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2022年2月13日のスイス国民投票

メディアへの助成金は増やすべき?スイスで国民投票へ

抗議活動
出版社のタメディアは昨年4月、ベルンの2大日刊紙の編集局統合を発表。20人分の記者職が削減されることになった。解雇対象者たちはクラウドファンディングで資金を集め、オンラインメディア「ハウプトシュタット」を立ち上げた。写真はベルンの日刊紙ブントとベルナー・ツァイトゥングの編集局前で行われた抗議活動 Keystone / Marcel Bieri

広告収入の大幅減、購読者数の減少、世界的なインターネット大手との競争――。厳しさが増すメディア業界を支援すべく、スイス連邦政府は国内メディアへの助成金の増額や、直接助成金を新たに導入する方針を掲げている。その是非を巡る国民投票が2月13日に行われる。

どのような内容か?

連邦政府は国内メディアに間接的だけでなく、新たに直接的に支援の手を差し伸べるというパラダイムシフト的な政策を打ち出した。新聞、オンラインメディア、地域のラジオ・テレビ放送局に新たに年間1億5千万フラン(約190億円)を助成するという内容だ。このメディア支援関連法案に対し、右派政治家や出版社が法律施行に反対するレファレンダムを提起。2月13日の国民投票で是非が問われることになった。

swissinfo.chが属するスイス公共放送協会(SRG SSR)はラジオとテレビの受信料で運営しているため、今回のメディア支援関連法案の影響は受けない。

スイスメディアの状況は?

インターネットが登場し、フェイスブック(現メタ)やグーグルなどの巨大IT企業が急成長したことで、スイスのメディア業界は激変した。それ以降、ニュースや広告はネットに流れ、従来のメディアの購読者数や広告収入は減少。新聞、雑誌、民放ラジオ局の広告収入はこの20年間で約4割落ち込んだ。この流れが変わる兆しはない。

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スイスのメディアは収益性の高いデジタルコンテンツの制作を目指しているが、インターネット上ではユーザーの支払意欲が低く、広告料金もかなり低い。その結果、スイスでは03年以降に約70の新聞が消滅した。そして多くの新聞が大企業に飲み込まれ、全国的にメディアの多様性が著しく損なわれた。

収入が減った結果、出版社は大幅なリストラを余儀なくされ、現在も厳しい状況が続く。編集局への影響は大きく、大勢の活字媒体の記者が職を失った。さらに新型コロナウイルス感染症の世界的大流行がこの状況に拍車をかけた。数々のイベントが中止になり、メディアは重要な広告収入を失った。

しかし、モバイルインターネットの普及や従来メディアの危機をきっかけに、新しいオンライン・プラットフォームが数多く誕生。さまざまなフォーマットやビジネスモデルを試す取り組みがこの10年間で数多く生まれた。こうしたメディア上の新たな試みの中には、比較的短期間で終わったものもあれば、成長を遂げ、雇用を創出し、地位を確立できたものもある。

後者の例には、読者の支持を集めて黒字化した雑誌レプブリーク、広告費のみで運営される無料ニュースサイトのワトソンやブリックのほか、購読料と民間基金だけを収入源とするフランス語圏スイスのプラットフォーム「Heidi.news」などがある。

メディア助成金の規模は?恩恵を受けるのは誰か?

メディア支援関連法案では、年間の助成金を1億5100万フラン増の合計2億8700万フランに引き上げる。内訳は以下の通りだ。

政府は現在、購読紙の郵送料を一部負担している。法案ではこうした間接的支援を現行の5千万フランから、7千万フラン増額し年間1億2千万フランとする。資金は連邦の現行予算から拠出する。

また、地方のラジオ・テレビ放送局に一部配分しているSRG SSRのラジオ・テレビ受信料について、現行の年間8100万フランから1億900万フランに引き上げる。

スイスの通信社Keystone-SDA、スイス新聞評議会、ジャーナリスト教育への助成金も拡大する。これらの団体を含むすべてのメディアを対象とした支援策に、現在はラジオ・テレビ受信料から400万フラン、連邦から100万フランの計500万フランが拠出されているが、法案では受信料から配分される金額を増額し、年間最大2800万フランとする。

連邦はデジタル化への移行を促進する目的でオンラインメディアへの直接支援を行う方針だが、これには賛否両論が起きている。法案では、年間3千万フランをオンラインメディアへの補助金に充てる。ただ対象は収入の一部が購読料で賄われるメディアに限られ、無料でサービスを提供するメディアは除外される。

新聞販売の助成金とオンラインメディアへの直接補助はいずれも7年間の期限を設ける。

レファレンダムを提起したのは誰か?

この法案に対する最大の反対勢力は保守系右派の国民党だ。連邦議会での投票では、国民党議員の全員が反対した。レファレンダム委員会は自らを「非政治的」と称するが、委員会メンバーの中には国民党の党員や同党に近い人物が複数含まれる。委員会には出版業者、編集者、起業家が名を連ねる。

レファレンダムを支援するための議会委員会も設置され、国民党議員約80人とその他の政党議員数人がメンバーを務める。

反対派の主張は?

反対派が問題視するのは、資金が最も潤沢な出版社や上場企業も恩恵を受ける点だ。スイスの5大メディアグループはここ数年利益を上げ、独力で運営資金を工面できていることを踏まえれば、これは経済的に正当化できるものではないという。

また、国の助成金がメディアの独立性を脅かし、ジャーナリストは第4の権力者としての役割を果たせなくなると訴える。反対派は端的に「経済的な依存はメディアの独立性を失わせる」と主張し、国の助成金は競争を阻害すると語る。

レファレンダム委員会が特に批判しているのが、助成金の分配が不透明な点だ。また、無料でサービスを提供するメディアがあらゆる支援から除外されているのは憂うべきことだとする。「予定された助成金は反社会的だ。新聞購読やオンライン購読をする余裕のある裕福な層だけが恩恵を受けることになる」

メディア支援関連法案の賛成派は?

連邦政府と連邦議会はメディアへの助成金拡大に賛成するよう有権者に呼びかけている。超党派の推進委員会のメンバーには、国民党を除く全政党の議員約100人、メディア企業80社、国境なき記者団を含む15団体が含まれる。

賛成派の主張は?

シモネッタ・ソマルーガ連邦通信相は「この支援策がなければさらに多くの新聞が消滅し、地方のラジオ局が弱体化し、特定の地域がカバーされなくなる恐れがある」と警告する。行政の編集権介入を防ぐため、直接助成金の受給には基準を導入するという。

同氏はメディアが行うべきこととして、報道的な内容と商業的な内容を明確に区別すること、政治、経済、社会に関する時事情報の伝達、業界の慣行であるジャーナリズムの基本原則の遵守を挙げる。

同氏によれば、独立したメディアはスイスの直接民主制の基盤だ。市民が十分な判断材料を得たうえで投票できるようにするには、質が高く、多様なメディア環境は必須条件だという。

ソマルーガ氏と同じく社会民主党に所属し、推進委員会メンバーのマティアス・エビシャー氏は、国民がこれほど密接に政治に関われる国はほぼないと指摘する。「だからこそ、信用性が高く、公平な情報を市民に提供する強力な独立系メディアが不可欠だ」

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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