スイスでは欧州諸国と同様、妊娠初期での中絶が認められている。中絶反対派は政府に請願書を提出したが、連邦内閣は従来の方針を変えるつもりはないという。
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中絶反対派グループ「生命の行進外部リンク」らキリスト教の団体が14日、チューリヒでデモを行った。同団体は今年2月、2万4千人の署名を集め、連邦政府に「中絶が引き起こす影響について国民に注意喚起するよう」求める請願書を提出した。
請願書は、望まない妊娠をした女性たちのケアに当たる病院やカウンセリングセンターが、偏った情報しか提供していないと主張する。
低い中絶率
保守系右派・国民党のフランツ・ルッペン議員は3月、連邦内閣に対し「請願書の求める内容に応える心づもりはあるのか」と詰め寄った。
だが今年5月、政府から返ってきたのは「(従来の政策に)不足があるとの証拠はなく、特定の措置を講じる必要も見当たらない」という明確な回答だった。
連邦内閣は、スイス国内の中絶率は非常に低く、特に青少年の中絶が少ないことを強調した。
法律はどうなっている?
スイスの刑法は、次の条件を満たす場合、最終月経の1日目から数えて12週間以内の中絶を認めている。
- 医師の診察の上、女性が妊娠を苦痛に感じていること、中絶を求めていることを記した書類にサインする
- 医師は中絶を希望する女性に対し、中絶手術が及ぼす身体的、心理的影響について詳細に説明する必要がある。これを怠った場合、医師は処罰される可能性がある
- 女性は、無料カウンセリングセンターのリストと、妊娠を継続する場合、養子縁組に関する情報提供を受ける
- 女性が16歳未満の場合、専門のセンターでガイダンスを受けるよう案内される
中絶の方法
中絶には様々な方法がとられる。最も一般的なのが薬物の投与(74%)で、ほとんどが妊娠9週前に処置を受ける。
中絶手術は全体の26%だ。
後期の中絶
スイスの中絶の95%は妊娠3カ月以内に起こる。
しかし、妊娠によって母体の身体的・精神的状態に危険が生じていると判断された場合に限り、12週以降の処置が認められている。 2018年は、1万457件の中絶件数のうち、528件がこのケースに当てはまった。
中絶件数は手法の如何を問わず連邦内務省保健局に報告されるため、統計の信頼性は非常に高い。匿名性は守られ、医師の守秘義務も尊重される。
中絶に関する医療措置は、加入が義務付けられている健康保険でカバーされる。
世界はどうか
「生殖権センター」が作成した中絶法制の世界地図によると、北半球の国々の方が、南半球よりも中絶にかかる規制がはるかに少ない。中絶が禁止されている国々にはエジプト(一部例外を除く)とエルサルバドルなどがある。エルサルバドルは、1998年以来世界で最も厳しい中絶禁止法を持つ。
エルサルバドルでは、一部の女性たちが、劣悪な状況で中絶をしようとしたり、流産をしたりしたなどとして処罰されている。この国をはじめとして、中南米ではいま宗教的景観の変化が起きている。中絶反対を訴えるキリスト教福音派が、女性の生殖権に対して社会的闘争を挑んでいるのだ。
米国でも各州で、保守派による中絶反対の動きが活発化している。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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