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スイス各紙、民主を批判し安倍氏にも危機感

民主党に大差をつけ勝利した自民党の安倍晋三氏 Keystone

原発、消費増税、デフレ。重い課題を抱える日本で2012年衆議院選挙が行われ、結果は自民党の圧勝。スイス各紙は大敗した民主党を批判しながらも、ある程度評価した。一方、「新」総理となる安倍晋三自民党総裁にも厳しい視線を向ける。

民主党大敗の理由

 「日本の選挙民は野田佳彦首相と民主党を罰した」。ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー(Tages Anzeiger)は、国民は民主党に反対するために自民党に一票を投じたと分析。また、民主党候補と自民党候補の2択しかない選挙区が多いことも、自民党に有利に働いたとみる。

 同紙はまた、3年前の2009年に民主党が勝利したのは、国民から支持を得たからではなく、経済界や官僚と絡み合う自民党に対し嫌気がさしたためだと説明。だが、「この3年間で民主党はみるみるうちに『自民党の粗悪なコピー』に様変わりした」と、民主党政権を批判した。

 ドイツ語圏の日刊紙NZZは「衆院選の投票日を自身で決めるというポーカーゲームは、完全に失敗した。(…)歴史的な政権交代から残ったものはほとんどない」と3年の短命に終わった民主党政権を振り返る。同紙はさらに、民主党政権下でも日本の政治は根本的に変わることはなかったと指摘。政権与党が変わっても、官僚主義で凝り固まった今のシステムを変えることはできないのではとの不信感から、国民はなじみの自民党を選んだのではないかと分析する。

 フランス語圏の日刊紙ル・タン(Le Temps)は、「誰に投票していいか、分からない人が友達には多かった。誰が政権を取ろうと、何も変わらないという絶望感もある」と話す25歳の日本人女性のコメントを掲載し、20代の投票率の低さを強調した。

それでも民主党を多少評価

 大敗を喫した民主党だが、NZZ紙とターゲス・アンツァイガー紙はこれまでの民主党政権をある程度は評価もしている。NZZは「特に野田政権と、当時の菅直人政権はあまり悪くはなかった。だが、民主党が自民党より良いともいえない」と振り返る。

 ターゲス・アンツァイガーは「2011年3月の福島第一原発事故で、民主党は被害者に緊急支援を行うことも、復興を進めることもできなかった。だが、もし自民党が与党だったら事態はもっと深刻になっていたはずだ。危機の中、自民党は民主党との協力を拒否してきたのだから」と、自民党の危機対応能力に疑問を投げかける。

 尖閣諸島問題においては、ル・タンは「野田首相は、(自民党に比べて)中道をいく外交政策で中国との外交的な接近を目指していたが、結局成功しなかった」として、その姿勢を自民党よりはましだったと評価。一方で、タカ派の安倍氏には中国との関係改善に努める様子はみられないと指摘。「(安倍氏はこれまで)尖閣諸島問題でも、従軍慰安婦問題でも、中国側の信頼を取り戻すことは何も行わなかった」と評する。

脱原発の行方

 今回の選挙では、原発に対する政策が一つの判断の基準になり、いわゆる「第三極」政党が注目された。ターゲス・アンツァイガーは、脱原発を掲げた日本未来の党は注目すべき成功を収めたと評価。一方、NZZは同党が期待されたほどの議席を獲得できなかったことから、「負け組」に数えている。

 NZZは、脱原発票についてこう書く。「日本人の半数以上が原子力をあきらめたいとの思いだが、反原発派はこの思いを票に変えることはできなかった。地方選挙ではここ数カ月間、反原発派の候補者が落選しており、それは国レベルでも同じことになった。原発推進派の自民党が圧勝したことが、この傾向を強調している」

 原発問題は今後どうなっていくのだろうか?原発維持の姿勢を見せる安倍氏だが、それを貫くのは難しいと、ル・タンは書く。「民主党が2030年代に原発ゼロと提示したが、安倍氏はそれを『非現実的だ』と切り捨てた。よって事態は思わしくない方向に進んでいるが、一方で公明党は『段階的脱原発』を目指している。さらに9月に発足した原子力規制委員会は再稼働を決める指標を決定する権限を持っている。最近活断層が発見された原発もあり、再稼働は断念されるはずだ。したがって、安倍氏の原発維持の方向は、うまくいかないだろう」

バック・トゥ・ザ・フューチャー

 脱原発問題以外においても、政権が民主党から自民党に交代したからといって、日本の未来が明るくなると予想するスイスメディアはない。NZZは、日本には長年続くデフレ問題や、高齢化社会における社会問題など喫緊の課題が山積みしており、国民全体に悲壮感も広がっていると指摘。

 だが、「安倍氏はこうした問題への有効な手立てをほとんど持ち合わせていない。また、国家主義的な傾向がある安倍氏は、日本を外交的に厳しい立場に追いやってしまうかもしれない」と危機感をにじませる。

 バーゼルの日刊紙バーズラー・ツァイトゥング(Basler Zeitung)は今回の選挙の記事に「極東でバック・トゥ・ザ・フューチャー」との見出しをつけ、日本は今後、過去へ逆戻りすると予想する。「初めて首相を務めた当時、安倍氏は党内の反対者を抑えることができず、希望の法案を通すこともできなかった。結果、自民党はその後の参院選で議席数を大きく失った。日本が抱える問題に対し解決策を見いだせなければ、以前の失敗を繰り返すだろう」

 ターゲス・アンツァイガーも同様の意見だ。「3年前に日本人が歴史のゴミ箱に捨てた過去が、また戻ってくる」と書く。同紙はまた、安倍氏の「リーダーシップ」を問題視する。「(当時の)安倍政権はスキャンダルに見舞われ、何も成し遂げられなかった。安倍氏は1年後に潰瘍性大腸炎を理由に退陣。(…)しばらくすれば、日本人は再び、(安倍氏に代わる)『リーダーシップ』を求めていくことになるのだろう」

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