多様な民間活動が生まれる場、「国際都市ジュネーブ」
明日の世界が直面する様々な課題に取り組むため、ジュネーブでは個人の発意で革新的な民間活動が数多く誕生している。swissinfo.chはその3つの例と背景を紹介する。
ロチオ・レストレポさんは1999年にコロンビアを逃れ、スイスに来た。2つの学位を取得し、長年の職業経験があったが、祖国で取得した資格はスイスでは認められず、ジュネーブの労働市場に足を踏み入れることはできなかった。
だがレストレポさんは社会を責めなかった。その代わり、幅広い職業経験や専門知識を持つ移民女性が労働市場にアクセスできるようにする方法について、政府機関や企業の間で意識を高めようと決心した。
レストレポさんはswissinfo.chの取材に対し、「私は同じような経験を持つ女性たち(最初は80人)に会いに行き、学んだ。そして職業経験が無駄になることと闘うため、協会『Découvrir (デクーヴリール、発見するという意)』を立ち上げた」と話す。
設立当初の数年間は厳しかった。協会は当局から認可されておらず、その妥当性を証明しなければならなかった。初年度の会員数は40人を超えることはなかった。
だが努力は実を結んだ。現在はスイス各州で、年間700人以上の女性を支援している。一部の企業は、移民が取得しにくい永住権(C滞在許可証)やスイス国籍の保持者に限るといった、雇用条件の見直しを進めているという。
レストレポさんは、明日の世界は「全ての人が、ジェンダー、言語、地理的所属によって差別されることなく、自分の専門知識や経験を投資する機会を公正に与えられるようになるべきだ」という。
スイスの作家でブロガーのザヒ・ハダド氏の最新著書「126 Hearts Beating for International Geneva(仮訳:国際都市ジュネーブの鼓動する126の心)」に取り上げられた、活動家の一人だ。
ハダド氏はあるインタビューで、「デクーヴリール」のような市民機関の活力と効率性を称賛している。その柔軟で迅速な介入は、様々な分野に直接影響を与えることができるとしている。
ハダド氏はまた、このような取り組みは、現場の状況を改善するだけでなく、人の考え方を変え、人類が世界で調和して生きていくための新しいビジョンを与えることを目的としていると話す。新型コロナウイルスの感染拡大で現在私たちが経験している未曽有の健康危機の中で、このような取り組みの重要性はますます高まっている」と話す。
そして、「私たちが夢見る世界を実現するには、あちこちで法律を変えるのではなく、物事の見方を根本的に変える必要がある」と付け加える。
ハダド氏の著書で取り上げられている市民活動は、より公平で人道的な社会を推進することを目的としている。
平和のための「希望の家」
メーラさんとダヴィッドさん夫妻は、2015年にイスラエルとパレスチナの旅から戻った後に団体「B8 of Hope(希望の家)」を設立した(B8は『ベイト』と発音され、アラビア語とヘブライ語で『家』を意味する)。このユダヤ人とイスラム教徒の夫婦は、紛争地帯を旅する間に、平和の対話を働きかける活動家たちに出会った。
「私たちはすぐに、数多くのグループがイスラエルとパレスチナで平和の文化を広めるために努力していることを知った。今では私たちは、双方で16のNGOを支援している」とメーラさんは言う。
これらの団体には、紛争で子供を失った被害者の家族や、武器を捨てて「平和に生きるための共同レジスタンス」というスローガンを掲げるパレスチナの戦闘員やイスラエル軍兵士を代表するものなどがある。
「B8 of Hope」は、「自分たちの信念を表現する勇気を持ったイスラエルとパレスチナ、両方の平和擁護者への支援を引き出すこと」を目指しているとメーラさんは説明する。
そして「このような平和活動家たちは、起きてしまったことは変えられない、過去を変えられないのであれば、未来への共通の楽観的なビジョンを持って今を生きなければならないと信じている」と付け加えた。
難民から環境投資家へ
3つ目に紹介するのは、1980年に赤ん坊のころ難民として家族と共にジュネーブに来たニャット・ヴオンさんのプロジェクトだ。彼の家族はベトナム戦争から逃れて祖国を後にした。ジュネーブで育ったヴオンさんは、ローザンヌ大学の経営経済学部でエンジニアの学位を取得した。
ヴオンさんは、現実に対する自分の見方を根本的に変えた人生の重要な出来事を振り返って話した。「1995年にスイス国籍を取得した後、家族と一緒にベトナムを訪れた。そこで生まれて初めて、貧困や、子供の教育を受ける権利や適切な生活が奪われたり侵害されたりする悲劇を目の当たりにした。スイスでは私たちがバブルの中で暮らしていて、その日常の中で私たちは、他の人が直面する苦境を忘れているということに気づいた」
「このことに私はひどく傷つき、他の人を助けるために何かをしたいと考えるきっかけになった」
そしてヴオンさんは、スペインの技術者が発明した、湿度の高い空気を浄化して飲料水に変えるという新しい技術広告をたまたま目にした。
「シリアでの紛争が激化し、多くのシリア人がレバノンに避難している時期と重なっていたので、難民を助けたいとすぐに思った。この機械をガレージに眠らせたままにしておくべきではないと確信した」と言う。
将来の世界的な水不足に備えて、ヴオンさんはNGO「Water Inception(水の始まり)」を設立。参加型の資金調達支援で寄付を募り、約3万フラン(約350万円)を集めた。そして最初の装置を購入し、レバノン北部トリポリのシリア難民キャンプに設置した。まもなく、新鮮な空気から毎日約500リットルの飲料水が作られるようになる。ここまで来るのに、約2年の年月がかかった。
ヴオンさんはまた、慈善事業の資金調達のために2019年に立ち上げたスタートアップの起業家でもある。ベトナム人のパートナーと共に、ベトナムで環境に優しい製品を製造し、世界の国々に輸出している。
最初の製品はジャガイモとマグネシウムから作られた飲料用ストローで、使用後には食べたり再利用したりすることができる。スイスで承認された再利用可能な抗菌衛生マスクの製造にも着手し、現在郵便局で販売されている。
ヴオンさんは、欧州連合(EU)の新規制で来年1月からは使い捨てプラスチック製品の販売が禁止されることから、同社製品の需要が高まると確信している。
(英語からの翻訳・由比かおり)
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