スイス連邦政府が新型コロナ危機を受けた経済・金融支援を拡充している。8日は失業を防ぐための操業短縮制度の対象拡大や手続きの簡素化を発表した。無利子融資策も倍増。一方、債務取り立て手続きの留保は16日までとし、延長しないと決めた。
このコンテンツが公開されたのは、
ギー・パルムラン経済相は8日の記者会見で「この国の次の世代が苦しまないように、さまざまな経済主体と共に経済を守らなければならない」と述べた。3月の失業率は2.9%と、2018年2月(3.1%)以来約2年ぶりの高さだった。経済相はコロナ危機で「7%に達する可能性がある」とし、「人々が働き続けられるよう、あらゆる策を講じる」と強調した。
操業短縮制度の対象を拡大する。これまでは仕事量が2割以上減った従業員が対象だったが、6カ月以上同じ企業で働いていれば誰でも利用できるようにする。これにより、国内20万人の派遣社員が解雇されるのを防ぐ。制度の利用者はこれまでに約150万人と、全労働力の3割に達している。
同制度を利用して減らした労働時間を、他の企業での労働に充てた場合も、補償金は減額しない。医療や農業、物流などで緊急に増員が必要になっている部門に、労働時間の減った労働者が移りやすくする。会計手続きを簡単にして、賃金の支払いがスムーズに済むようにする狙いもある。
また労働時間が85%以上減った場合は、補償金の受給期間の上限(4カ月)をなくす。
シモネッタ・ソマルーガ大統領は8日、航空会社の経営を下支えする方針も示した。スイスの空港では新型コロナの影響で95%以上減便。対象はスイス・インターナショナル・エアラインズと傘下のエーデルワイス航空、イージージェット・スイス、スカイガイド、3カ所の空港とその関連会社。しかし、具体的な支援方法は検討中だ。
一方、タクシー運転手など営業禁止の直接の対象ではない業種への補償の創設は見送った。業績保険との兼ね合いや不正利用の防止策など、検討を続ける。
また営業を禁止された商業施設が賃料を払えなくなっている問題については、「借り主と貸し主との間で合意が必要だ」(パルムラン氏)として、政府による裁定を見送った。今秋にも結論を出す。
資金繰り支援は倍増
政府は金融支援も拡充している。3日に無利子の緊急融資に対する政府保証枠を、これまでの200億フランから400億フランに増やした。2日までに7万5千件、総額143億フランの融資が実効され「まだまだ融資の需要があり、申請が増え続けている」(ウエリ・マウラー財務相)ことを受けた。
緊急融資制度は50万フランまで無利子で、政府の100%保証を受けられる。50万フラン超2000万フランまでは0.5%、80%政府保証となる。融資額は企業収益の1割が上限で、5年間は返済の義務がない。
マウラー氏はこれまで目立った不正利用はないとしつつ、不正行為を防ぐための規則や手続きを強化する方針を示した。不当なローン申請や重複申請を選別するための中央組織を設ける。融資枠を水増ししていないか、税務記録を精査する。
虚偽申請に対して、財務省は企業だけでなく会社の取締役を起訴するために刑事制裁の強化を検討している。
カリン・ケラー・ズッター司法・警察相は9日、債務取り立て手続きの禁止と民事・行政訴訟の停止措置を4月16日以降は延長しないと発表外部リンクした。企業破産を防ぐために最適な方法ではないとの判断。連邦司法省は16日までに別の破綻回避策を検討する。
おすすめの記事
おすすめの記事
スイスの4.7兆円経済対策に不満の声
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦政府がまとめた420億フラン(約4兆7千億円)の緊急経済対策は、新型コロナウイルスに苦しむスイス経済の救済には不十分だ、との見方が経済界やエコノミストの間で広がっている。年末までに3倍の額の財政出動が必要だとの試算もある。
もっと読む スイスの4.7兆円経済対策に不満の声
おすすめの記事
スイス製狙撃弾60万発以上がウクライナに
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの弾薬製造会社Pディフェンスの狙撃用弾薬が昨年7月、ポーランドの会社経由でウクライナに届いていた。スイス公共放送が報じた。
もっと読む スイス製狙撃弾60万発以上がウクライナに
おすすめの記事
核ごみ処分場計画「国民投票で可決されれば加速」
このコンテンツが公開されたのは、
スイス・チューリヒ州の放射性廃棄物処分場建設計画をめぐり、計画主である放射性廃棄物管理協同組合NAGRA(ナグラ)は、国民投票による決着を歓迎する姿勢を示す。
もっと読む 核ごみ処分場計画「国民投票で可決されれば加速」
おすすめの記事
スイスの核廃棄物処分場計画、反対派が国民投票計画
このコンテンツが公開されたのは、
チューリヒ州の放射性廃棄物処分場建設計画が、正式な認可が下りる前から反対運動に直面している。
もっと読む スイスの核廃棄物処分場計画、反対派が国民投票計画
おすすめの記事
ジョン・レノンの盗まれた腕時計、所有権はオノさん スイス最高裁が認定
このコンテンツが公開されたのは、
ビートルズのジョン・レノンさんが殺害される2カ月前にオノ・ヨーコさんから贈られ、その後盗まれた腕時計について、スイスの連邦最高裁判所はオノさんに時計の完全な所有権があるとの判決を出した。
