農薬や抗生物質を使う農家への補助金カットなどを求めるイニシアチブ(国民発議)「クリーンな水を全ての人へ」について、発起人らが国民投票に必要な11万4420人の署名を集め、連邦内閣事務局へ提出した。今後国民投票が実施される見通し。
このコンテンツが公開されたのは、
イニシアチブ外部リンクは、国内の農家が安全な食品とクリーンな飲料水の供給に寄与するよう、連邦政府が主導しなければならないとしている。
現在、国内の農業生産者への補助金は総額28億フラン(約3220億円)に上る。ほとんどの農家は「必要な生態系サービス」と呼ばれる、生物多様性の保全、動物の適切な飼育、輪作の促進などの最低基準を満たすよう義務付けられている。一方、今回のイニチアチブでは農薬を一切使わない農業生産を目指し、家畜はその農場で生産された飼料を与えなければならないとしている。
イニシアチブでは病気の予防目的で、あるいは日常的に家畜に抗生物質を使う農家については補助金を支給しないよう求めている。農業関連の研究、訓練、投資の実施についてもこれらの基準に照らして判断するとしている。
イニシアチブは環境保護団体のグリーンピース・スイス、バードライフ・スイス、スイス釣り連盟などが主導。イニシアチブの発起人らは、毎年国内で計2千トンの農薬が使われ、その85~90%が農場だと主張。病気を防ぐ目的で計38トンの抗生物質が家畜の牛に投与されているという。発起人らは、農場で農薬や抗生物質を頻繁に使用すると川や地下水の汚染につながるほか、生物の多様性が破壊されると警告する。
農薬か、生産性か
昨年9月、連邦政府は今後10年間、持続可能な農業政策により長期的な水質土壌汚染リスクの5割削減を図る行動計画を策定したと発表。しかし、連邦経済省農業局は、農薬なしで行動計画を実現することは不可能だと主張する。
スイス農家・酪農家協会(SBV/USP)も農薬の使用量を減らすことには賛成だが、全面禁止には反対の立場だ。同団体は昨年6月、農薬を全面禁止すれば収穫量の2~4割減は避けられないと述べた。USPのマルクス・リッター組合長は、スイスの食品業界は原材料の安定供給を求めていると強調し「オーガニック食品は農薬なしでは作れない」という発言まで飛び出した。
スイスでは、合成農薬の輸入・使用の全面禁止を求めた別のイニシアチブも出されており、現在、国民投票の実施に必要な署名集めが行われている。
昨年の世論調査では、国民の65%が、地元の農家に農薬の使用量を減らして欲しいと答えた。
(英語からの翻訳・宇田薫)
おすすめの記事
ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は10日、電気を使わない除湿器を開発したと発表した。壁や天井の建築材として、空気中の湿気を吸収し一時的に蓄えることができる。
もっと読む ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
おすすめの記事
スイスでX離れ進む
このコンテンツが公開されたのは、
スイスで「X」から撤退を表明する企業や著名人が相次いでいる。
もっと読む スイスでX離れ進む
おすすめの記事
スイスの研究者、キノコで発電する電池を開発
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの研究者たちが、キノコで発電する電池を開発した。農業や環境研究に使われるセンサーに電力を供給できるという。
もっと読む スイスの研究者、キノコで発電する電池を開発
おすすめの記事
ジョンソン・エンド・ジョンソン、スイスでの人員削減を計画
このコンテンツが公開されたのは、
米ヘルスケア大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、スイスでの人員削減を計画している。
もっと読む ジョンソン・エンド・ジョンソン、スイスでの人員削減を計画
おすすめの記事
「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱
このコンテンツが公開されたのは、
スイス最大手のUBS銀行の資料室には、第二次世界大戦中の行動に関する秘密がまだ残されている可能性がある――。過去にスイスの銀行と独ナチス政権とのつながりを調査した歴史家、マルク・ペレノード氏は、再調査の必要性を強調する。
もっと読む 「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱
おすすめの記事
スイス航空の緊急着陸 客室乗務員の死因は酸欠
このコンテンツが公開されたのは、
スイスインターナショナルエアラインズ(SWISS)のブカレスト発チューリヒ便が先月オーストリアのグラーツで緊急着陸した後、客室乗務員(23)が死亡した事件で、死因は酸欠だったことが分かった。複数のスイスメディアが報じた。
もっと読む スイス航空の緊急着陸 客室乗務員の死因は酸欠
おすすめの記事
ユングフラウヨッホ、2024年の来場者が100万人を突破
このコンテンツが公開されたのは、
ユングフラウ鉄道グループは、ユングフラウヨッホの2024年の来場者が105万8600人となり、2015年以来6度目の100万人の大台を超えたと発表した。
もっと読む ユングフラウヨッホ、2024年の来場者が100万人を突破
おすすめの記事
2024年のスイスの企業倒産件数、過去最高に
このコンテンツが公開されたのは、
スイスは2024年の企業倒産件数が過去最高を記録した。
もっと読む 2024年のスイスの企業倒産件数、過去最高に
おすすめの記事
国民投票に向けた署名がまたも偽造
このコンテンツが公開されたのは、
医療品の安定供給を求める国民投票に向けて集められた署名のうち、3600筆以上が無効な署名だったことが明らかになった。
もっと読む 国民投票に向けた署名がまたも偽造
おすすめの記事
スイスの柔道家エリック・ヘンニ、86歳で死去 東京五輪柔道銀メダリスト
このコンテンツが公開されたのは、
1964年東京オリンピックで銀メダルを勝ち取ったスイス人柔道家のエリック・ヘンニ(Eric Hänni)さんが25日、86歳で死亡した。スイス柔道・柔術協会が発表した。
もっと読む スイスの柔道家エリック・ヘンニ、86歳で死去 東京五輪柔道銀メダリスト
続きを読む
おすすめの記事
消え行く虫たちを守れ!
