SARSに対する効果的な抗体発見
重症急性呼吸器症候群(SARS)の治療に有効な抗体を作る技術が発見された。11日、医学専門誌「ネイチャー・メディシン」に新しい技術を発表したのは、スイス南部のチチーノ州都にある、ベリンツォーナ・バイオメディカル研究所(IRB)の研究グループ。
この技術を用いて、エイズ、C型肝炎、ガンの治療への応用も目指すという。
IRB研究所長のアントニオ・ランツァヴェッキア教授が専門医療雑誌「ネイチャー・メディシン」のインターネットのサイトで11日発表した論文には、「発見はほんの初歩段階である」と書いている。しかし、この方法を使えば将来、多くの感染症や腫瘍の治療にも応用できるというので、早くも注目されている。
混合チームが南スイスで開発した新技術
ランツァヴェッキア教授が率いる研究グループは、スイス、ドイツ、イタリア、米国の混合チームである。今回開発した方法は、血清療法を発展させたものである。SARS患者の体内には、SARSウィルスに対抗する抗体が存在する。ランツァヴェッキア教授のチームは、新技術を用いてSARS患者の血液内から、沢山のリンパ球B細胞を取り出し、それからSARSに有効な抗体35種類を発見した。
たとえば狂犬病やジフテリアの治療のために、馬や他の動物の抗体をヒトに摂取させる方法は100年前から知られている。同じ方法を改良して、今回の技術に漕ぎ着けたという。
ウィルスを退治する抗体の役割
SARSのウィルスは2、3週間で変化してしまうため、決定的な抗体が発見されていなかったが、IRBが開発した技術を使えばSARSも治療が可能となる見込み。SARSの次はエイズを引き起こすエイズウィルスとC型肝炎ウィルスに対する抗体作りに挑むという。
ウィルスが人体を攻撃することを守るための抗体の役割は様ざまだが、その中の一つにウィルスが人の細胞内に入ることを防ぐことが挙げられる。ウィルスが細胞内に入ることを抑え、発病を阻止する抗体の発見が必要である。ランツァヴェッキア教授は「今回の方法を用いて、このようなウィルスに対しての抗体が発見できるのではないか」と将来の展望を語った。
抗体の作られるスピードも速い
さらに同教授の説明によると、今回開発された方法であれば数週間という短時間で抗体が作られるという長所もある。
しかも、SARSやエイズなどの病気はウィルスが次々と形を変えるため、有効な抗体を見つけることは難しい。しかし、今回発表された技術では、実際に患者から抗体を探してくることができるので、すぐ形を変えるウィルスに対しても有効な抗体を発見する可能性があるという。
スイス国際放送 外電 佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳
これまでに
SARSにかかった人の数8,098人
SARSで死亡した人の数774
スイスでは1人が感染したのみ。
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