スイスの「緊急事態」法制
新型コロナウイルスの拡大防止策として、スイス連邦政府は13日、全国の小中学校を休校にし、100人以上が集まるイベントや施設の営業を禁止した。こうした措置は国民生活に多大な影響を与え、経済損失も免れられない。感染症の拡大を防ぐために、スイス当局はどこまで強権を発動できるのか。
経済活動の制限など、連邦・州政府がとれる選択肢は何か?
緊急対策の法的根拠は?
スイスでは州政府が強大な自治権を持っているため、事情は極めて複雑だ。
だが感染の深刻度に合わせて、各州はこれまでより密接に相互調整を図り、連邦政府の勧告に従うようになっている。
州の権限が大きい連邦制の最大の長所は、地域ごとに的を絞った措置を講じられることだ。だが足元のように全国的に大流行している場合、こうした断片的な対応は基準にばらつきができ、かえって混乱を招く恐れがある。
連邦議会が2012年に可決した感染症法外部リンクは、こうした状況の下で連邦政府の裁量を増やし、各州統一の措置を下せるようにする。新型コロナウイルスの流行は、この趣旨が適用されるスイス初の事例となった。
スイス感染症法では、 連邦内閣は「特別事態」(第6条)と「非常事態」(第7条)の2種類を宣言できる。
連邦内閣は先月28日に「特別事態」を宣言した。経済と公衆衛生に重大な結果をもたらすリスクがあるときに宣言される。13日の会見でも、「非常事態」への引き上げは見送った。
「特別事態」下では、普通なら州政府の管轄である一部措置を連邦政府が講じることができる。ただし州政府と事前に協議しなければならない。連邦政府が同日、1000人以上が集まる大規模イベントの禁止を決めたのは、この規定に基づく。
「非常事態」になると、連邦政府は国土の一部または全体に対して追加の措置を講じることができる。州政府との事前協議は不要になり、州は連邦政府の決定に従う。イベントの参加人数を制限したり、学校や大学、その他の公的・私的機関の閉鎖を命じたりできる。国内の活動を一部制限できるというわけだ。
連邦・州・基礎自治体の役割分担は?
連邦政府は「特別事態」を宣言すると同時に、大規模なイベントの開催を禁止した。連邦政府の定めた条件は「1000人以上が集まる」だったが、13日には「100人以上」に禁止対象が広がった。美術館やスポーツジムなどの公的・私的施設も対象だ。
各州はさらに厳しい措置を取ることもできる。最も厳しい措置を講じたのはティチーノ州だ。社会生活を大幅に抑制できる「差し迫った状態」にあると宣言し、休校措置などもいち早く導入した。
今回、連邦レベルで取られた措置の1つが、企業救済を目的とした操業短縮制度の拡充だ。同制度は、生産活動が急減しても雇用を減らさなくて済むよう、労働時間を減らし、賃金を失業保険が補填する仕組み。制度を統括するスイス連邦経済管轄庁(SECO)は、申請手続きを簡素化すると強調している。
連邦政府はまた、さまざまな感染予防運動を国民に呼びかけている。連邦内務省保健局が発行した最初の勧告は、手洗いや咳エチケットなど衛生に関する内容だった。感染が広がると、「社会的距離」を保ち、症状が出ている人は自主的に自宅待機するよう推奨した。
連邦政府が宣言する「緊急事態」とは?
連邦憲法第185条は、国家の安全を確保するための措置、また「公序良俗の差し迫った混乱」に対処するための措置を講じる権限を連邦内閣に与える。
緊急事態の場合は、最長3週間、最大4千人の軍隊を動員できる。期間延長や人員が4千人を超える場合は連邦議会の承認が必要。第二次世界大戦中はこの規定が適用された。
だがスイス当局は、足元の感染拡大に際して必要な措置は感染法上の規定で事足りるため、憲法第185条の適用には至らないとの見解を繰り返し示している。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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