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横浜市出身。1999年からスイス在住。ジュネーブの大学院で国際関係論の修士号を取得。2001年から2016年まで、国連欧州本部にある朝日新聞ジュネーブ支局で、国際機関やスイスのニュースを担当。2016年からswissinfo.chの日本語編集部編集長。
スイスで25日実施された国民投票で、社会保険の不正受給を取り締まる保険改正法案が賛成票64.7%で可決された。家畜の福祉を尊重し、牛の角をとらない畜産農家に助成金を支給する「牛の除角反対イニシアチブ」と、スイス国民による決定を国際法より重じる「国内法優位イニシアチブ」は否決された。投票率は47.7%だった。ロボットのトビとレナが投票結果を発表した。
社会保険制度の適正な運営を
生活保護費を不正に受給していると疑われる人の実態を探偵が調査できるようにする社会保険改正法案採択の是非が問われ、64.7%の大多数の賛成で可決された。
スイス傷害保険公社(SUVA)によると、昨年同社の保険で発覚した不正受給は1250万フラン(約14億1500万円)に上る。不正受給の取り締まりを強化するため、連邦議会は今年3月、社会保険法の総則に関する連邦法(ATSG/LPGA)の改正案外部リンクを可決。公共の資金の公正な運用と透明性を高め、国内法の整備を図ろうとした。
ところが、改正法案に対し、実態調査が行き過ぎた「監視」となり、被保険者のプライバシーを侵害するのではないかとの懸念の声が上がり、政府の法案の是非を問うレファレンダムが提起された。
≫社会保険改正法案に関して
政府は実態調査をできる場所や条件を規定し、国民の支持を取り付けた。調査は公共の場に限定し、望遠レンズや暗視装置、指向性マイクといった装置の使用は禁止する。
この改正法案外部リンクは、障害者保険、医療保険、事故保険、失業保険、老齢・遺族保険、家族手当、短期無収入補償保険、出産保険に適用される。
投票結果を受け、ジュネーブの急進民主党の議員ブノワ・ジュヌカン氏は、「この(社会保険)制度の不正に対処すべきだと強く考える国民の連帯感が形作られている」と分析した。
牛の除角をしない農家への助成金案は否決
牛の除角に反対するイニシアチブは54.7%で否決された。現行の農業政策を維持する。
除角は牛同士や農家が角によって怪我するのを予防するための処理。除角をする畜産農家は1頭につき年間190フランの助成金を政府から受け取ることができることもあり、全体の75%が除角処理を受ける。
除角処理では子牛の角の生える部分に麻酔をし、鉄ごてで焼く。これが牛に苦痛を与える残虐行為だとし、ベルン州の一人の農家が、家畜の除角をしなくても農家に助成金が支給されるように求める「農業用家畜の尊厳のためのイニシアチブ(国民発議)」を立ち上げた。
≫牛の除角反対案について
家畜の福祉を尊重するよう訴える同イニシアチブは、動物愛護精神の強いスイス国民の共感を呼び、投票間前の世論の賛否では拮抗していた。しかし、除角しない農家にも助成金を出すことは、年間1000~3000万フランの追加資金が必要になるとし、政府は反対を呼びかけていた。
国内法優位は支持を得られず
スイスの直接民主制を尊重し、国際法よりスイス国民の「自己決定権」を反映させる「国内法優位イニシアチブ」は66.2%で否決された。発起した国民党以外の有権者の賛成を得られず、全23州が反対した。
国際法と国内法が競合した場合にスイス連邦憲法を優先すると、他国の信頼を失い、外交や通商に好ましくない影響が出ることが危惧された。
スイスメディアは、このイニシアチブの内容が不明瞭で抽象的であることも、不支持の理由としてあげた。
≫国内法優位イニシアチブについて
今回の国民投票では、初めてロボットが投票結果を公表。スイスのメディア企業大手Tamediaとスイス通信社のKeystone-ATSによって開発されたロボットのトビとレア2台が、各自治体の投票結果や連邦統計局のまとめた数字などを瞬時に最大4万字で読み上げた。
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