、交通量の増加や、先月イタリアで高速道路が崩壊した事件などを受け、道路インフラを刷新する必要があると強調した。
計画にはルツェルンとローザンヌ、ジュラ山脈の道路のほか、2016年2月の国民投票で可決されたアルプス山脈を貫通する2本目のトンネル道路を含む。148億フランを充てる。
またジュネーブ、バーゼル、ベルンやヴァレー(ヴァリス)州内の都市など30都市以上の計画する州道に、13億4千万フランを投入する。
スイスの道路網は、トンネルや橋を含むと全国延べ約1800キロメートルに上る。
政府は対策を講じなければ、1日当たりの渋滞時間は最大4時間に増え、高速道路の約2割で渋滞が常態化すると予測する。
≫交通渋滞が引き起こす経済損失は一体いくら?
政府の提案は議会の承認を得なければならない。
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スイスは道路交通網が最も普及している国の一つだ。道路インフラの維持や建設計画には多額の費用がかかるため、政府と連邦議会は「国道と都市交通のための基金(NAF)」の設立を目的とした憲法改正を呼びかけている。長期的な道路計画を可能にし、また財源を確保することが狙いだが、これには左派や環境派の一部が反対している。
国道の主な財源はこれまで、鉱油税(石油、天然ガス等)と高速道路料金からの収入(いわゆる道路事業費)だったが、政府と連邦議会は財源不足を警告している。なぜか?
自動車および自動二輪車の交通量は1960年以降、5倍以上に増えた。それに伴い渋滞時間も増加。騒音対策、自然保護、災害保護を求める社会からの要望も重なり、インフラの運営費や維持費が増えた。
それと同時に収入が減った。燃料に課される鉱油追加税はここ数十年間、物価上昇に合わせられておらず、1974年以来ガソリンおよびディーゼル1リットルにつき0.3フラン(約34円)に据え置かれている。
政府の主張では、このまま対策を取らなければ国道の財源は今後数年で赤字に転じる。そのためNAFに追加資金を注入し、道路事業に関するすべての収入を今後は特定財源にすべきだとしている。NAFが設立されれば、特に混雑の激しい道路区間の整備や狭い道路の拡幅整備、またヴォー州ローザンヌ・モルジュ区間の迂回路建設や、チューリヒ州グラットタール地域にある高速道路の渋滞解消が実現できると、政府は説明する。国道だけでなく、都市近郊地域の道路計画もNAFの恩恵を受けるという。
政府および連邦議会の圧倒的過半数はこの基金の設立を支持。「(基金があれば)問題は解消され、国道網の効率性は維持される」とドリス・ロイタルト運輸相はメディアに語っている。
国庫を略奪
基金設立に反対する声は議論が開始した当時からあまりなかった。なぜなら、鉄道にはインフラ整備・拡充のための基金が存在しているからだ。道路事業への巨額資金注入を目的にした「乳牛イニシアチブ」の是非を巡る昨年6月の国民投票では、NAFが設立されればバランスの取れた財政モデルを国民に提示できると政府は主張していた。
左派や環境派からもNAFに対する反対意見は基本的に聞かれない。だが、社会民主党のエヴィ・アレマン下院議員は、「連邦議会はNAF設立に関する草案を大幅に変えた。これでは国庫が略奪されることになるだろう」と話す。
基金設立の反対キャンペーンを張る環境派の団体「スイス交通クラブ」の会長を務める同氏は、「期限を設けないNAFの存在を憲法改正で固定してしまえば、国のほかの支出に比べNAFの方が優遇されてしまう」と批判し、こう続ける。「憲法改正が通れば道路事業の財源は極端に膨れ上がる。国庫の負担は重くなり、とりわけ公共交通分野が費用削減の対象になるだろう」
現在は鉱油税の5割が道路事業に定められているが、実際にNAFが設立された場合はその割合が6割になる。また自動車輸入税の税収は国庫ではなくNAFに入る。さらに、鉱油追加税は、自動車の燃費が以前より向上したことを踏まえ、ガソリンおよびディーゼル1リットルにつき0.30フランから0.34フランに引き上げられる。ロイタルト運輸相によれば、増税の開始時期は早くとも19年からだ。
NAFへの批判は、緑の党からも出ている。同党は今月に開かれた党大会で有権者に反対票を投じるよう呼びかけた。「我々が反対してきた乳牛イニシアチブは、国民投票で大差で否決された」と同党のレグラ・リッツ党首は話す。保守派が過半数を占める連邦議会は「この明らかな教訓」からあまり学んでおらず、NAF設立で「乳牛イニシアチブの半分」を実現させようとしていると、同氏は主張。「国の財政が非常に厳しい中で、きわめて寛大な法案が決議され、道路網が拡大されるということが過去にあった」と語る。
しかし、社民党も緑の党も、反対キャンペーンにさほど労力も資金も注いではいない。社民党の連邦議会議員の大半がNAF設立に賛成していることからも分かるように、環境派および左派の間で意見が食い違っているからだ。
NAFに賛成しているのが、影響力のある自動車連盟のツーリングクラブ・スイス(TCS)と保守派政党。「道路での渋滞時間は年間2万2千時間。これは約20億フランの損失に値する。道路インフラを現在の交通量に合わせるにはNAFが必要だ」とヴァルター・ヴォブマン下院議員(国民党)は話す。
「乳牛イニシアチブの半分」と揶揄されるNAFが連邦議会を通過したことに、ヴォブマン氏は安堵したという。同氏は「NAFが設立されれば、道路事業に約7億フランが追加される」と語り、その資金はもっぱら自動車ドライバーの財布から出ると言う。
結束を強める
中道派のキリスト教民主同盟もNAFに賛成の立場だ。「公共交通においても、個人が自動車、オートバイ、自転車などを利用する場合においても、スイスのインフラはとてもよく整っている。これは国が経済的に繁栄する上で重要なことだ。インフラが整えば、山岳地や遠隔地は都市と結ばれる」と同党のヴィオラ・アムヘルド下院議員は語り、こう続ける。「良い交通網は、国の結束を強めるのだ」
その一方で、NAFが設立されれば環境破壊が進むと、反対派は主張する。スイスでは住宅地や道路の建設目的で1日にサッカー場10面分の森林が伐採されている。NAFが実現し、道路事業により多くの資金が流れ込むことになれば、森林伐採は進む一方だと反対派は考える。これに対しアムヘルド氏は「NAFの目的は、緑地を道路で潰すことではない」と反論。「計画的に、重点箇所に的を絞って問題を解消し、道路整備を長期的に保証することが目的だ」と話す。NAF設立に30億フラン
国道と都市交通のための基金(NAF)には年間30億フラン以上が注ぎ込まれる。収入の内訳は以下の通り。
・ 鉱油追加税:19億フラン
・ 自動車輸入税からの収入:4億フラン
・ 高速道路利用ステッカーの販売による収益:3億2千万フラン
・ 鉱油税の1割:2億5千万フラン
・ 電気自動車への自動車税課税(2020年以降):9千万フラン
・ 州道から国道への切り替えによる州からの補償金:6千万フラン
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