ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー氏が2024年の大統領選に向け政敵を陥れようとしており、同国の民主主義が「重大な局面」を迎えている――スイスの連邦情報機関(NDB)がウクライナの内政についてこんな報告書をまとめていたことが明らかになった。
このコンテンツが公開されたのは、
ドイツ語圏の日刊紙NZZ日曜版外部リンクは、ロシアで起きた民間軍事会社ワグネルによる武装蜂起を受けてNDBが作成した報告書を入手。同紙(8日付)によると、同報告書は「信頼できる情報」に基づいて作成され、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が2024年の選挙を控え、最大のライバルであるキーウのヴィタリー・クリチコ市長を政治的に排除しようとしていると指摘した。
さらにNDBは報告書で「クリチコ氏を政治的に排除しようとするゼレンスキー氏は、権威主義的な性格を有している」と分析。そのため「西側諸国がゼレンスキー大統領とその側近に圧力をかける可能性は高い」と結論付けた。
同紙によると、報告書がスイス連邦政府に提出されたのは、国有軍需会社ルアグの保有する戦車「レオバルド1」のウクライナへの輸出の可否を連邦内閣が審議する前日の6月27日だった。政府は申請を却下している。
ザンクト・ガレン大学のウルリッヒ・シュミット教授(東欧専門)はゼレンスキー氏の再選について「ロシアの攻撃に直面してもキーウを離れないという勇気ある決断をして以来、同氏は国民の間で高い信頼を得ている。また、海外に支援を求める国の最高代表としての機能を非常によく果たしている」と語り、落選する心配はないとNZZに語った。しかし同時に、ウクライナには民主主義のためのいくつかの要素が欠けていると指摘。民主主義が機能するための前提条件である「独立政党と自由な報道機関のどちらも今のウクライナにはない」と述べた。ただ、「戦争は行政府を強権化する。このような展開は驚くべきことではない」とした。
スイス連邦外務省と国防省は、同報告書に関するNZZの問い合わせに対し、回答を拒否した。
批判に押され気味の支持
ロシアがウクライナに侵攻して以来、ゼレンスキー氏はスイスを含む西側諸国から幅広い支持を得ている。同氏は先月15日、スイス連邦議会でビデオ演説を実施。スイス国民党(SVP/UDC)議員の大半は議場に現れず演説をボイコットしたが、多くの議員がこれをあたたかく受け入れた。ウクライナが自国を防衛するために支援を与えるべきだという点では、どの政党も同意している。ただ、一部の国会議員は、ウクライナの民主化が先決だと強調している。
社会民主党(SP/PS)のセドリック・ヴェルムートゥ共同党首は「私たちの連帯意識は(ゼレンスキー氏という)個人や政党に対してではなく、攻撃を受けているウクライナ国民に対するものだ」と話し、「ゼレンスキー氏の国内政策が左派的な観点から批判されるのは当然のことだ」と懸念をのぞかせた。
中道右派・急進民主党(FDP/PLR)のダミアン・コティエ議員は同紙に対し「戦争が終わり次第、自由で公正な選挙を直ちに実施しなければならないことを、ウクライナ政府にはっきり言うことが重要だ」と述べた。
英語からの翻訳:大野瑠衣子
おすすめの記事
チューリヒ、男がナイフで園児襲撃 命に別状なし
このコンテンツが公開されたのは、
チューリヒ市北部で1日、路上を歩いていた園児の集団に男が刃物で切りつけ、子ども3人が負傷した。チューリヒ市警察は中国人留学生の男(23)を逮捕した。
もっと読む チューリヒ、男がナイフで園児襲撃 命に別状なし
おすすめの記事
氷河の融解でスイスとイタリアの国境に変化
このコンテンツが公開されたのは、
スイスはイタリアとフランスとの国境を変更した。イタリアとの国境は氷河の融解、フランスとの国境はジュネーブ地方の新しい路面電車と河川にそれぞれ関連している。
もっと読む 氷河の融解でスイスとイタリアの国境に変化
おすすめの記事
スイス中央銀行、0.25%の利下げ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス国立銀行(中銀、SNB)は26日、政策金利を0.25%引き下げ、1%にすると発表した。
もっと読む スイス中央銀行、0.25%の利下げ
おすすめの記事
チューリヒ市の有権者、CO2回収プロジェクトを支持
このコンテンツが公開されたのは、
チューリヒ市の有権者は22日の住民投票で、市内の下水処理場における革新的なCO2回収プロジェクトを承認した。
もっと読む チューリヒ市の有権者、CO2回収プロジェクトを支持
おすすめの記事
ムーティエのジュラ州編入 住民投票でも可決
このコンテンツが公開されたのは、
人口7200人の州境の町ムーティエが2026年1月1日にベルン州からジュラ州に編入する協定が、22日の両州の住民投票で可決された。
もっと読む ムーティエのジュラ州編入 住民投票でも可決
おすすめの記事
広島被爆の三輪車レプリカ、ジュネーブで展示
このコンテンツが公開されたのは、
1945年8月6日、広島への原爆投下で被爆し死亡した子どもが乗っていた三輪車のブロンズ製レプリカが、ジュネーブの国際赤十字博物館に展示されている。
もっと読む 広島被爆の三輪車レプリカ、ジュネーブで展示
おすすめの記事
スイスの人口が900万人を突破
このコンテンツが公開されたのは、
連邦統計局(FSO)が19日に発表した2024年6月末のスイスの永住人口は900万2763人で、初めて900万人を突破したことがわかった。
もっと読む スイスの人口が900万人を突破
おすすめの記事
苦境のスイス時計業界 政策支援を要請
このコンテンツが公開されたのは、
スイス時計産業は難局を迎えた。スイス製時計への需要が緩み、フラン高が収益を圧迫する。業界は警鐘を鳴らしている。
もっと読む 苦境のスイス時計業界 政策支援を要請
おすすめの記事
重度障がい3歳女児を殺害した両親に禁錮8年判決 スイス
このコンテンツが公開されたのは、
スイス北部アールガウ州で、重度の障がいを持つ娘(3)を殺害したとして、地方裁判所は13日、両親を故意の殺人罪・殺人未遂罪でそれぞれ禁錮8年の実刑判決を言い渡した。
もっと読む 重度障がい3歳女児を殺害した両親に禁錮8年判決 スイス
おすすめの記事
キリスト絵画を的に射撃したスイス議員、辞職
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの自由緑の党(GPL/PVL)チューリヒ支部に所属するサニヤ・アメティ氏(32)は9日、党の役職を辞すると発表した。自身のインスタグラムでキリストと聖母マリアを描いた絵画を的に射撃の練習をする写真を投稿し、大きな批判を浴びていた。
もっと読む キリスト絵画を的に射撃したスイス議員、辞職
続きを読む
おすすめの記事
ウクライナ侵攻から1年 スイスは戦争でどう変わったか
このコンテンツが公開されたのは、
ロシアのウクライナ侵攻により、スイスはロシアの個人資産没収から自国の中立性の放棄に至るまで、これまで考えられなかったような様々な要求に直面した。だが安定が続いてきたこの国で、変化はどれほど現実的なのか。現状の分析と今後の予測をまとめた。
もっと読む ウクライナ侵攻から1年 スイスは戦争でどう変わったか
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。