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営業時間の延長は誰のため?

営業時間が長いと消費者にとっては便利だが、店の従業員のなかにはそれを負担に感じる人もいる Keystone

スイスでは小売店の営業時間をめぐる住民投票が、国レベル、州レベル、基礎自治体レベルで頻繁に行われている。諸外国に比べて営業時間が短いスイスだが、その背景には直接民主制が関わっている。

 スイスの多くの地域では、平日18時30分以降および日曜日は小売店が閉まっており、食料品を購入することができない。これに驚く外国人は少なくない。

 「スイスは他国で起きたような失敗をしたくないのだ」と話すのは、労働組合ウニア(Unia)のエヴァ・ゲール氏だ。「スイスにはイニシアチブ(国民発議)や、(憲法改正・法律制定の可否を国民・住民投票で決める)レファレンダムなどの直接民主主義があるため、1990年代に欧州諸国で起きた自由化の波を止めることができたのだ」

 ゲール氏がそう語るように、労働組合は州レベルに限らず国レベルでもこうした直接民主主義制度を活用し、自分たちの要求を実現させてきた。ゲール氏はまた、「スイス国民はここ数年、夜間および日曜労働の自由化を問う投票の9割を否決している」と付け加える。

 6月17日にチューリヒ州で行われた投票の結果も同様だった。小売店営業時間の自由化を求めるイニシアチブ「お客様は神様」は、反対70.7%という明白な結果で否決された(投票率40.6%)。

 急進民主党(FDP/PLR)が提起したこのイニシアチブ、反対派の労働組合はこの結果に満足し、今後も販売員などの就労環境改善に向けて活動していく意向を明らかにした。

徐々に進む自由化

 スイスでは、小売店は基本的に月曜日から土曜日の朝6時から夜23時まで営業することができる。しかし、各州は労働者の保護を目的とした労働法を優先して実施しなければならないため、州法で営業時間を制限しているところがほとんどだ。

 その一方、ここ数年で変化も見え始めている。雨後の竹の子のように出現しているガソリンスタンドの売店や駅構内の小売店をはじめ、家族経営の小売店などでは、数年前から営業時間の延長が認められており、空港や観光地でも同様だ。

 営業時間延長をめぐっては、ほとんどの住民投票で否決されているが、このテーマは繰り返し政治的議論の的となっている。ゲール氏は、これは小売業者の間で繰り広げられる激しい競争の表れであると述べ、次のように話す。「(もし営業時間延長が可能となってしまえば)個人経営の小売店は(大手小売業者に)押しのけられてしまう。人件費が高いうえに売り上げが少ないため、営業時間を延長する余裕がないからだ」

自発的でない夜間労働

 ゲール氏はさらにこう語る。「夜間や日曜日に買い物をしたい人は、それが従業員の負担のうえで成り立っているということを自覚すべきだ。従業員は自発的にレジの前に座っているわけではない。営業時間を絶えず延長し続けることで、従業員は家族や友人と過ごす自由な時間を失い、サークル活動や地域活動ができなくなってしまうのだ」。ゲール氏はまた、労働組合ウニアが小売店従業員対象に行ったアンケートでは、従業員の誰も営業時間の延長を望んでいないことが明らかになったと話す。

 連邦議会では現在、ガソリンスタンドの売店の24時間営業を求めた議案が審議中だが、これに対し労働組合のウニアはレファレンダムで対抗する構えを見せている。

 ウニアはスイス小売業者連盟(SDV)からも支持を得ている。同連盟は「一部の市場参入者が、小売業者間の厳しい競争で得をするだけだ」と述べ、この議案に反対している。

買い物観光客をターゲット

 全く違う意見なのは大手小売業者で、営業時間の自由化に関するすべての議案に賛成している。特に、大手小売業者利益団体(IG DHS)は自由化を目指してロビー活動を展開している。国境の向こう側にいるライバルに太刀打ちするためだ。

 「土曜日に国境近くの外国で大きな買い物をする人が多いため、土曜日は最大の問題となっている」と話すのは、大手スーパー、ミグロ(Migros)で主任ロビイストを務めるマルティン・シュラプファー氏だ。例えばスイスと国境を接するドイツは、「人口のあまり多くない南の方に、大手ディスカウントのアルディ(Aldi)やリドル(Lidl)などの商業施設を建設している」と述べ、スイス人買い物客を狙った戦略を行っていると指摘する。

 シュラプファー氏によれば、外国で買い物をするスイス人の数は記録的に伸びており、ドイツと国境を接するバーゼル地域では、個人の関税納付は2011年で67%も増加している。その背景にはスイスフラン高があるが、それ以外にも外国の営業時間が自由化されている点があるという。

 そのため、シュラプファー氏は「政府には、(スイスと近辺諸国との)営業時間が合うようにしてもらいたい。スイスも経済圏なのだから」と話す。具体的に言えば、営業時間は月曜日から土曜日は朝7時から夜20時、週に1日は夜21時まで、また1年間に4回の日曜日の営業許可だ。

 一方政府は5月中旬、営業時間の規制は国レベルで行うのではなく、引き続き各州が行うものと断言したばかりだ。

 「ヨハン・シュナイダー・アマン経済相にはがっかりした。経済相としては、国境で起きていることを無視すべきではない」。シュラプファー氏はそう話し、小売業はサービス業務が多いためにスイス国内で雇用が減る危険性があると警告する。「販売員の多くは営業時間延長に関しては保守的だが、それはこれまで雇用の保障がほとんど問題とならなかったからだ。しかし今は、スイスフラン高という新しい時代に突入している」

消費者保護基金(SKS)のサラ・シュタルダー事務局長は、同基金は営業時間延長には賛成でも反対でもないと言う。ただ、「すべての州で営業時間が統一されればメリットはある」が、地域によって異なる需要に応じる必要があると話す。

消費者保護基金は、営業時間帯が法律で決まっていることを歓迎している。「(このおかげで)消費者は安心して買い物ができる。だが、その時間帯以降の営業となると、個々の場合を考慮する必要がある。販売員に負担を強いて営業時間を延長するというのは、多くの消費者には受け入れがたい。販売員は常に良い待遇を受けているというわけではなく、雇用者側からの圧力に弱い」

ガソリンスタンドの売店の24時間営業については、消費者保護基金はおおむね肯定的だ。「ガソリンスタンドの売店は特定の時間帯になると、商品の一部しか販売できず、陳列棚をカバーで覆って隠さなければならない。これは不可解な状況だ」

ドイツ

営業時間の規制は各州に委ねられている。日曜日および祝日について定めた法令は労働時間法に規定されており、ドイツ全体で統一されている。スイスと国境を接するバーデン・ヴュルテンベルク州では、営業時間は平日0時から24時で、日曜・祝日には年3回営業できる。

オーストリア

開店時間法によれば、小売店は月曜日から金曜日は朝6時から夜21時まで営業でき、土曜日は夕方18時までとなっている。日曜日は原則営業禁止。しかし例外も多く、各州政府首相が条例を定めて営業時間を延長することができる。地域特有の需要がある場合、土曜日は夕方18時以降、また日曜・祝日も営業が許可されている。

フランス

平日の営業時間に関する法規制はないが、地方では昼休みを設けているところがある。朝9時から夜20/21時まで営業しているスーパーが多く、日曜・祝日には小規模な小売店が営業している。

イタリア

2012年以降、イタリアでは営業時間に関する規制はない。小売店は24時間営業することができる。

(独語からの翻訳・編集、鹿島田芙美)

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