化石燃料の消費削減や段階的脱原発といったエネルギーシフトにより、経済の活性化も図る。それがスイスの野党「自由緑の党」の方針だ。この若い中道政党は、自由主義に基づいた地球に優しい社会の実現を目指している。マルティン・ボイムレ党首に話を聞いた。
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2011年に5.4%という予想外の高い得票率を獲得した自由緑の党は、来る10月の総選挙でもそのレベルを維持しようとしている。そのためにはまず、党として初めて立ち上げたイニシアチブ(国民発議)が失敗に終わったことで受けたダメージから回復を図らねばならない。付加価値税の代わりにエネルギー税を導入しようという党の提案は、今年3月8日に反対票の割合が92%という、近年まれに見る大差で否決された。
swissinfo.ch: 次期国会における自由緑の党の最優先事項を2点、教えてください。
マルティン・ボイムレ: 第一に、できるだけ規制を敷かない形でエネルギーシフトを推進すること。環境破壊が少なく持続性のある社会を実現するためには、エネルギー利用の効率化や省エネを刺激するようなインセンティブ(動機付け)を導入しなければならない。第二に、スイスの経済的・社会的安定性を守り、さらに強化すること。例として、我々はイノベーションパークの建設や拡張を後押ししている。
swissinfo.ch: 自由緑の党は、環境保護と自由主義経済の共存を謳っています。この二つは方向性として相反するものではありませんか?
ボイムレ: いや、まったくその反対だ。健全な環境と健全な経済は必然的に結びついている。環境が好ましくなければ国民生活ひいては経済にも悪影響が及ぶ。逆に、経済は環境保護が進展すれば、それに伴ったビジネスを展開できる。
そのためには自由主義的な施策が鍵となる。例えばクリーンテック等の環境保護ビジネスで利益をあげられるとなれば経済界も動き出すだろう。強制や命令といった手段では難しい。義務ばかり負わされて利益は出せないという印象を与えるような手法には、私は反対だ。
swissinfo.ch: 「付加価値税の撤廃とエネルギー税の導入」を求めた党のイニシアチブはこの3月、国民投票で大差で否決されました。それでもなおエネルギーシフトを進めるにはどうすべきだと考えますか。
ボイムレ: 化石燃料の消費削減、脱原発、再生可能エネルギー利用の推進といったエネルギーシフトを実現するためには、助成よりもインセンティブが働く制度を導入すべきだ。そのためには建設的な努力を重ね、提案を深めて、多数の賛同を得られるような解決策を模索していきたい。つまり、実際にインセンティブが働き、助成金給付の削減につながるような解決策だ。
swissinfo.ch: フクシマから4年が過ぎ、エネルギーシフトに抵抗する動きが再び大きくなりました。そんな中、脱原発と気候変動防止を掲げる連邦政府の「エネルギー戦略2050」は、多数の支持を集めることができるのでしょうか。
ボイムレ: 右派陣営は以前からこの政府戦略にブレーキをかけようとしている。彼らはスイスフラン高などあらゆる理由を口実に、エネルギーシフトを阻止しようとしてきた。中道政党はこれに同調せずに、引き続き我が党と同じ路線で、エネルギー戦略2050の第一案の実施や、インセンティブ型の税制度の早急な導入を目指してほしいと思う。
swissinfo.ch: 2014年2月9日の「大量移民反対イニシアチブ」可決以来、その実施方法を巡って激論が交わされています。欧州連合(EU)は、移民数の上限設定は労働者の自由な移動を取り決めたスイス・EU間の協定に反するとしています。この協定を救うための党の方策を聞かせてください。
ボイムレ: そのためには、憲法条項を基本的に満たしつつ、同時に2者間協定をも維持できるような、現実的な解決策が必要となる。極めて難しい課題ではあるが、例えば、ミハエル・アムビュール前財務省事務長が提案したように、スイスは留保条項を設け、移民数が一定の率を超えた場合にこれを発効させるといったモデルが考えられる。このモデルは、類似の問題を抱える他のEU諸国でも導入が可能だろう。
個人的には、両方の条件を実際に満たすことはできると思う。ただ、可能性は低いが考えられるシナリオとして、政治が解決策を見いだせず、国民投票に決定が任されるというものがある。その場合、我が党は2者間協定支持の立場から、イニシアチブの厳密な実施は求めない方針だ。我々は2者間協定を何よりも優先する。
swissinfo.ch: スイスフラン高の影響をどのように緩和していくつもりですか?
