「外国人にも地方参政権を」
スイスに住む外国人には、義務はあるが投票権はない。だが在外スイス人はその反対だ。この状況は不公平だと指摘する元外交官のポール・ヴィドメール氏が、その考えを語る。
そう、スイスに住む外国人は十分な権利を持たないのに、国外に住むスイス人には多すぎるほど与えられている。前者は自分に直接関わってくる決定に参加する権利を持たないが、後者は自分に全く影響のない事案にも意見を表明することができるのだ。
健全な国家の下では、権利と義務の間でバランスが取れているものだ。義務なくして権利はなく、権利なくして義務はない。ある決定の影響を受ける者は、その決定プロセスに参加する手段を与えられなければならない。
人は、それは正しいがスイス人にのみ当てはまると反論するかもしれない。だがそうだろうか?200万人以上の外国人が住むスイスは、社会に馴染み、能力ある外国人を必要としている。国の特性としてスイスには、社会のあらゆる階層を組み入れる、次のような要素があることを忘れてはならない。
-第一に、スイスの民主主義はコンセンサスに基づくものであり、多数派支配型民主主義ではない
-第二に、スイスは多様な解決策がある連邦制をとっており、一つの形態しかない中央集権型に比べ、多くの利点がある
-第三に、多くの権限が、特に自治体に与えられる。インテグレーション(社会統合)の出発地点となる自治体に。これほど外国人のインテグレーションに有利な条件の揃った国を、私はスイスの他に知らない。
自治体や学校において、このような利点を生かさない手はないのではないか?一方、国レベルの投票権や被選挙権を外国人に認めるのは、彼らがスイス社会にうまく溶け込み、スイス国籍取得をして初めて認められるべきだろう。
先駆的な州
一部の州では、もうずいぶん前から外国人に投票権が与えられている。特にヌーシャテル州ではその歴史が長く、1849年から自治体レベルで投票できる。チューリヒ市のコリーネ・マウフ市長は、チューリヒ州の自治体に2年以上住み、働き、税金を納める外国人に対して投票権を与えるよう要請している。もっともな意見だが、2年という最低在住期間に関しては議論の余地がありそうだ。新しい住人はまず、地域の特性に十分に慣れる必要があるからだ。
外交という仕事では、外交官は4年経つと新しい任地に根付くと言われる。彼らが異動になるのはそのためだ。それを参考にするなら、外国人の多くはおおよそ4年ほどで地域に馴染むと考えてよいだろう。
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スイスでは誰が投票できる?
では次に、75万人いる在外スイス人について考えてみよう。彼らはスイスで行われる議員選挙にも投票にも参加できるが、その結果の影響を受けることはない。2015年に、僅差で可決された国民投票の結果を左右したのは在外スイス人だった。国内スイス人の大半が反対していたにもかかわらず、在外スイス人票が決め手となり、テレビ・ラジオの受信機器の有無に関わらず全世帯に支払いを義務付けるという新しい受信料制度改正案が可決された。在外スイス人はスイスの受信料を払う必要はない。ここに、権利と義務のバランスという原則への侵害が存在する。
多くの在外スイス人が祖国に愛着を感じている。スイスがその忠誠心を歓迎するのは当然だ。だが、投票権や被選挙権は忠誠の一部ではない。私たちは国の内側でより厳しくなるものだ。
ベルン在住のザンクトガレン出身者として、私はベルン州の政治と同じくらいザンクトガレン州で起こっていることに大きな関心がある。だが、だからと言って私がザンクトガレン州で投票してよいという理由にはならない。ザンクトガレン州に再び住み、そこで義務を果たすようになってのみ投票権を得ることができるのだ。
このような批評をすれば、在外スイス人から疎まれることは分かっている。だが私は、オープンに、ある種の機能不全を問題として取り上げたいのだ。二重国籍問題もそうだ。不公平で権利の基本原理を侵している。二重国籍者は二つの国で政府を選出できるという点で、国籍を一つしか持たない人よりも多くの権利を持っている。
二重国籍が国際関係に重くのしかかることも珍しくはない。今年の夏、ロシアのプーチン大統領はウクライナ人へのロシア国籍付与プロセスを簡易化したが、ハンガリーとルーマニアもすでに、ウクライナ西部の住民に気前よく自国の国籍を与えていた。このような状況下で、国はどのように主権を守ることができるというのだろうか?
在外スイス人の4人に3人はもう一つの国籍を持っている。スイス連邦移民委員会は、正当に何世代までが投票権と被選挙権を請求できるかを検討している。ある種の修正が必要だと思われる。そしてその修正は、スイス在住の外国人により多くの権利を、在外スイス人により少ない権利を与える方向に進まなければならないと思う。権利と義務の間のバランスを取り戻すために。
1949年生まれ。元大使。現在はザンクトガレン大学で国際関係論を教える。外交官としてニューヨーク国連本部、ワシントン、ヨルダンで任務にあたった。最近まで伊ローマ市内のバチカンでスイス大使を務めた。
(仏語からの翻訳・由比かおり)
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