スイス連邦政府は27日、電子投票システムを国内の選挙に運用するため必要な法改正を行う方針を示した。
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連邦内閣事務局のヴァルター・トゥルンヘア連邦事務総長は同日の記者会見で、電子投票は安全で信頼性の高い方法だとし「今こそ広範な議論を行い、十分な情報に基づいた決断を下すときだ。スイスの有権者の約1割が海外に住んでおり、電子投票には十分な利点がある」と述べた。
>>スイスの連邦内閣を構成する「7人の侍」とは?外部リンク
過去15年間、国や州で電子投票を試験的に導入したケースは200件以上に上る。有権者登録を済ませた一定数の国民が、この実験に参加した。
電子投票は義務化せず、導入するかは州の判断に委ねる。現在、二つの認証済みシステムが使われている。
投票を管轄する連邦内閣事務局は今年後半にも計画の詳細を公表する。その後、政党や関係機関、州が協議し、連邦議会での審議は2年以内に行われる予定。
一方、電子投票に反対する人たちは、ハッカーらにより投票結果が改ざんされるリスクがあり安全ではないと主張している。
スイスでは昨年4月時点で、26州のうち14州が在外スイス人向けの電子投票を実施。政府は同年、電子投票を選択できる制度を全州に広げる方針を決定した。来年10月までに少なくとも18州まで増やす。
在外スイス人協会(OSA)は、有権者登録を済ませた在外スイス人全員が来年の総選挙で電子投票を選択できるよう求めている。協会は今回の政府の決定を歓迎している。
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スイスアルプスの住民たちには勇気がある。スイス東部グラールス州では10年前に、住民投票で投票年齢が18歳から16歳に引き下げられたからだ。このように民主主義を拡大したのは現在もスイスでこの州だけだ。投票年齢の引き下げにより、やる気に満ちた若い政治家が続々と誕生している。
冷たい雨の降る春のある日、レアナ・マイヤーさんは州と同じ名前の州都グラールスのツァウン通りで、小型バイクを力強く押していた。14歳の彼女は1カ月前に免許を取得。投票や選挙に参加するにはあと「2年だけ」待たなければならないが、彼女に与えられるこの投票権は特別なものだ。なぜなら、グラールス州ではスイスで唯一16歳から投票ができるからだ。この制度は2007年5月6日から導入された。
違う状況にいるのが、グラールスの青少年センターで同級生のルシアさんとテーブルサッカーで対戦していたラウラさんだ。高校生の彼女は16歳になったばかり。有権者としてこれから初めて政治に参加する。「投票権を得たということは信頼された証。これは特権だけれど、その分、責任も重い」と語る。
投票年齢ないしは選挙年齢の引き下げは現在、世界中で議論されている。この議論を活発にさせている理由の一つは、ランツゲマインデ(青空集会)という制度を持つグラールス州にある。ランツゲマインデは前近代的な集会民主主義の制度であり、直接民主制の一つの形だ。果たして、07年の住民投票で僅差で可決された投票年齢の引き下げは、グラールス州に変化をもたらしたのだろうか?若者の投票は増えたのだろうか?住民投票で革新的な案がより多く可決されるようになったのだろうか?
