「スイスは生まれ変われる」 同性婚合法化で諸改革に期待感
スイスでは26日、有権者の約3分の2の賛成で同性婚合法化が可決された。スイスの複数メディアはこれを「歴史的な決定」であるとし、称賛した。ただ、この勢いを今後必要な改革への推進力にすべきだとの指摘もある。
ドイツ語圏日刊紙NZZ外部リンクは、「レマン湖からボーデン湖、バーゼルからカトリック色の強いヴァレー(ヴァリス)州まで(…)地方も含めた有権者の圧倒的多数から支持されたことは、スイスのゲイとレズビアンにとって大きな意味がある。しかし、この法改正案『全ての人に結婚の自由を』への『イエス』は、それ以上の意味を持つ」と評した。
今年6月にあった前回の国民投票では、環境保護を強化する提案を都市部が支持し、それに嫌気がさした農村部は反対票を投じるなど、スイスの地域差が浮き彫りとなった。それ以来、都市と農村部の溝、ワクチン接種への態度やCOVID証明書の是非などさまざまな溝が話題になったことを同紙は指摘。だが今回の法改正案「全ての人に結婚の自由を」に対しては、全26州で賛成が反対を上回り、スイス全体では、64.1%が同案を支持したことを強調した。
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同紙は「26日の決定は、スイスがまだ新しく生まれ変われるという希望を与えた」と称賛。停滞気味の年金改革や気候変動対策にも弾みがつくことへの期待を示した。
「ついに!」
ドイツ語圏日刊紙ターゲス・アンツァイガーに掲載された社説外部リンクの見出しには「ついに!」という文字が躍った。
昨年12月に議会で可決されたときの喜びは非常に大きかったが、(可決済みの法案について国民の賛否を問う)レファレンダムが提起されたときの失望はさらに大きかった。だが同紙は、この災いが「同性カップルの生活に焦点が当てられ、これまでになく異性愛者が同胞の夢やニーズを学んだ」という福に転じたと読み解いた。
「平等な権利の問題では、スイスは大抵ランキング下位だ。(26日の国民投票で)可決されたスイス民法典の改正も、長い時間をかけて行われてきた。投票での賛成過半数は、私たちができる最低限のことだった。この国が、育児休暇、保育、平等など、今後の主要な社会政治的議論においてもこのような結果を、少しでも早く実現することを願う」。
大衆紙ブリックもコラム外部リンクでこれに同調した。コラムニストのレア・ハートマン氏は、これは単なるロマンスではなく、権利の問題だと言う。同氏は婚約者の男性とチューリヒ中央駅の近くで指輪を選んでいるとき、店の前でLGBTQ+のプライドイベントに向かう男性や女性の姿を見かけた。彼らは、「私たちや両親、祖父母が当たり前に持っていたもの」を勝ち取るためイベントに向かったのだと振り返る。
「今こそ、同性カップルにも適用されるべき。『全ての人に結婚の自由を」へのイエスは、平等と寛容へのイエスでもある。この問題にまつわるさまざまな感情はあるが、これは単なるロマンスではなく、ゲイやレズビアンのカップル、そして同性カップルのもとで成長している子供たちのための権利でもある」
「歴史的な日曜日」
フランス語圏の日刊紙ル・タン外部リンクは「スイス人は、団結し、尊敬し、前進する方法を知っている」という見出しと共に、「9月26日は、変革の大きさと結果の明らかさから、歴史的な日曜日の1つになるだろう」と評した。
昨年2月の国民投票では同性愛者への差別の刑罰化案が63%の賛成で可決された。同紙はこれが同性婚合法化案可決の下地を作ったと分析し、スイス人は「より公平で、より尊重された社会を目指している」と解説した。
それに加え、スイスは社会の進歩的な変化について足を引っ張ることが多く、今年2月には女性参政権獲得50周年をようやく祝えたばかりだと指摘。ただ、スイスで同性婚合法化案が可決されたのは「スイスが非常に複雑で象徴的かつ感情的なテーマを賢く扱う能力がある」ことを示していると同紙は強調し、11月の国民投票にかけられるCOVID法についても冷静な議論が進むことへの期待を寄せた。
同じくフランス語圏の日刊紙ラ・トリビューン・ド・ジュネーブ外部リンクは、「20年前、スイスで『全ての人に結婚の自由を』が可決される日が来ることを、誰が信じただろうか」と問いかけ、26日の投票結果は「精神的な変化の速さを示している」と評した。
同性婚は現在、世界29カ国で合法化されている。そのほとんど全ての国で、同性カップルが親になり養子を取ることができる。スイスはイタリア、ギリシャ、リヒテンシュタインと共に、西欧で同性愛者に婚姻の権利を与えていない4カ国の1つだった。
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