マイホーム居住者に朗報? スイスの減税案
スイス連邦議会で推定賃貸価格制度の廃止が論じられている。マイホーム居住者の「架空収入」に課せられる税金で、廃止されれば減税額は13億フラン(約1500億円)にのぼる。マイホーム居住者には朗報だが、金利次第では逆にマイナスとなる可能性もある。
推定賃貸価格制度外部リンクが廃止されれば、スイスのマンションや戸建ての所有者が節税できる額は年間13億フランに上る。不動産管理業ヴュースト・パートナー外部リンクのパトリック・シュノルフ氏が試算した。
推定賃貸価格制度
推定賃貸価格とは、ある不動産に所有者自らが住むのではなく他人に賃貸した場合に得られるであろう「架空の」賃料収入の推定価格。スイスではこの推定価格を基準に、不動産に対し所得税として課税される。毎月賃料を支払う間借り人との公平を期すため、マイホーム所有者にも賃料に似た負担を課すべきとの発想だ。
スイス不動産所有者連盟外部リンクは同制度の廃止を求める。一方、スイス賃借人連盟外部リンクは推定賃貸価格制度によってマイホーム居住者と賃貸物件居住者への課税が公平になると訴える。
廃止で恩恵を受けるのは、マイホーム居住者でローンの大半を返済済みの人だ。シュノルフ氏によると「特に65歳以上の高齢者にはメリットが大きい。制度変更により、差し引きプラスになる」と説明する。
900フランの減税
推定賃貸価格の廃止案は、ローン金利の支払いと不動産の維持費に対する税額控除の廃止もセットだ。現在の低金利環境においては全国150万人の不動産所有者にとって減税となる。ヴュースト・パートナーによると、子供のいる夫婦では平均して年間600フランを節税できる。子供のいない夫婦なら節税額は900フランを超える。平均して、マイホームに住んでいる人は900フランを節税できることになる。
この試算に対して、スイス賃借人連盟のナタリー・インボーデン事務局長は、13億フランの減税効果は恩恵に偏りがあると指摘する。「税制には、同じ収入のある人には同じ税負担を課す、という理念がある。それは不動産の賃借人と所有者にも当てはまる。マイホーム居住者だけが恩恵を受ける減税策は不公平で、賃借人だけが不利益を被る」
スイス不動産所有者連盟のマルクス・マイヤー会長は推定賃貸価格の廃止論を歓迎する。「これは大きな前進だ。これまで不動産所有者は、実際には手にできないお金に対して課税されていた。世界でも他に例が無い、スイス独特の税制だ」
住宅ローン金利が上がれば不利益も
だが住宅ローン金利がひとたび上がり始めれば、減税効果の推計額はがらりと変わる。シュノルフ氏によると「支払い金利が増えると同時に推定賃貸価格が廃止されれば、マイホーム居住者にとってのプラス面はほとんどなくなる。試算によると、金利が4.5%を越えるような極端なケースでは減税効果がなくなり、やがて逆に増税になる」。
子供が2人いる夫婦世帯ではその影響が最も大きく、今よりも1200フラン税金を多く納めることになる。子供のいない夫婦でも500フランの増税だ。高齢者だけがわずかに減税となるが、マイホーム居住者全体では所得税が平均500フラン増える。
推定賃貸価格の廃止か存続か?その命運を決めるのは住宅ローン金利だ。
推定賃貸価格の制度変更
連邦全州議会(上院)の経済委員会外部リンクは昨年8月、推定賃貸価格の廃止に伴う制度変更の全体像を発表した。「不動産の維持管理費は将来的に控除の対象ではなくなる。連邦レベルでは、省エネ・環境策や文化財保護業務に対する控除は許容するが、州レベルでは州法におけるこれらの控除を維持するかどうか各州に判断を委ねる。所有者本人が不動産に居住する場合のローン金利控除は撤廃する。連邦管理局が法案のたたき台を作成中。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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