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米ロ首脳会談、利害一致の分野で協調姿勢

笑顔で握手を交わす米国とロシアの両首脳
16日、スイス・ジュネーブの邸宅「ラ・グランジュ」で開催された米ロ首脳会談で握手を交わす米国のバイデン大統領(右)とロシアのプーチン大統領 Keystone / Mikhail Metzel/sputnik/kremlin /

16日、米国のジョー・バイデン大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の歴史的な首脳会談が行われる。両国の関係は冷戦後最悪とされるが、なぜ直接会談が行われるのか。そして双方の思惑は?ジュネーブ在住の米国人政治アナリストとロシア人ジャーナリストに話を聞いた。

ウクライナへの軍事的圧力、民間航空機を緊急着陸させたベラルーシ問題、シリア内戦への介入、ロシアの反政権活動家ナバリヌイ氏の毒殺未遂事件、米政府機関へのサイバー攻撃、米大統領選への介入など、欧米諸国はロシアとの間に多くの問題を抱える。ロシアもまた、バイデン氏が4月に強化した制裁措置がロシア経済に打撃外部リンクを与えるなど、欧米諸国との間に長年にわたる問題がある。ドナルド・トランプ前米大統領はプーチン氏と親密過ぎると非難されたが、バイデン氏は対ロシア関係に厳しい姿勢を取っている。バイデン氏はプーチン氏を「殺人者」とさえ呼び、プーチン氏がそれに対して「そっちこそ」と返したこともあった。だから、両首脳が会談することに驚いている人もいるかもしれない。

驚くほどのことではない

しかし、ジュネーブ国際開発高等研究所(IHEID)の米国人政治学者、デイヴィッド・シルヴァン外部リンク氏は驚いていないと話す。「フランクリン・ルーズベルト大統領以降、米国のほとんどの大統領が旧ソ連(ロシア)の指導者と首脳会談を行ってきた。バイデン氏が行わなかったとしたら驚きだ」。「第一に、ロシアはある種の目的のためには重要な対話相手だ。バイデン氏には多くの問題についてプーチン氏に言いたいことがある。バイデン氏はロシアに対して厳しい姿勢を取るが、それは問題の外交的解決に意欲や関心があることを全く見せたくないというわけではない」と説明する。

プーチン氏にとっては、米ロ首脳会談の開催自体が既に勝利だと見る人もいる。ジュネーブのオンライン誌「nashagazeta.ch外部リンク」の編集者を務めるロシア人ジャーナリストのナディア・シコルスキー氏は、「必ずしも勝利とは呼ばないが、プーチン氏が自分の正当性を世界やロシア国民に認めさせるうえで、今回の会談は確かに非常に重要だと思う」と話す。「1985年当時のゴルバチョフ氏にとっての米ソ首脳会談よりも、今日のプーチン氏にとっての米ロ首脳会談の方がもっと重要だろう」。

85年のロナルド・レーガン米大統領と旧ソ連のミハイル・ゴルバチョフ共産党書記長による歴史的な首脳会談もジュネーブで行われた。そのころモスクワのジャーナリスト養成校に入ったばかりだったシコルスキー氏は、当時の旧ソ連(ロシア)は希望にあふれていたが、現在は大きく変わったと振り返る。今は若者を中心に多くのロシア人が幻滅しており、そのことを公言してはばからない。それがプーチンに大きなプレッシャーを与えているという。

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首脳会談の議題

両首脳が取り組む可能性のある問題は多岐にわたるが、シルヴァン氏によれば、このような会談は「数週間あるいは数カ月前から周到に準備される」ので、すべての問題が事前に徹底的に検討され、「比較的当たり障りのない公式発表」で、いくつかの問題に関する進捗状況が公表されるかもしれない。「バイデン氏は現時点では明らかに、米国でのロシア人ハッカーなどの問題を懸念」している。また、プーチン氏が東欧(特にウクライナ)にどこまで介入しようとしているのかを知りたがっているとシルヴァン氏は話す。イランの核開発やシリア内戦も議題に挙がっているのかもしれない。だが、それよりも大まかに、両国が解決できるものがあるかどうかを確認したいのではないかという。

ロシア政府の高官は、戦略的安定、地球規模の危機、気候変動、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への対応などが議題に含まれると話しているが、シコルスキー氏は、今回のサミットにおけるロシアの最終目標は、欧米による制裁の解除ではないかと考えている。「実現はしないと思うが、制裁解除に向けた一歩を踏み出せるかもしれないし、その後に実現がもっと近づくかもしれない。私がプーチン氏であれば、ロシア製ワクチンの承認を確保しようとするだろう。スプートニクVと名付けられたロシアの国産コロナウイルスワクチンだけがロシアでは承認されているが、欧米諸国では未承認で、ロシア人の外国旅行が困難になる可能性がある。例えば、フランスは、EUが承認したワクチンを接種した人に限って入国を認めている。