ボイムレ: 我々の見解では、フラン高はさほど深刻な問題ではない。現在の議論は過剰気味といえる。スイス経済にとっては、フラン高よりも移民制限イニシアチブがもたらす負の影響の方がはるかに深刻だ。このイニシアチブが実行に移されれば、労働力が不足して多数の企業の間に不安が広がるだろう。
輸出産業の一分野がフラン高の影響を受けるのは確かだ。しかし、こういった事態に備えてきた企業であれば、問題を解決できているはずだ。リスクを吸収するための準備期間は4年間あったのだから。観光産業も影響を受ける業種だが、この業種でも構造的問題が長年放置されてきた。
今の時点で何らかの支援策を打ち出すのは間違っている。重要なのは、スイス経済の枠組みを今後も整備し、革新的であり続けること。それが我々の中心課題の一つでもある。
swissinfo.ch: この数年、ヒジャブ(ベール)論議、過激化、テロリズムなどイスラムを巡る議論が絶えません。自由緑の党として、イスラムはスイス社会でどのような地位を占めるべきだと考えますか?
ボイムレ: 世俗政党の我々にとって、宗教の自由は基本的に貴重な財産といえる。私生活では誰もが自由に宗教を選択できるのだ。スイス在住のイスラム教徒の大多数はあなたや私と同じ普通の人間だ。そのため(イスラム教徒を)深刻に捉える必要はない。問題となるのは過激化した信者の存在であり、そこは対処しなければならない。間違った行動に対する介入は行う。しかしそれは宗教が絡まなくても同じことだ。
イスラムの過激化はどちらかというとグローバルな問題だろう。スイスは幸いそれほど影響を受けていない。それは我が国の移民統合政策が比較的に優れているからかもしれない。スイスで安全が脅かされているという兆候はない。国民の間にはある種の不安感は存在する。それは真剣に受け止めねばならない。しかし、その場合もイスラム教徒を一括りにして批判するのではなく、あくまで過激化を阻止するという形で対応すべきだ。
(インタビューは2015年3月に行われた。)
自由緑の党
緑の党チューリヒ支部の内部で意見が分かれたことをきっかけに、2004年、自由緑の党が設立。
当初はチューリヒ州およびザンクト・ガレン州で活動していたが、07年に初めて総選挙に参加。2.1%の得票率だった。
前回11年の総選挙では得票率を5.4%にまで伸ばした。今日では20州に支部がある。
党首は設立当初からマルティン・ボイムレ氏が務める。同氏は連邦工科大学チューリヒ校で化学を学んだ後、コンサルティング会社を経営している。
(独語からの翻訳・フュレマン直美 編集・スイスインフォ)
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今秋に行われるスイス総選挙に向け、最大与党の国民党は経済問題の解決に向けて指揮を執ろうとしている。他の保守政党とともに規制緩和を目指していけば、輸出産業に強く依存するスイス経済はスイスフランショックの影響を跳ね返すことができるとトーニ・ブルンナー党首は話す。
自党を「右派で、リベラルな保守派」と位置づけ、影響力の強さを武器に10月の総選挙に臨む国民党。移民規制や、欧州連合(EU)からの独立を政策の中心に捉え、過去10年間は絶えずトップの支持率を得てきた。
swissinfo.ch: 国民党は2007年の総選挙で支持率を29%まで伸ばし、11年の総選挙では03年と同様、約27%でした。今回の総選挙では確実に票を伸ばしたいと考えているようですが、目標ラインは30%ですか?
トーニ・ブルンナー: 前回の総選挙結果を固め、可能な限りこれまでの得票数を上回ることが我々の目標だ。現在、国民党は他党を引き離し、最も高い支持を得ているため、このまま限りなく支持率を伸ばすことはできない。結局のところ、国民党も他党と同じように競争にさらされている。
連邦議会と政府では現在、中道左派が多数を占めているが、この現状を変えたいのであれば、国民党が票を伸ばさなければならない。
swissinfo.ch: 次の任期に向けた、国民党の最優先事項2点について教えてください。
ブルンナー: 一つ目は、連邦政府がEU間との交渉において、スイスとEUを制度的に結びつけようとしていること。ここで問題となっているのはスイスの独立性や国民主権で、我々はそれらを何としても守りたいと考えている。直接民主制、国民の政治参加、自由、中立性、そして連邦主義という国の核となる部分が危険にさらされている。
そして二つ目は、スイスの企業にとって魅力的な枠組みを作り、雇用を確保することだ。特に税制面に注目する必要がある。また、スイス国立銀行が対ユーロの上限撤廃を決定した今、(各政党が団結して)規制緩和に向けて取り組むことが重要となっている。ここでは国民党が先陣を切り、急進民主党、キリスト教民主党と経済強化を目指すことで合意した。
swissinfo.ch: スイス経済は規制圧力の低下を歓迎しているようですが、一方で、国民党の政策にはスイス経済と対立している点があります。経済連合エコノミースイスは、国民党が提案した移民規制案が実施されれば、EUとの2者間関係が壊れるかもしれないと強く警告しています。国民党はスイス経済と対立していませんか?
