スイスのウエリ・マウラー連邦大統領と米国のドナルド・トランプ大統領が16日、ホワイトハウスで会談した。なぜスイスの大統領が今回、ワシントンに出向いたのか。重要なポイントを4つ紹介する。
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2019/05/17 09:48
1980年に米国がイランとの外交を断絶して以来、テヘランで米国の利益代表を務めてきたのがスイスだ。ここ最近、トランプ大統領が(石油と金融分野で)経済制裁の強化をちらつかせてイランを交渉の場に引き戻そうとしたため、対立が激化。米国の核合意離脱のほか、シリア・イエメン・イスラエルにおけるイランの役割に厳しい要求を突きつけ、さらにペルシャ湾に米空母と爆撃機を配備したことなども火に油を注いだ。
それでもトランプ大統領は先週「議論する構えがある」と示唆。米CNNは、ホワイトハウスがその後間もなくスイスと連絡を取ったと報じた。CNNによると、米国は、イラン政府がトランプ大統領と連絡を取れる電話番号をスイス政府に伝えた。しかし、イランからの連絡はない。
トランプ大統領はツイッターで「イランはすぐにでも話したいと思っているはずだ」と投稿。同時期に、マウラー大統領は連邦内閣閣僚たちにワシントンへ飛ぶと伝えた。
トランプ大統領は、スイスに対し、さらに積極的にイラン政府に働きかけてほしいと思っているとみられる。これまでスイスはせいぜい「(両国の意志を届ける)郵便箱」、あるいは良くて仲介役だった。その意味で、スイスが電話番号を直接伝えるとは期待されていない。どう動くか決めるのはイランだ。
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スイス大統領、トランプ大統領とホワイトハウスで会談
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2019/05/17
スイスのウエリ・マウラー連邦大統領は16日、トランプ米大統領とホワイトハウスで会談。両国の自由貿易協定交渉のほか、米国の対イラン、ベネズエラ関係について協議した。米トランプ大統領側から招待を受けたもので、スイスの大統領がホワイトハウスを訪問するのは初めて。
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ここでは、米国とスイスは似たような状況にある。4月以降、スイスはベネズエラ危機を機に、同国における米国の利益代表を務める。しかし現時点で、ベネズエラ政権はスイスが仲介役を務めることを正式に認めていない。このため米国はベネズエラとの外交会談ができない。ここでも、スイスは八方ふさがりで、目に見える短期的な解決策はない。
中国との緊密な貿易関係が幸いし、スイスは中国の重要な「欧州のハブ」になっている。中国経済にスイスのお墨付きを与え、ヨーロッパへの玄関口としての役割も期待される。ただ中国との貿易戦争を激化させているトランプ大統領とは相いれないだろう。
経済的な観点で見れば、今回の会談の焦点は(少なくともスイス側から見れば)米国とスイスの2国間自由貿易協定交渉の行く末だ。最初に契約締結を試みたのは2006年だったが、スイス農家の権利保護をめぐり土壇場でとん挫した。
スイスは2018年、自由貿易協定を交渉のテーブルに戻した。外交レベルでの協議、閣僚レベルでの前向きな発言などが続いた。スイス側は、マウラー大統領率いる小規模チームで、スイス経済省経済管理局(SECO)のマリー・ガブリエル・イネイヒェン・フライシュ外部リンク 局長が中心となって交渉を率いる。国内農業が依然大きな障壁だとしても、自由貿易協定締結にトランプ大統領がゴーサインを出せば、スイス外交には真の飛躍的進歩と言えるだろう。
スイス側の見通しは明るいが、弱点が1つある。それは、自分のペースで動くのを好む小さな永世中立国を、トランプ大統領がどれだけ理解しているか、という点だ。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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億万長者で不動産王のドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任することで、「利益相反」というテーマが新たに浮上した。これはスイスにとっても大きな意味を持つ。
民主主義が機能するには、国家権力の代表者が利益相反に当たる行為をしてはならず、職務を金銭などの個人的利害から切り離すことが重要だ。
また、利益相反が起きていないかどうかを市民がしっかり認識することも大事だ。政府は実際に利益相反に当たる行為だけでなく、(誤って)利益相反に思われるような行為を慎まなければなければならない。不動産王のドナルド・トランプ氏が米国大統領に選ばれたことで、このテーマの意義は大いに増した。