また、バイデン氏は、昨年のロシアで毒殺未遂に遭ったうえ、収監されたロシアの反政権派指導者アレクセイ・ナバリヌイ氏の事件など、人権問題を提起するかもしれない。「しかし、その場合、プーチンは(告発サイト「ウィキリークス」の共同創設者で、英国で拘束中の)ジュリアン・アサンジや(アメリカ・インディアンの人権活動家で政治犯として収監中の)レナード・ペルティエといった切り札を持ち出すだろう」とシコルスキー氏は話す。「つまり、バイデン氏が潔白でソフトであるかのように話すのはやめようというわけだ。米国にも問題はある。しかし、これがこのレベルでの交渉の核心となる」。さらに、「スイス連邦最高裁判所の最近の情報を踏まえると、米国への引き渡し問題を検討するためシオンで拘束中のロシア人ビジネスマン、ヴラジスラフ・クリューシン被告について、プーチン氏が取引を持ち掛ける可能性が高い。同被告は米国当局の要請で今年3月、スイスのヴァレー(ヴァリス)州で(インサイダー取引容疑で)逮捕された」。

個人的な相性は?

バイデン氏とプーチン氏が首脳として直接顔を合わせるのは今回が初めてだが、オバマ政権で副大統領を務めていたバイデン氏とロシアの首相だったプーチン氏は会ったことがある。2011年のクレムリンでの会談後、バイデン氏がプーチン氏に「首相、私はあなたの目を見ているが、あなたに魂があるとは思えない」と言ったとバイデン氏は後に語った。バイデン氏によると、プーチン氏は見つめ返して微笑み、「私たちはお互いを理解している」と言ったという。

両氏はお互いに好意を抱いていないようだ。しかし、それは問題ではないのかもしれない。「2人ともプロであり、プロの政治家であることを忘れてはならない」とシルヴァン氏は話す。「両氏の関心事は、取引ができるかどうかだ。一致する利害を見つけるから、好きではない人とでも取引ができる」

米ホワイトハウスは今回の会談について、米国がロシアとの間に持つ「相違点に上手く対処」し、「予測可能で安定した関係の修復」を目指すとしている。シコルスキー氏は「予測可能性は、ロシアのよく知られた特徴ではない。もちろんプーチン氏の特徴でもない」と指摘する。「しかし、プーチン氏はもう若くはない。希望的観測かもしれないが、プーチン氏もこのような恒常的な緊張状態を味わうことにうんざりしているかもしれない。あるいは、それが好きなのかもしれない。しかし、ロシア人が穏やかな暮らしを望んでいることは確かだろう。私たちは最近、20世紀史のように、あまりにも多くの激変を経験してきたため、人々は疲れ切っている」と話す。

会談への期待

シコルスキー氏によると、ロシア人は今回の首脳会談に大きな期待を寄せている。だが、会談が大きな成果を生むかどうかはわからないという。「もちろん、首脳級の交渉で重要な決定がなされることが期待される。ただそれが実現するかどうか、個人的には大いに疑問だ。とにかく、対話があるというだけで嬉しい」と話す。

シルヴァン氏も同じ意見だ。「ある意味では、どちらにも相手に提供できるものがあまりない。バイデン氏が重視する世界の舞台で果たすより積極的な外交的役割をプーチン氏に提供できるはずがない。同様に、プーチン氏がすべての問題について緊張の段階的緩和をバイデン氏に提案することはできない。それはプーチン氏の米国に対する大きな圧力の1つだからだ」と説明する。それでも、何らかの発表があるだろうと同氏は考える。おそらく「両首脳にとって可能なことが最も明白な」軍備管理に関する発表だろう。両首脳は国内外の支持者や反対者をはじめとする他の観衆の受けを狙っていることも忘れてはならない。

ジュネーブという要素

今回の米ロ会談は、ジュネーブで開催される首脳会談としては、85年のレーガン・ゴルバチョフ会談以降で最大だ。スイス政府の外交的成功として歓迎されている。シコルスキー氏は「スイスは、いわゆる中立の立場という伝統的な役割を果たしていると思う」と指摘し、「ジュネーブはこの種の首脳会談にとって歴史のある場所だ。レーガンとゴルバチョフがこの地で会談したことも一役買っているだろう。また、国連欧州本部もジュネーブにあり、象徴的だ」と話す。

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シルヴァン氏によると、何十年にわたり経験を積み重ねてきたスイスは、会談のホスト役が非常に上手だという。ジュネーブのインフラ、厳重なセキュリティ、仕事が正確な(そう願うが)スイスの組織、そして贅沢な湖畔の環境は全てその一部だ。しかし、今回の会談によって国際都市ジュネーブの吸引力は増すだろうか。シコルスキー氏は、ジュネーブの名声は高まると考えるが、長期的な影響は分からないという。

シルヴァン氏も同じ意見だ。国際機関がジュネーブに拠点を置くのは、生活費や税金といった要素の方が大きく関係していると指摘する。「もし、欧州のある都市が、新たな国際機関を横取りしたり、誘致したりしようとするのであれば、こう言うことができる。ジュネーブはプーチン氏とバイデン氏も獲得したのだから、他の誰かがその重荷を分かち合う時が来たのだ!」

(英語からの翻訳・江藤真理)

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