世界一周のチャレンジを続けるソーラー・インパルス2。数日後には南京からハワイに向け、連続5昼夜という最長の飛行を行う。この間、操縦士が眠り込まないように「目覚まし装置」が開発されている。この太陽エネルギーだけで飛ぶ電動飛行機は、その名「インパスル(推進)」のように、技術革新を進めることが目的で、今の飛行に取って代わることではない。他にどんな技術革新があるのか?探ってみた。
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翼幅はボーイング747より 広いが、重量は自家用車程度のソーラー・インパルス2(Si2)は、天候が良いときだけに飛行する。速度は時速90キロを超えることはない。
従って、これより10倍の速度で年間50億人以上の客を運ぶ航空会社が、太陽エネルギーだけに頼る飛行機に転換することはあり得ない。たとえ、世界中の航空機のガソリン消費量が現在、毎秒1万1500リットルに上るとしてもだ。
この冒険を思いたった精神科医で操縦士のベルトラン・ピカールさんは、2003年にプロジェクトを開始した時から、次のように言い続けている。「このプロジェクトの目的は、革新的なパイオニアの精神をもっと推進することだ。そして人々が、特に再生可能エネルギーやクリーン技術の分野で意欲的な目標を掲げ、問題意識を持ちながら前進するよう勇気づけることだ」
限界を超えて
「革新、開発」という言葉を聞くと、スイスではまず二つの国立工科大学が頭に浮かぶ。その一つの連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)では、20の研究室がソーラー・インパルスのプロジェクトに初期から協力した。
「このタイプのプロジェクトは、非常に刺激的なため研究者が限界を超えて前進し、それまで存在しなかったものを作り出す」とこのプロジェクトに関わる研究者たちを指揮するパスカル・ヴィヨムネ氏は言う。「それに、異なる研究室の教授、助手、学生が一緒に仕事し、以前は存在しなかった協力関係が生まれる。さらに、材料工学のイメージがつかみにくい(将来同校を目指す)高校生たちに、具体的なものを提示して説明できる」
では、材料工学で作り出されたものとは何だろう?ソーラー・インパルスは非常に軽くかつ頑丈でなければならなかったが、そのための「新材料開発」が一つの例になる。EPFLのすぐ近くに、複合材料の製造で先端を行く企業North TPTがある。ここは、炭素繊維と樹脂を混合して作る「炭素繊維複合材料」を製造し、もう一つの企業Decision SAは、それを使って形に仕上げる。
「EPFLの二つの研究所が、こうした複合材料をまずは開発し、二つの企業に製造を依頼した。開発は、まるで料理を作るみたいなもの。この温度で、これだけの圧力で、これだけの時間で炭素を『蒸す』という工程の設定を、作り出したい部品によって変えていった」とヴィヨムネさんは説明する。
こうした研究の結果、ソーラー・インパルスは前例のないほど軽く、頑丈に出来上がった。また、製造を行った二つの企業は、この工程で得たノウ・ハウを使って、船舶や宇宙船に応用していくことができる。
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ソーラー・インパルス2 飛行中の食事や睡眠はどうする?
