終わりなきアフガン戦争へのわずかな解決策
武装勢力タリバンが予想外の速さでアフガニスタンを制圧した事実は、1975年のサイゴン陥落の記憶を想起させ、アメリカの外交政策が完膚なきまでに敗北したことを示している。アフガニスタンで目前に迫った人道・人権の危機に対して、国際都市ジュネーブは解決策よりも多くの疑問を抱えている。
アフガンから米軍と米国市民が性急に撤退したのは、米国史上最長の戦争の終結を意味する。20年にわたり、共和・民主両党の米国大統領は、北大西洋条約機構(NATO)や同盟国の協力を得て、アフガン駐留を続けてきた。当初は報復と安全保障を掲げていたその使命は、公然と知れわたることなく建国へと形を変えた。数千人の兵士が紛争で命を落とし、830億ドル以上(約9兆768万円)がアフガン軍の装備に費やされ、1兆ドル以上が無駄になった。(アフガン軍には米国から装備・訓練された兵士が30万人以上いた。タリバンの兵士は約7万5千人)
だがアフガン政府は人々の「気持ちや考え」をつかんでいたわけではなかった。それは国中の都市・地方をタリバンが急速に掌握した事実を見れば明らかだ。汚職にまみれた政府の無能さは、米軍にも外交関係者からも過小評価されていた。外国軍は撤退せざるを得なかったが、アフガン軍が国を守る気も能力もなかったのは致命傷だった。専門家の多くは、アフガン軍とタリバンの間の内戦が1年~1年半続くと予想していた。だが実際はたった10日でアフガン軍が白旗を揚げた。
「アメリカは戻ってきた」――トランプ前大統領の掲げた米国第一主義と決別してみせたバイデン米大統領の宣言を、西側諸国やジュネーブの国際機関は大いに歓迎した。タリバンによるカブール陥落は、この米国に対する好意的な見方を変えることになるのだろうか?世界における米国の名声にどう影響するのか?台湾を始めとする同盟国は、米国が同盟国を守るとする約束を疑い始め、不安が渦巻いているのではないだろうか。
無視された和平協定
アフガン情勢を改善するための外交や人道援助も実現するか疑わしい。2020年に米国とタリバンの間で署名された和平協定は無意味だった。それを受けてドナルド政権下で始まったアフガン政府・タリバン間の交渉も同様だ。
アフガン政府の上級交渉担当者であるナデルー・ナデリー氏は7月、ウオール・ストリート・ジャーナル紙で、「相手側の進展が遅いと我々が見なす交渉は、我々が抱いている緊急性に応じていない」と語った。「暴力を終わらせ、戦争を終わらせ、政治的解決に到達する必要がある」と強調した。だが和解には決して至らなかった。
今、カブール空港が制圧されている。米国は市民の脱出を助けるだけではない。過去20年に米軍と共に、また米軍のために尽力した人々が脅威にさらされており、彼らを助ける道徳的責任がある。国外退去したいと思う全ての人がそうできるわけではない。ガニ大統領は逃亡し、合法で国際的に認められた政府はなくなった。
タリバン指導部の一部は、政府や同盟国に味方した人々への報復はせず、若い女性が学校教育を継続できるようにする方針を示している。だがドーハで交わされた約束が守られていないという事実は、アフガンで今後人権が守られるという兆しにはなっていない。タリバンが管轄下で進める政策は、国際的に認められた人権規範に真っ向から反している。
簡単な解決策はない
現実になりつつある人道的危機への対応を急ぐ人々は、答えよりも多くの疑問に直面している。タリバンの協力を取り付けた実績がないため、ジュネーブの国際社会がその協力を保証できる手段がない。トルコやその周辺国は亡命者のために国境を開けるのか?タリバンが人道や難民に関する規範を無視してきた過去に照らして、大量発生する難民に秩序だって対応することは可能なのか?
救援機関が国内で機能するのは、統制当局の同意がある場合に限られる。原理主義カリフ制の確立を昔から阻止してきた国による救援を、それが人道的なものだったとしてもタリバンは受け入れるのだろうか?政府とは別に活動している救援機関でさえ、過激派のタリバンへの協力が全員の利益になると説得するのは難しいだろう。
学んだ教訓は?
1975年のサイゴン陥落と今回のカブール陥落には分かりやすい違いもある。ベトナム戦争の狙いは共産主義の拡大を食い止めることで、米国は圧倒的な軍事的優位性にもかかわらず戦争に敗れた。ベトナムは今日、平和で繁栄している国だ。
アフガンへの軍事介入は元々はテロの封じ込めが目的だったが、それは失敗に終わった。アルカイダやイスラム国(IS)などのテロ組織は今も存在する。ここでも、見方を変えれば軍事的優位性が敗北したといえる。だがアフガンがベトナムのような平和や繁栄に向かうことはほとんど期待できない。おそらくは英国、ソ連、そして米国の3大帝国を打ち負かした地元の軍閥によって支配された排他的な国であり続けるだろう。
西側諸国が20年にわたって支援したアフガン政府の崩壊から、どんな教訓を得られるだろうか。最も明白なのは、軍事力が非対称な戦争でも勝てるとは限らないということだ。タリバンはベトコン(ベトナム戦争で勝利した南ベトナム解放民族戦線)と同じように、軍事力では圧倒的に劣ったが勝利を収めた。人々の「気持ちや考え」はアメリカの軍事力についてこなかった。
そしてまた、軍事諜報活動もベトナム戦争と同じく、現地の状況を正確につかんでいなかった。
これらから教訓を得られるか?それは疑問だ。20年間の介入の背景には傲慢さがあり、元は9月11日の同時多発テロ事件への感情的な反応であり、ジョージ・W・ブッシュ大統領はテロへの報復的に米軍をアフガンに派遣した。その使命はテロの首謀者を罰し、アフガンが国際テロリストをかくまわないようにすることだった。
時と共に、使命はそれだけではなくなった。ベトナムの水田のように、米国は馴染みのない地形を荒らしまわった。そこに全ての解決策があると信じてのことだ。カブール陥落によって傲慢な鼻っ柱が折れるかどうかはまだ分からない。その可能性を裏付ける証拠はない。
米国は必要不可欠な存在で、並外れた力を持つ――米国はそんな自己イメージに捕らわれ過ぎている。そして国際都市ジュネーブは、一刻も早くばらばらになったピースを拾い集めなければならない。
スイスの人道的連帯・収集プラットフォーム「幸福の鎖」は、アフガニスタン危機の影響を緩和するための寄付を募っている。
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