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スイス、人権擁護や国際正義の推進に活躍

Keystone/Luca Zanier

10年前の2002年9月10日、第190番目の国連加盟国となったスイス。中立の小国が、国際政治にインパクトを与えることができたのだろうか?

 過去10年を振りかえるとき、スイスの国連への貢献は、国連の構造改革と予算面の援助のみならず、人権擁護や国際正義の推進において際立っていた。

 「基本的人権、法の役割とその適用において、スイスが国連で果たした役割は大きい。こうした法的分野でスイスは模範となった。単に法的規制の重要さを示しただけではなく、実際に適用するやり方を示した」とニューヨークのNGOヒューマンライツ・ウオッチで国際法を担当するリチャード・ディッカーさんは言う。

 ジュネーブ国際高等学院で国際法を教えるアンドレア・ビアンキ教授は、スイスの国際性を次のように評価する。「この10年間でスイスは、(小国でも)国際舞台で重要な役を演じられることを証明した。そのためのスキルと信頼も手に入れたと言える」

 実際スイスは、次のような事例においてその専門性を発揮した。国連人権委員会(UNCHR)から国連人権理事会 (UNHRC )への移行。安保理の改革案。特に後者では常任理事国の拒否権に制限を与えるよう求める勇気ある提案を行った。

大国に挑戦

  だが、この決議案は今年の5月に拒否された。連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ/EPFZ )の安全研究センターのダニエル・トラハスラーさんは、「安保理の仕事の進め方を改革するために提案された決議案だった。この否決にスイスはかなり落胆した」と話す。安保理は最高決定機関であるからこそ、透明性を高め、ほかの加盟国との連携を深めるべきだという意図があった。

 しかし、ビアンキ教授はこう反論する。「決議案は確かに否決された。だが、国連憲章の修正を求めずに安保理の改革を推進するという、非常に賢い選択肢があることを示したという点で高く評価される。(安保理の改革などという)実現不可能に見える大改革に挑戦したのであって、決してエネルギーを無駄に使ったわけではない」

 意見はさまざまだ。スイスの、フランソワ・ノードマン元外交官は「スイスはやり過ぎた」と言う。「常任理事国に挑戦し、その拒否権を問題にすることは、スイスの直接の(外交的)利益ではないからだ」

 ところで、スイスはやはり今年、安保理に対し「悪化の一途をたどるシリア問題を国際刑事裁判所(ICC)に持ち込むべきではないかと圧力をかけた」と、国際法に強いディッカーさんは話す。

 さらに、「もっとも犯罪的な行為を行った人物たちは、刑事裁判にかけられれるという国際法のルールに従い、今のシリアに対して国際刑事裁判所加盟国が圧力をかけるようにスイスは働きかけた」と続ける。

高官ポストに多くのスイス人職員

 以上のような国連でのスイスの「成功」は、国連機関内で働く高官ポストのスイス人が多いことにも起因しているといわれる。実際スイス外務省によれば、現在70人のスイス人国連職員が高い地位に就いている。

 「国連に加盟してわずか10年の小国スイスが、これほど多くの重要ポストに就く国連職員を輩出しているという事実は、驚くべきことだ」と、スイスのシンクタンク「フォラウス(Foraus)」のファニー・チャーメー国連機関局長は言う。

 しかし、国連構造改革と予算援助で高い評価を得るスイスも、国連平和維持活動(PKO)となると、そうはいかない。前者では16位に位置するが、後者では99位だ。しばしば、他国から「紛争において汚い仕事はほかの国に任せる態度だ」と批判されてもいる。

 「スイスは国連平和維持活動に、もう少し貢献すべきだ」と主張するのは、前出の連邦工科大学安全研究センターのトラハスラーさんだ。これに対し、チャーメーさんは「今日までのスイスのこの分野での貢献度は、中立というこの国の立場につり合ったものだ」と言う。

 国連の2012年7月の報告によれば、スイスは24人の警察官をこうした平和維持活動に送っている。だが、隣国オーストリアは539人を、スイスとほぼ同じ人口のスウェーデンは63人を送り込んでいる。

 国連平和維持活動の人数を2014年までに今の2倍にすると明言したスイスだが、「この分野で人員を増加させるというのは、スイスにとって大きなチャレンジになる。なぜなら、スイスの中立の立場からは、(紛争国内で)抑制的行為には加担できないからだ」とチャーメーさんは続ける。

安保理の非常任理事国を目指す

 安保理は、常任理事国5カ国と任期2年の非常任理事国10カ国で構成されている。スイスは現在、2023~2024年に非常任理事国になるよう求めている。

 チャーメーさんは、非常任理事国になれば国連平和維持活動でのスイスの消極性に対する批判は和らぐだろうと見る。

 一方トラハスラーさんは「これは、スイスにとってかなりの努力を必要とする選択になる」と話す。なぜなら、中立性が問題になるというだけでなく、政治的に発言を増やすことで、世界の舞台でスポットライトを浴びることが多くなるからだ。「スイスがこうした任務を本当に望むか否か、今後の動向を見ていきたい」

 「安保理のメンバーになることはスイスにとって多くの意義がある」と、積極的な発言をするのはビアンカ教授だ。そして、「非常任理事国になることは、過去10年間に行ってきた国連への貢献の頂点を飾ることにつながり、また国連内での評価を高めることにもなる」と言う。

スイスは2002年、193カ国からなる国連の190番目の加盟国になった。

スイスは国連の予算総額の1.13%を支払っており、その金額において第16位を占める。2011年の支出は、1億3000万フラン(約108億円)だった。

その他の国連機関への自発的拠出金は5億フラン(約415億円)に上る。これは国連に加盟する前から支払われていた。

国連平和維持活動(PKO)において、スイスは25人の軍人と警察官を、レバノン、コンゴ共和国、ブルンジ、南スーダンに送り、その数において99番目の貢献国になっている。

およそ1500人のスイス人が国連で働き、うち70人が高官のポストに就いている。

国連ヨーロッパ本部、及び七つの特別国連機関がスイスのジュネーブにある。このため国連機関と交渉を行う各国の交渉団を抱える242の代表部が、やはりジュネーブにある。また、ジュネーブには33の国際機関と250のNGOがある。

(英語からの翻訳・編集 里信邦子)

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