社会民主党青年部グラールス支部は05年、16歳投票権の導入案を住民投票にかけようとしていたが、その際に理想とした若者のイメージがあった。それは様々なことに興味があり、活動的で、政治に積極的に参加しようとする若者だった。そのイメージにぴったり当てはまるのが、パスカル・ヴィシャール氏だ。自由緑の党グラールス州支部を3年前に友人と立ち上げ、現在は同党州支部代表および自由緑の党青年部共同代表を務める。さらに、10代の若者に州の政治を体験してもらう目的で、グラールス州青少年議会を運営している。
大きな推進力
「投票年齢が16歳に引き下げられたことで、私自身の政治への参加意欲がすごく沸いた。また、この住民投票結果を私は誇らしく思う。グラールス州はスイスではどちらかと言うと後進的なイメージがあるからだ。住民が16歳投票権に賛成したことは革新的だし、この地域でも政治的に何かを動かせることが証明された」と、現在ザンクト・ガレン大学で経営学の分野で博士論文を執筆中のヴィシャール氏は言う。
スイスには26州あるが、グラールス州は他の州と一味違う。同州では法改正は昔からランツゲマインデで決められている。年に1度、5月最初の日曜日に何千人もの州民が州都の中心にある大広場「ツァウンプラッツ」に集まり、投票を行う。投票は挙手で行われ、皆の目にさらされる。秘密投票は存在しない。多数決の結果はランダムマンと呼ばれる州知事が判定する。
グラールス州はスイスの中でも小さな州に属する。スイスの中心に位置し、険しく切り立つグラールス・アルプスの谷間に約4万人が暮らす。有権者数は2万6500人。そのうちの一人が32歳のマルコ・キストラー氏だ。彼も投票年齢に関する議論に触発され、05年頃から政治活動を行うようになった。そして06年、16歳投票権よりも画期的な案をランツゲマインデで可決に導いた。それは、同州に25あった自治体を合併して三つの大型の自治体に編成するというもので、現代のスイスで他に例を見ないことだった。
この成功に勢いづき、若き社会民主党党員のキストラー氏は州議会議員に選ばれた。09年には保守派の政治家6人の支援を受け、新しくできた大型自治体「北グラールス」の参事会メンバーに選出された。それ以降も、「私たちの社会には根本的な変化が必要だ」と確信する同氏の活躍は終わりを見せない。ここ数年間は、社会問題に関する提案の推進キャンペーンを指揮。これらの提案が国民投票で可決されることはなかったが、世間で激しい議論を巻き起こし、同氏の名が知られることとなった。同氏が関わった提案の一つは「1対12イニシアチブ」と呼ばれるもので、そのねらいは行き過ぎた給料格差を縮めることだった。
伝統と進歩はグラールス州では一見矛盾しているように見える。ランツゲマインデでは前近代的な慣習やしきたりが重んじられている。例えばランダムマンは時間通りに行進し、集会中は古い剣で体を支えなくてはならない。集会の締めくくりには参加者同士で子牛のソーセージを食べることも慣習の一つだ。しかし同時にグラールス州の有権者は新しいことにもオープンでいる。
バーゼルとフリブールでも
投票年齢を16歳に下げたものの、グラールス州はグラールス州のままだ。ある人は恐れ、またある人は望んだ変革は訪れなかった。ただ、民主主義の形がある意味「進化」したと言える。
スイスの隣国オーストリアでも08年から、16歳から18歳までの若者も年上の人たちと同じ目の高さで政治問題に関わることができる。ある学術研究によると、オーストリアでは投票年齢の引き下げにより若者の政治への関心が高まったが、他方で投票行動にはほとんど違いが見られなかった。
投票年齢の引き下げはスイスのほかの地域でも検討されている。バーゼルラント準州では今秋、社会民主党青年部による同様の提案が住民投票にかけられる。フリブール州でも基礎自治体で16歳投票権を導入する案が議論されている。同州政府は、投票年齢を引き下げれば政治に活気がでるとみている。
連邦レベルの著名政治家も投票年齢の引き下げに賛成している。連邦閣僚のディディエ・ブルカルテール外相はこう語る。「16歳投票権には賛成だ。スイスという運命共同体に対し、若者の間で責任感が強まるからだ」参政権拡大への長い道のり
イランは革命で皇帝を追放後、選挙年齢を大胆にも15歳に引き下げた。しかしそれに追随する国はなく、イランの選挙年齢は2007年に再び18歳に引き上げられた。18歳選挙権は現在、世界的にスタンダードとなっているが、日本では最近になって導入された。
投票年齢の引き下げは世界中で段階的に行われている。1950年頃までは20歳投票権がほぼどの国でも適用されていたが、その後投票年齢は18歳に引き下げられ、現在ではさらに16歳に引き下げることが議論されている。スイスのグラールス州とオーストリアのほか、スコットランド、マルタ、ドイツの数州では16歳投票権がすでに導入されている。スカンジナビア諸国でも活発に議論されており、特にノルウェーでは基礎自治体レベルでの投票年齢引き下げが試験的に行われている。
筆者について
コーラ・プファッフェロットは国際NGOデモクラシー・インターナショナルの広報担当で、スイス民主主義基金の事務局長を務める。
ブルーノ・カウフマンはスイスインフォの民主主義分野の特別顧問を務める。
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