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「スイス科学医療軍」の創設を

Rudolph Thomson, リスクマネジメント・コンサルタント

今我々が直面しているような公衆衛生の問題に立ち向かうには科学と軍隊のコラボレーションが必要だ、とリスクマネジメント・コンサルタントのルドルフ・トムソン氏は考える。

新型コロナウイルス流行に対する各国の対応は「戦時体制」とも評される。それも的を得たりで、敵は武器を持たず目に見えないが、これは戦争なのだ。したがって、武力紛争における理論やアプローチを拡大し、科学的・医療的能力や資源を投入してこの非武力の紛争に立ち向かう必要がある。

スイス政府は3月16日に非常事態を宣言し、最大8千人の軍隊を新型コロナウイルスとの戦いに動員した。第二次世界大戦以来の大規模な動員だ。配備の説明は戦場での戦略・戦術にも、軍の装備や軍需品についても触れられていない。対話・行動の中心は集中治療設備、病院のベッド、医療器具・医薬のほか、最前線に立つ医療従事者や私たち一般市民向けのマスクやグローブといった衛生用品、消毒ジェルなどに向けられた。肝心なのはまさにそこで、これこそCOVID-19のような非武装紛争での戦いに求められる資産なのだ。

スイスの感染症法が軍と公衆衛生の協調的な役割をもっと明確に定義し、必要なインフラに投資していたならば、COVID-19への対応はもっと効率的で費用対効果も良かっただろう。幅広いロックダウン(都市封鎖)や外出自粛要請は避けられたかもしれない。

スイス科学医療軍

私はスイス軍の存続と、必要に応じて国民を守るための徴兵制を強く支持する。軍隊機能の縮小を提案しているわけではない。だが様々な専門知識と専門分野を持つ科学者・医療関係者による大規模な軍隊編成を真剣に検討することは可能であり、また、そうすべきである。

こうした体制があれば、スイス軍と連邦内務省保健庁が共同で所轄官庁の役目を果たす。つまり前者は安全保障と後方支援を、後者は病気の発見や封じ込め、撲滅に重点を置く。活動には軍と保健庁の予算を充てる。公衆衛生関連の民間企業が、財政的にも人的にも貢献する。

この新しい「スイス科学医療軍」は疫学者、免疫学者、ウイルス学者、心臓外科医、放射線医、病理学者、看護師、医療技師など最大2万人の「医療スタッフ」を抱える。人材は専門学校や大学から採用(および徴集)し、全州に配備する。

スイス科学医療軍はスイスの科学・医療研究機関、大学、医学部との官民連携とする。政治・軍・医療当局が必要と判断すれば、世界保健機関(WHO)や各種疾病管理センターなどの機関とも連携・協力する。

新しいタイプの侵略

第二次世界大戦中の誤爆を除くと、スイスが武力紛争による死者を出したのは約170年前にさかのぼる。この時は分離同盟戦争で、100人に近い犠牲者が出た。非武装の戦いでは、1918年にスペイン風邪で2万5千人以上の命が失われた。

世界有数の裕福で健康的な国、そして世界第2位の医療費を誇るスイスでさえも、ウイルスの侵入を許した。それどころか、国民総生産(GDP)の9%を超える経済対策を講じなければならなくなった。

スイス当局の大胆な対応のツケは今後何年にもわたってこの国に重くのしかかるだろう。第2波や新たな感染拡大への不安により、ストレスやうつ病、その他の精神衛生上の問題といった社会的コストは深刻なものとなり、より悪化するだろう。

世界のためのサービス

能力も組織力も高いスイス科学医療軍は、国内動員の必要がない時は専門知識と能力を国際機関や国・地域に提供することによって、スイス経済の新たな支柱となりえる。こうした努力は、世界的に知られたスイスの品質や信頼性、効率性の土台の上に形作られ、それを強化することになるだろう。これによって疫学・その他の大規模な医療サービスが、国のGDPに大きく貢献するようになるはずだ。観光・宿泊業や時計製造、精密機器、チョコレートに並ぶスイス経済の主要分野になる。

今こそ豊かな伝統と平和的な体制を基盤にしたスイス国家を築く時だ。スイス科学医療軍はアンリ・デュナンやアンリ・デュフールらが創設した赤十字の誇り高き遺産を呼び覚ますだろう。デュフールが分離同盟戦争で率いた「紳士的な」軍の遺産と功績が真価を発揮するだろう。その歴史に触発された1848年の連邦憲法には、いかにして州の集団精神が結集し「一人は皆のために、皆は一人のために」のスイスを形作ったかが見て取れる。我々はこの精神を新たにし、世界と共有していくことができるだろうか?

ルドルフ・トムソン氏はリスクマネジメントのコンサルタント企業VaudRisk外部リンクの創業者兼社長。同社は早期警報や問題認知、リストラ・救済マネジメントを専門とする。ヴォー州在住在勤。

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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