スイス各州は、設置済みの5Gアンテナを撤去しなければならなくなると不満の声を上げている
© Keystone / Peter Klaunzer
スイスで政府による次世代通信規格5Gの整備計画に遅れが生じ、国内外に混乱を来している。アンテナの設置許可権を持つ各州は、見通しが立たず苛立ちをみせている。スイスが5Gを使用停止したとの報道もあり、政府は火消しに走っている。
このコンテンツが公開されたのは、
2020/02/14 18:00
スイス政府は先月、実証試験の数を増やすにあたっての勧告の発表を延期した。5Gアンテナにより発生しうる放射線量の測定方法などをまとめる予定だった。
これまでに通信業者は許可を得てアンテナの設置などインフラ整備を進めているが、まだ実用はできない。建設・計画・環境担当局州会議のジャン・フランソワ・シュタイアート副議長は、国家的または国際的な規制がない中でのインフラ整備は、いろいろな問題を引き起こす、と警告している。
「合法か違法か分からないまま施設整備が進めば、新技術の進展を必ずや妨げることになる」とシュタイアート氏はRTSに話した。「いずれ条件を満たさなくなる場所に設置許可が与えられてしまうリスクがある。その逆もありうる。ゲームのルールが変わる可能性がある」
シュタイアート氏の意見に、アールガウ州環境局のハイコ・ロレタン氏も同調する。ドイツ語圏の日刊紙NZZで、実証試験の後に予想外の指針が出れば、「これまでに発した許可を全てチェックし直さなければならなくなる」とぶちまけた。
ロレタン氏は「今後は新しい周波数帯については、全ての基本的なルールが整った後にしか入札にかけないようにすべきだ」とも提言した。
英フィナンシャル・タイムズ紙外部リンク は12日、「スイス、健康上の懸念から5Gの開始を見合わせ」と題し、連邦環境省が先月末に州政府に書簡を送り、5Gアンテナの使用を一時停止するよう促したと報じた。環境省は5Gの放射線の影響をさらに試験しない限り、普遍的な基準を決めることはできないと伝えたという。基準がなければ、州は事実上5Gアンテナの使用を認めることができない。
Mobile World Live外部リンク によると、連邦環境省はFTの報道が「誤解を招く」としている。州に書簡を送ったのは事実と認めたうえで、「5G基地局を許可しないよう勧めた事実はなく、むしろ環境省の指針が明らかになるまでどのように5Gアンテナの設置許可を与えていけるかを説明した」とコメントした。
NZZ外部リンク は、通信最大手スイスコムが既に国内全土に5Gアンテナの設置を済ませたと発表したことを批判した。半国営の同社は既存のアンテナを5Gが動作するように改造。合法ではあるが、誤った結果をもたらすと同紙は指摘した。
5Gを巡る混乱を受け、一部の州はアンテナの新設を一時停止。5G反対派は、健康上の懸念があるとして携帯通信技術から発する放射線に上限を設けるイニシアチブ(国民発議)を提起。国民投票実現に向け署名集めを進めている。
おすすめの記事
スイス検査・認証SGSが本社移転 ジュネーブからツークへ
このコンテンツが公開されたのは、
2025/02/05
世界有数の試験・検査・認証機関であるスイスのSGSは、本社をジュネーブ州からツーク州に移転する。大手多国籍企業の移転は、ジュネーブ州の税収にも影響を及ぼしそうだ。
もっと読む スイス検査・認証SGSが本社移転 ジュネーブからツークへ
おすすめの記事
ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場
このコンテンツが公開されたのは、
2025/02/04
スイス西部ローザンヌで2日、第53回ローザンヌ国際バレエコンクールが始まった。23カ国から集まった85人の若手ダンサーが8日の最終選考進出を目指し、さまざまな課題曲に挑戦する。
もっと読む ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場
おすすめの記事
スイス政府、国際養子縁組を禁止へ
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/30
スイス連邦政府は29日、国外から子どもを迎える国際養子縁組を将来的に禁止する意向を表明した。虐待防止措置の一環としている。
もっと読む スイス政府、国際養子縁組を禁止へ
おすすめの記事
スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/30
スイス政府は29日、生殖補助医療法を改正し、カップルに対する卵子提供を合法化する方針を発表した。政府はまた既婚・未婚問わず全てのカップルへの精子・卵子提供を解禁する意向を示した。
もっと読む スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針
おすすめの記事
スイスに感染症情報解析センター発足
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/23
感染症に関する情報を収集・解析する「病原体バイオインフォマティクスセンター(CPB)」が23日、スイスの首都ベルンに新設された。集約したゲノムデータを管理・解析し、スイスの感染対策を改善する役割を担う。
もっと読む スイスに感染症情報解析センター発足
おすすめの記事
ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/15
スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は10日、電気を使わない除湿器を開発したと発表した。壁や天井の建築材として、空気中の湿気を吸収し一時的に蓄えることができる。
もっと読む ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
おすすめの記事
スイスでX離れ進む
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/14
スイスで「X」から撤退を表明する企業や著名人が相次いでいる。
もっと読む スイスでX離れ進む
おすすめの記事
スイスの研究者、キノコで発電する電池を開発
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/10
スイスの研究者たちが、キノコで発電する電池を開発した。農業や環境研究に使われるセンサーに電力を供給できるという。
もっと読む スイスの研究者、キノコで発電する電池を開発
おすすめの記事
ジョンソン・エンド・ジョンソン、スイスでの人員削減を計画
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/09
米ヘルスケア大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、スイスでの人員削減を計画している。
もっと読む ジョンソン・エンド・ジョンソン、スイスでの人員削減を計画
おすすめの記事
「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱
このコンテンツが公開されたのは、
2025/01/08
スイス最大手のUBS銀行の資料室には、第二次世界大戦中の行動に関する秘密がまだ残されている可能性がある――。過去にスイスの銀行と独ナチス政権とのつながりを調査した歴史家、マルク・ペレノード氏は、再調査の必要性を強調する。
もっと読む 「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱
続きを読む
次
前
おすすめの記事
5Gで試されるスイスのサイバーセキュリティー
このコンテンツが公開されたのは、
2019/10/18
外国の通信機器サプライヤーと提携して次世代通信規格5G(第5世代)のネットワークを構築するリスクについて考え直す国が増えている。5G技術をいちはやく導入した国の1つ、スイスの動向に注目が集まっている。
もっと読む 5Gで試されるスイスのサイバーセキュリティー
おすすめの記事
スイス最後の公衆電話ボックスにお別れ
このコンテンツが公開されたのは、
2019/11/29
スイス北部バーデンにある国内最後の公衆電話ボックスが、28日撤去された。今後はベルン市内の博物館で展示される。
もっと読む スイス最後の公衆電話ボックスにお別れ
おすすめの記事
5G商用化が進むスイス 沸き起こる不安
このコンテンツが公開されたのは、
2019/05/10
スイスではいま、次世代通信規格5G(第5世代)の宣伝が盛んに行われ、アンテナがあちこちに立ち、5Gに対応した新しいスマートフォン端末が登場している。だがスイス人の中には5Gの到来に懐疑的な人も多く、反対運動まで起こっている。
もっと読む 5G商用化が進むスイス 沸き起こる不安
おすすめの記事
5Gネットワーク、スイス国土の90%に
このコンテンツが公開されたのは、
2019/04/16
スイス最大の通信会社スイスコムが、2019年末までに国内の90%を次世代通信規格「5G」ネットワークでカバーする計画を明らかにした。
もっと読む 5Gネットワーク、スイス国土の90%に
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。