ブルンナー: いや、スイス経済とはうまく折り合いをつけている。我々は国民から、「国が今後、再び移民規制を行い、移民数の減少を図る」という新憲法規定を実施するよう委託されている。それはつまり、移民数の国別の割り当て、スイスに滞在する外国人の上限数の設定、また労働市場における自国民の優遇をするということだ。
これからカギとなるのは、これをどう計画し実施していくかだ。2者間協定の全てに疑問符をつけようとする人はいない。しかし、労働者の自由な移動に関する協定の改定をめぐりEUと再交渉することが必要だということは、誰の目にも明らかだ。他に方法はない。
この協定には問題がある。協定のせいで移民は急増し、人口は毎年1%増加した。それに伴い行政手続きも増えた。協定を実施する際に導入された補足的措置についても考えてみてほしい。他党の代表たちもまた、大量の移民数を減らせるようにすることは大切だと考えている。だが、これまでは誰も行動に移さなかった。
swissinfo.ch: 労働者の自由な移動を制限することに関し、EUはスイスに全く譲歩していません。
ブルンナー: スイスとEUの両者とも、必要もないのに2者間協定の全てを取りやめてしまうことはないだろう。ただ、EUが交渉を拒否した場合は、スイス側から破棄を申し出るだろう。しかし私は、両者とも解決策を模索していく構えがあると思っている。
たとえばスイスの移民数が過剰に多いという点に関しては、スイスが説明をすれば、EUは理解を示すだろう。現在、スイスの移民の年間流入数は10万人に達する勢いで、これは人口800万人の国にとっては多すぎる。
もし連邦政府がEUに対し「我々は国民から移民規制案の実施を委託されている。あなた方に交渉する構えがないのであれば、我々は2者間協定を破棄しなければならない」とはっきり意思表示をするのであれば、結果は見えてくるだろう。EUが破棄を望むのか?それは疑わしい。
もちろん、スイス国内にも移民規制案に反対するグループは存在しており、すでに移民規制案を取り下げるための国民投票を呼びかける声も上がっている。もしそうなれば、それは国民党にとって断然有利となる。国民主権の、世界に対しオープンなスイスを望むか、それともEUに取り入り、EUに加盟することを望むかが国民に問われるからだ。
swissinfo.ch: 連邦政府や経済界、左派から右派の各政党は、スイスがEUと2者間協定を結んでいたおかげで、他のヨーロッパ近隣諸国と比べて金融危機にうまく対応できたと考えています。
ブルンナー: スイスの経済的豊かさが、EUとの協定によるものであるという考えは一度無くしたほうがいい。先にも述べた通り、誰も2者間協定に反対しようとはしていない。私にとってこの協定は、同等の立場の当事者が平等に取り決めたもので、必要なものだ。しかし、スイスは世界に開かれた国であり、ヨーロッパの国々だけと関係を築いているわけではない。
スイスが安定している更に大きな要因は、スイス独特の直接民主制にある。国民が最終的な決断を下し、政治家がただ自身の好きなように政治を行うことはできないとわかっているため、政治の考え方や取り組み方も他とは違う。
調査によれば、スイスは世界に対し最も開かれた国の一つだという。EUとの協定がスイス経済の豊かさを保障するものかどうかは、数値化することはできない。また、近年は不法労働、麻薬取引、売春なども国内総生産(GDP)に含まれているため、GDP成長率を指標とする際は気をつけなければならない。
swissinfo.ch: 近年、女性が頭に巻くスカーフや、過激化、テロなど、イスラム教に関する話題がよく取り上げられます。スイス社会にとってイスラム教はどのような立ち位置となるのでしょうか。
ブルンナー: スイスはキリスト教に基づいた国で、憲法の前文にも「神の名において」とある。しかし、スイスは他の宗教に対して寛容で、信仰の自由が認められている国だ。表現の自由、集会の自由など基本的な人権が誰にも平等に与えられる。しかし同時に、スイスで暮らし、こうした自由を享受したいのであれば、他の宗教や文化がスイスの価値観に対応していかなければならない。スイスに暮らすのであれば、この国の秩序を守らなければならないということは、誰もが知っておくべきことなのだ。
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