スイスにも利益相反というテーマは存在する。スイス航空のグラウンディング(飛行停止)では、責任のなすりつけや、いわゆる「縁故主義」が顕著だった。また、クリストフ・ブロッハー氏は入閣時に子どもたちに会社を贈与。この件を巡り議論が勃発した。さらに、モリッツ・ロイエンベルガー氏は連邦閣僚を辞職後、スイスの建設大手インプレメニアの役員に就任。この件で同氏は批判にさらされた。このように、スイスでも市民とメディアは利益相反というテーマに激しく、また頻繁に議論を戦わせている。
トランプ政権ではもちろん、このテーマの重要性がぐっと増す。トランプ氏は米国大統領に就任する初めての大富豪であり企業家だ。同氏に比べれば、元イタリア首相のベルルスコーニ氏が抱えていた利益相反問題はあまり大したことではない。トランプ帝国に所属する企業は515社もある。その事業は様々で、個人向けおよび商業向けの不動産、ホテル、雑誌、ワイン、アパレル用品、ステーキ、ゴルフ場関連などの事業を約24カ国で展開している。
新内閣の資産は米国民の3分の1の資産に相当
トランプ新内閣には大富豪や企業家が多く、彼らの総資産は米国民の3分の1の資産に相当する。そのため、今後、利益相反問題が出てくることは必至だろう。
すべての閣僚および連邦議会議員には、利益相反に関して特に厳しいルールが設けられている(大統領と副大統領を除く)。彼らはすべての所有資産を売却し、第三者の管財人に引き渡さなければならない(いわゆるブラインド・トラストまたは白紙委任信託)。
また、贈呈品の受け取りも禁じられている。そのため、チューリヒを訪れたある米上院議員は、食堂での食事25フラン(約2800円)は自分で払ったと主張した。ある米閣僚はスイスのアーミーナイフを贈呈されたが、私に送り返してきた。
このような厳しいルールがあっても、少なくとも利益相反に思われてしまう行為を防ぐことはできない。米石油大手エクソンモービル前会長のレックス・ティラーソン国務長官が石油企業に恩恵をもたらす取り決めをロシアと交わしたら、市民とメディアはどう反応するだろうか?または大手ファストフード企業の元CEOアンドリュー・パズダー労働長官が最低賃金の引き上げを阻止しようとしたら?
事業は家族の手に
トランプ大統領、マイク・ペンス副大統領とその顧問にはこの厳しいルールは適用されない。トランプ氏は1月11日に行った記者会見で、弁護士に支えられながら、哀れみを感じさせる演出で、利益相反を回避するためには何でもすると語った。だが同氏の息子たちが中核企業の経営をまかない、同氏が大統領退任後にまた企業と資産を引き継ぐことができる限り、利益相反問題はくすぶり続ける。
もし不動産業者に有利な税制が敷かれたり、ゴルフ場建設計画がトランプ氏の会社に有利になるように働けば、利益相反ましてや汚職への批判が出てくるだろう。また、顧問の活動も議論の対象になる。例えばトランプ氏の義理の息子、ジャレッド・クシュナー氏は中国の銀行と巨大取引を交わした翌日の1月10日、ホワイトハウスの上級顧問に任命された。実際に利益相反が生じているかは分からないが、メディアと市民は今後、この問題について厳しく目を光らせることになるだろう。
スイスはそこから何を学べるだろうか?まず言えるのは、このテーマが話題から消えることはなく、大西洋を越えてスイスのメディアや政治議論に影響を与えるということだ。次に、すべての政治家が扇動的に追い回されることがないよう、有益で実践的なアプローチについて我々は積極的に議論を交わしたほうがよい。
さらに、我々は「スイス流の仕上げ」、つまりすべてにおいてより正確に、より完璧に、より労力をかけるというスイスの美徳を、利益相反問題に適用してはならない。この問題に「完璧な」解決策はない。ある程度適切な解決策があるだけだ。
本記事で表明された見解は筆者のものであり、必ずしもスイスインフォの見解を反映するものではありません。スイス米国関係は経済重視
米国はスイスにとって経済的に重要な国の一つ。
輸出市場に関して言えば、米国はスイスの物品およびサービスの輸出先で第2位。米国の輸出市場の成長率は世界トップ(2011年から約50%の伸び率)。スイスから米国への輸出額はフランスとイタリアへの総計輸出額よりも大きい。
スイスで投資を行う国の中で、米国の投資額はトップ。こうした投資は、スイスが高度な専門知識やイノベーション力を維持するのに役立っている。
米国で投資を行う国の中で、スイスの投資額は第6位。人材、市場、イノベーション力におけるグローバル競争の中で、こうした投資はスイス企業にとって大変重要となっている。
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