もっと読む ジョン・レノンの盗まれた腕時計、所有権はオノさん スイス最高裁が認定
おすすめの記事
スイス証取、英プロバイダーを買収 MTF参入へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス証券取引所を運営するSIXグループは11日、英国の証券取引サービスプロバイダー、アクイス・エクスチェンジを買収すると発表した。今後、多角的取引システム(MTF)に参入する方針だ。
もっと読む スイス証取、英プロバイダーを買収 MTF参入へ
おすすめの記事
2022年の可処分所得は約95万円 スイス統計局
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦統計局は12日、2022年の1世帯平均の可処分所得はひと月6902フラン(当時レートで約95万円)だったと発表した。前年からほぼ横ばいだった。
もっと読む 2022年の可処分所得は約95万円 スイス統計局
おすすめの記事
CERNとロシアの研究協力協定、11月末に期限迎える
このコンテンツが公開されたのは、
今月30日、ロシアの研究機関とジュネーブに拠点を置く欧州原子核研究機構(CERN)との協力協定が終了する。研究者はCERNのプロジェクトに影響を及ぼすと警告している。
もっと読む CERNとロシアの研究協力協定、11月末に期限迎える
おすすめの記事
女子優位のクラスを出た女性は高収入の傾向 スイス調査
このコンテンツが公開されたのは、
スイス・バーゼル大と英ダラム大が1989年から2002年の間にスウェーデンで初等教育を修了した75万人以上の生徒のデータを用いて行った調査で、女子生徒の方が多いクラスを出た女性はより多くの収入を得る傾向があることが分かった。
もっと読む 女子優位のクラスを出た女性は高収入の傾向 スイス調査
おすすめの記事
11月のスイスアルプス、季節外れの暖かさ
このコンテンツが公開されたのは、
スイスアルプスで、季節外れの暖かさが続いている。スイスで最も標高の高い地点にあるユングフラウヨッホでは観測史上最高を記録した。
もっと読む 11月のスイスアルプス、季節外れの暖かさ
おすすめの記事
スイスでベジタリアン・ビーガン増加 若者・高学歴に多く
このコンテンツが公開されたのは、
スイスで肉食をやめる人が増えている。植物性食品を推進するスイスベジ協会(Swissveg)は30日、スイスのベジタリアンやビーガンの数は過去5年間で約40%増加したと発表した。
もっと読む スイスでベジタリアン・ビーガン増加 若者・高学歴に多く
続きを読む
おすすめの記事
スイスのコロナ対応 企業に無利子で融資
このコンテンツが公開されたのは、
スイスは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による経済危機から国内の中小企業を救うため、50万フラン(約5700万円)まで無利子で融資する制度を設けた。スイス国立銀行(中央銀行、SNB)も銀行を後方支援する枠組み「COVID-19リファイナンス・ファシリティー(CRF)」を立ち上げた。
もっと読む スイスのコロナ対応 企業に無利子で融資
おすすめの記事
スイスのアーティスト向け助成 イベント中止の補償も
このコンテンツが公開されたのは、
音楽家やデザイナーなどスイスでアートを仕事にする人々は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により減った収入の一部に対する補償を申請できる。
もっと読む スイスのアーティスト向け助成 イベント中止の補償も
おすすめの記事
新型コロナで需要急増 対応に追われるスイスのスーパー
このコンテンツが公開されたのは、
米が品切れ?トイレットペーパーが品薄?実は、数カ月は持ちこたえる十分な在庫がスイスにはある。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、急増する買い物客の需要を満たすため、スーパーや小売業は多くの時間外労働を余儀なくされている。
もっと読む 新型コロナで需要急増 対応に追われるスイスのスーパー
おすすめの記事
スイスの医療機関、2万人が短縮労働 新型コロナ
このコンテンツが公開されたのは、
新型コロナウイルスの影響で、スイス国内の医療機関では少なくとも2万人の医療従事者が短縮労働している。緊急性のない手術などが禁止されたためだ。
もっと読む スイスの医療機関、2万人が短縮労働 新型コロナ
おすすめの記事
コロナ危機でも毎朝コーヒー 裏に商品取引企業の努力
このコンテンツが公開されたのは、
私たちが毎朝コーヒーを飲んだり、パイナップルやキウイを食べたりできる裏には商品取引企業の努力がある。スイスのコモディティ(汎用品)業界は他業界よりもコロナ危機への対応力が高いとされる。コモディティの多くは国の備蓄戦略の対象であり、商品取引企業には市場変動に対応してきた経験があるためだ。
もっと読む コロナ危機でも毎朝コーヒー 裏に商品取引企業の努力
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。