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スイス主要メディア、日本の集団的自衛権の閣議決定を批判

今後の関連法案次第で、自衛隊が同盟国の戦争に加わることも可能性として出てきた Keystone

安倍内閣が1日、集団的自衛権の行使容認を閣議決定したことに対し、スイスの主要メディアは「日本は平和主義に別れを告げた」「安倍氏は法的に姑息な手を使っている」「中国との緊張関係を再度高めるような閣議決定だ」などと厳しく批判している。

 自衛の措置であれば日本が同盟国の戦争に加担できる集団的自衛権の行使容認が閣議決定されたというニュースは、閣議決定の翌日、スイスの主要メディアで報じられた。

民主主義から外れた政治決断

 スイスのメディアは全体として、安倍晋三首相が閣議決定するに至ったプロセスが民主的ではない点を批判している。

 スイス国営放送は昼のニュース番組で、数千人が首相官邸前で抗議活動を行った様子を放送。新宿で閣議決定に抗議する男性が焼身自殺を図ったことや、日本国民の過半数は反対しているという世論調査を引きあいに、安倍内閣の早急な閣議決定は国民の同意を得ていないと断じた。

 国民の反対をかわすために、安倍氏は正式な手続きを経て憲法改正することなしに「法的に姑息な手段に出た」と論じたのは、保守派の一流紙NZZ。今回閣議決定ができたのは、まず国会で与党が過半数を占めていたこと、連立を組む公明党が武力行使の新3要件が数カ所新しく書き換えられたことで「大人しくなってしまった」こと、自民党内にほとんど反対派がいなかったことなどを理由に挙げる。

 また、安倍政権下では内閣人事局が過去にないほど多くの官僚ポストを指定したために、官僚が政権批判しにくい環境が作られたとNZZは指摘。さらに、安倍氏に近い経営委員会の指揮の下で、公共放送のNHKは安倍政権に「へつらっている」と同紙はみる。実際、新宿の焼身自殺未遂のニュースはNHKでは流れていない。

 スイス通信は、今回の閣議決定を「非常に議論の余地があるもの」とし、同じく安倍内閣と国民の意思とのずれを強調。「平和憲法は国民の大半が支持しており、1967年には武器輸出三原則もできた。しかし、武器輸出の禁止でさえ、安倍内閣は3カ月前に『平和に貢献』し、『積極的平和主義』にかなうのであれば認めることにした」と指摘している。

岸信介と軍国主義を神聖化

 安倍内閣が閣議決定に至ったのは、「米国との同盟関係を強化したかったからだ。米国のミサイル、空母、核兵器がなければ日本は自国を守れない」と、スイス国営放送は特派員のマルティン・フリッツ氏の分析を紹介している。

 左派寄りの日刊紙ターゲス・アンツァイガーは閣議決定の理由を「(米国との)同盟関係を強固にし、東南アジアにおいて中国との『均衡』を取ろうとしているため」とみる。そのために、安倍氏はシンガポールで開かれたアジア安全保障会議で「積極的平和主義」を唱え、アジア地域における自衛隊の役割を強調し、民間企業が武器輸出ができるようにする意向を表している、と説明する。

 同紙はまた、安倍氏の「軍国主義的な理想」は祖父・岸信介に由来すると分析。「戦後初めて憲法9条を廃止しようと試みた岸だったが、反対にあい断念。だが安倍氏はそんな祖父と、19世紀の軍国主義を神聖化している。これが彼の決定的な動機だと専門家の多くが認識している」と辛口に批判を展開している。

周辺国との関係悪化か

 今回の閣議決定で、過去に日本の侵略にあった周辺諸国との関係性は悪くなると指摘するのは、仏紙ル・モンド。フランス語圏の日刊紙ル・タンが掲載したル・モンドの「日本の軍隊は自衛のための軍隊ではなくなる」という題の記事では、この閣議決定は同盟国の米国では歓迎されるが、中国との緊張関係を再度高めると主張している。

 ターゲス・アンツァイガー紙は、「安倍氏は日本の麻痺した経済を活発化させることが優先事項だと述べているが、それができるかどうかは貿易相手国の中国や韓国との関係によるところが大きい。憲法9条の解釈を変更すれば、両国を侮辱することになる」と、経済への影響を危惧する。

 同紙はまた、シンガポールのリー・クアンユー元首相の逸話を紹介。国連の平和維持活動(PKO)に日本が参加することに反対していた同氏はこう語ったという。「日本と軍国主義の関係は、元アルコール中毒者のようだ。元アルコール中毒者にチョコレートをあげるとする。もしそれにアルコールが含まれていようものなら、その人はそれを必要以上に求めてしまう」

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