スイスの公共放送受信料制度 改正めぐり議論
スイスでは6月14日、公共放送の受信料制度改正案の是非をめぐり国民投票が行われる。この改正案は、スイス放送協会の財源確保のための新しい税制なのか?それとも現代の視聴スタイルに合わせた、理にかなった制度の改正なのか?
「受信料の徴収対象をテレビやラジオを所有する世帯から、全ての世帯へと変更するのは理にかなっている。今日、テレビやラジオ番組は(パソコンやスマートフォンなどの)通信端末からも受信できるからだ。通信端末機器は、じきに1人1台所有するようになる」と話すのは賛成派のクルト・フルーリ下院議員外部リンク(急進民主党)だ。
一方、反対派のローランド・ビュッヘル下院議員外部リンク(国民党)は「技術的にタブレット端末やスマートフォンなどで放送番組が受信できるようになったからと言って、実際に人々が番組を視聴していることにはならない。この受信料制度改正は実質的には新しい税制の導入で、全くもって不公平だ」と反論する。
受信機の有無を問わない公共放送の受信料徴収制度に対し、徹底的に反対の姿勢を示しているスイス商工業連盟(SGV)は今回、国民投票の内容を説明する冊子に不備があったとして苦情を申し立てた。
問題は冊子の中に記載されているSGVの主張が「事実」として述べられていない点。改正案が可決されれば「メディア税として今後、ひと世帯につき年間1千フランの受信料の支払い負担が生じる」という文が、連邦内閣事務局によって「レファレンダム委員会の見解では、メディア税として今後、ひと世帯につき年間1千フランの受信料の支払い負担が生じる」と書き換えられている。
連邦内閣事務局は、レファレンダム委員会の意見内容は書き換えていないと文書で表明した上で、同委員会が概算した今後における公共放送受信料の推移は、あくまで委員会によるものであることを有権者が理解できるようにしたことを明らかにした。改正法案を推進する連邦政府側は、現在の受信料の462フランは、400フランまで下がるとしている。
SGVは「受信料の値上げを示す客観的な証拠があるにも関わらず、連邦内閣事務局はそれを認めておらず、自由な意思形成と選択権が犯されている」と反発している。
(出典:スイス通信)
一体、どういうことなのか。
基本的にスイスでは、国内でテレビやラジオ番組を視聴する人は全て、受信料を支払わなければならない。徴収された受信料の大部分は、スイスインフォも一部門として属する公共放送のスイス放送協会外部リンクに割り当てられる。同協会にはスイス全土におけるサービスの提供が委託されており、人口が比較的少ない言語地域(フランス語圏、イタリア語圏、ロマンシュ語圏)を含む全ての言語地域において、それを保障しなければならないことになっている。今回の改正ではこの原則は何も変わらない。
時代遅れの規則
これまで、テレビやラジオの受信機を所有していない世帯は、受信料の支払い免除が受けられた。政府からの委託で受信料徴収を行うビラグ社は、受信料を支払っていない世帯が本当に受信機を所有していないかをチェックすることができ、もし不正に視聴していることが発覚した場合は、罰金を科すことができる。企業もまた受信料徴収の対象となるが、テレビやラジオ受信機が社内に無い場合や、そのように申告している場合は免除の対象となる。
この現行規則が時代遅れであると考えたのが、連邦政府と連邦議会だ。放送されるテレビやラジオ番組はすでにパソコン、タブレット端末、スマートフォンなどで視聴可能であることを理由に挙げ、受信機の有無に左右されない受信料制度改正案は、論理的かつ時代に沿った必要なものだとした。
新しいメディア税?
連邦議会は2014年9月26日、賛成137票、反対99票(棄権7票)で公共放送の受信料制度改正法案外部リンクを採択。基本的には、全ての世帯と企業を対象に、将来的に受信料の支払いが義務付けられる。ただ、年間売上が50万フラン(約6200万円)以下の企業、老齢保険受給者、介護施設入居者は例外だ。また住居にテレビやラジオが無いことや、インターネットに接続していないことを証明できる世帯は5年間、受信料の支払いが免除される。
これに反対したスイス商工業連盟(SGV)外部リンクは必要数の署名を集め、この法案を国民投票(レファレンダム)にかけることに成功。6月14日にその可否が問われる。SGVは今回の制度改正で国が「新しいメディア税」の導入を進めようとしていると批判。「受信機を所有しているかどうか、テレビやラジオ番組を視聴しているかどうか、それこそテレビやラジオを視聴できるような場所にいるかどうかなど、(この法案では)どうでもよいのだ。全ての人が強制的にこの税金を支払わされることになる」とSGVは主張する。
SGVが問題としているのは、付加価値税登録をしている企業、また住民登録をしている世帯に受信料の支払いが義務付けられる点だ。これまで受信料を支払っていなかった企業は多いが、この制度改正により全ての企業が自動的に受信料を支払わなくてはならなくなる。
賛成派はそれに対し、制度が改正されたとしても企業の75%は受信料の支払いが免除されると指摘する。加えて、制度が改正されれば視聴者にとって受信料の負担は軽くなるとしている。
民間放送局に与える影響
今回の改正案が通れば、民間企業である地方のテレビ・ラジオ放送局に割り当てられる予算も増え、運営にゆとりが生まれるようになる。
地方のテレビ・ラジオ放送局への受信料の割り当ては、改正により現在の4%から最高6%まで増える。つまり年間で2700万フランまで増える見込みだ。
それによりジャーナリストの研修や育成、またデジタル化に予算を回すことが可能になる。
安くなる受信料
この制度改正により受信料収入は変わらないとされる。また連邦政府は「受信料がひと世帯につき年間462フランからおよそ400フランに下がる可能性がある」と改正案に記述している。
しかし反対派は受信料の値上げや値下げの決定権が、これまでと同じ連邦政府にあることを批判し、近い将来に受信料の値上げが行われると予測している。「(国は改正案のメリットを)うまくアピールしているが、これは明らかに新しい税金制度だ。各世帯の負担額はたったの400フランだというが、その金額は法に定められているわけではない。連邦政府は過去にもあったように、だんだんと値上げしていくだろう」と前出のビュッヘル下院議員は確信している。
賛成派はそれに対し、増え続ける人口が受信料の値下げへとつながると反論する。「受信料は税金ではない。必要に応じた手数料だ。人口増加によって受信料収入が増えれば、受信料は低くなっていくはずだ」(フルーリ下院議員)
二重課税
SGVはさらに「義務化された受信料の徴収」は利用者からの受信料の巻き上げとなり、「二重課税」になりかねないと議論を続ける。「各世帯はどのみち受信料を支払わなければならない。企業主や経営者だけでなく、小さな会社でも(年間収益が)50万フラン以上であれば二重に吸い上げられる」
それに対し、企業が税金や受信料を支払うのは「適切でもっともだ」と賛成派外部リンクは主張する。「もし連盟の考え方に従うとしたら、会社が全ての税金や公共料金から免除されなければならなくなってしまう」
(独語からの翻訳・編集 大野瑠衣子)
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。