このコンテンツが公開されたのは、
虫は、近くにいると疎まれる存在だが、自然界では重要な役割を果たしている。そんな虫が今、激減している。絶滅に瀕するこの小さな生き物を守るために、何ができるだろう?昨年11月15日を「虫の日」に定めたスイス。政治介入を求める自然保護団体の動きも出ている。
もっと読む 消え行く虫たちを守れ!
おすすめの記事
世界一高いステーキは信頼のスイス産
このコンテンツが公開されたのは、
なぜスイスの肉は世界一高いのか―畜産農家、消費者団体、食肉業界の専門家にそれぞれの意見を聞いた。
もっと読む 世界一高いステーキは信頼のスイス産
おすすめの記事
遊泳禁止は過去の話 スイスのきれいな水
このコンテンツが公開されたのは、
漂う悪臭、魚の大量死、泳げないほど汚れた湖…。1950年代までスイスでは、排水が川や湖に垂れ流されていた。その後、事態は大幅に改善され、いまや下水道はほぼ全人口に普及するに至った。だが、新たな問題も生まれている。
今のスイスでは、川や湖の水はきれいなのが当たり前。水質に関しては模範的な国である。それゆえ、昔は川や湖に「遊泳禁止」の看板が立つほどの状態だったとは、にわかには信じがたい。
もっと読む 遊泳禁止は過去の話 スイスのきれいな水
おすすめの記事
中国化工によるシンジェンタ買収、中国農業の「現代化を促進」
このコンテンツが公開されたのは、
中国の国有化学大手、中国化工集団によるシンジェンタ(農薬世界最大手、スイス)の買収交渉が今月4日に終了した。中国企業による外国企業買収として 過去最高額での買収となる。シンジェンタは、中国の農業部門の現代化に寄与するが、同時に確固たる「欧州企業」としてのアイデンティティーを維持すると同社会長は話す。
シンジェンタのミシェル・ドマレ会長は英経済紙ファイナンシャル・タイムズに、同社は「中国政府のパートナーとなって中国の農業の現代化の原動力となり、大きな成長が見込まれる」と話した。
シンジェンタは今月5日、同社の株主が430億ドル(約5兆1600億円)での買収を承認したと発表。この買収計画が開始したのは1年以上前で、農家に種子と作物保護製品を供給する国際ビジネスで現在起きている、大規模な合併の波の一部だ。
中国は食品の輸入に大きく頼っており、中国の農業生産高は欧米諸国に比べて3〜4割低かったとドマレ氏は言う。アジア太平洋地域は現在シンジェンタの地域売り上げの約15%を占めるにすぎないが、売り上げ拡大の目標数値は設定されていない。「目標は農業を現代化し、生産高を増やすことだ」
もっと読む 中国化工によるシンジェンタ買収、中国農業の「現代化を促進」
おすすめの記事
刻々と進む生物の変化 スイスの湖の底では何が起こっているのか?
このコンテンツが公開されたのは、
最近、「生物多様性」という言葉をあちこちで耳にするようになった。また同時に、その重要性もさかんに訴えられているが、種の多様性が失われるのは本当に問題なのだろうか?
もっと読む 刻々と進む生物の変化 スイスの湖の底では何が起こっているのか?
おすすめの記事
無農薬農法は可能か?
このコンテンツが公開されたのは、
有機農業と聞けば 先進国の夢物語だと思われがちだが、これで全人類を養うことができると確信する専門家は増えている。農業の規模をより小さく多様化し、農薬を使わない手法への転換だ。ビオスイスのオリビエ氏と、ヴォー州で有機農業を実践するペグイロン氏に話を聞いた。
もっと読む 無農薬農法は可能か?
おすすめの記事
「有機農業で世界を養えるのか?」
このコンテンツが公開されたのは、
農業の生産条件に恵まれないスイスで、有機農業への取り組みが広がっている。背景には、化学肥料や農薬に依存する既存の農業が、生態系の破壊や残留農薬をもたらしているとの懸念がある。
スイス南西部ヴォー州のローザンヌ。
そこから数キロ離れた小さな町メックスにある約32ヘクタールの土地には、小麦やトウモロコシなどの農作物が植えられ、50頭の家畜も飼われている。全てクロード・ペグイロンさんが育てた有機農産物だ。
もっと読む 「有機農業で世界を養えるのか?」
おすすめの記事
バーゼルの化学薬品倉庫火災から30年
このコンテンツが公開されたのは、
バーゼル市近郊のシュヴァイツァーハレ産業地区で1986年11月1日、化学薬品倉庫が火災し、大量の有毒物質が周辺のライン川流域に流入した。殺虫剤、除草剤、水銀など1352トンが炎上し、市街は有毒ガスで酸性の煙に覆われ、川の…
もっと読む バーゼルの化学薬品倉庫火災から30年
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。