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太陽光だけで飛ぶスイス製電動飛行機「ソーラー・インパルス2」。現在はインド・アーメダバードで待機中だ。本来なら今日、次の目的地インド・バラナシへ飛び立つ予定だったが、濃い霧のため出発を延期した。先週9日アブダビ空港から始まった世界一周の旅はこのように天候次第。だが、踏破する総飛行距離は3万5千キロ。これを500時間かけて飛び8月、アブダビに再び戻ってくる予定だ。(SRF/swissinfo.ch)
この前人未到の挑戦は、12年かけた研究・開発で周到に準備された。その結果、2.3トンの機体に太陽電池パネル1万7千枚を載せた高性能の飛行機が誕生した。出発前のインタビューで、パイロットの1人、アンドレ・ボルシュベルクさんは「機能的に、機体はほぼ完ぺきな状態だ。これからはパイロットの体力的・精神的なチャレンジになる」と語っている。
中でも最大のチャレンジは、太平洋および大西洋の横断になる。120時間、つまり昼夜問わず5日間をノンストップで飛行しなければならない。その間、食事はどうするのか?そしてトイレは?操縦室は1人のパイロットしか入れない超小型。自動操縦に任せて仮眠を取りながら飛行するとはいえ、問題が起きれば直ちに手動に切り替える。それはいつ起こるかわからない。
ではどのように休息・仮眠を取るのか?スイステレビの記者が、操縦席に座るもう1人のパイロット、ベルトラン・ピカールさんにインタビューした。
なお、ソーラー・インパルス2はアブダビを3月9日に離陸した後、オマーンの首都マスカットでパイロットをボルシュベルクさんからピカールさんに替え10日の23時25分、インド・アーメダバードに着陸した。この1465キロメートルの飛行は、電動飛行機が飛んだ距離としては世界初で、国際航空連盟(FAI)に登録される予定だ。
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軽量とエネルギー効率
ところで動力は、1万7248枚の太陽電池パネルからの発電だが、このパネル自体は革新的なものではない。ここで再び重要になるのが、いかにこの既存のパネルを軽くするかだ。パネルを屋根に設置するときのように外装をガラスにするのは、問題外だ。そこでEPFLは、非常に軽く、柔軟性もある透明なプラスティックをパネルに使ってみた。これはベルギーの化学大手ソルベイが開発した製品だ。
また、ソーラー・インパルスがなるべく少ないエネルギーを使って飛ぶには、エネルギー効率を高めなくてはならない。そこで、EPFLのいくつかの研究室が共同で開発した結果をヌーシャテルの企業Etelに提案。Etelは電気モーターのエネルギー効率が96%のものを製造した。
「確かに、96%の効率は現在すでに使用されている電気モーターに比べ、少しの向上でしかないかもしれない。しかし、ソーラー・インパルスのようなプロジェクトがなければ、このためにエネルギーも時間も費やさなかっただろうし、わずかな向上でも、それは非常に重要だ。もしかしたら飛行機以外のものに応用できるかもしれない」(ヴィヨムネさん)
この応用が、時に意外なところに現れる場合がある。実は、ソーラー・インパルスのパートナーである、エレベータ製造大手シンドラーエレベータは、EPFLの研究室との協力で、「初めてのソーラー・エレベータ」を開発している。
眠らないで !
コックピット内でも多くの技術的革新が使われている。時計大手のオメガは、コックピット内に電気を供給する変換器を特別に開発し、「市場に出回っているどれよりも、軽くコンパクトで効率の良いもの」を作り上げた。
コックピット内で一番心配されるのは、操縦士が「起きている状態」であることだ。コックピット内は1人しか入れない。そこでは2人の操縦士ピカールさんとアンドレ・ボルシュベルクさんのどちらか1人が、長くて今回の南京からハワイに向けての飛行のように5昼夜の連続飛行を行う場合もある。そうした場合、彼らはヨガや催眠術で約20分間の休息を取りながら(その間は自動操縦に切り替えて)飛行を続けるが、眠り込んではいけない。
そこで、「目覚まし装置」が開発された。「この装置は、呼吸や心臓の鼓動、脳の機能をキャッチし、カメラが目とあごの筋肉の動きを捉える」とEPFLのスポークスマン、エマニュエル・バロウさんは解説する。「ここで、さらに開発されたのが、軽くて電力消費が少ない超小型のコンピューター。これが、様々なデータを複合して分析し、操縦士が眠り込もうとしている状態であるかを、正確に伝達する」
ただ瞼が動いているだけなら、太陽の光がまぶしいのか空気が乾いているせいかもしれない。しかし、もしあごの筋肉が緩み、心臓の鼓動がゆっくりしてきたら、それは操縦士が眠り込もうとしている証拠だ。そうすると、装置は警告を発する。
「この技術は、自動車の運転にも応用できるかもしれない。もちろん、電線が詰まったヘルメットを運転のたびにかぶるわけにいかない。しかし、目の動きの方に集中して研究を進めれば、自動車の居眠り運転の予防に使えるかもしれない」(バロウさん)
自動車、太陽電池パネル、建築、船舶、宇宙船、エレベータ、バッテリー、電気モーター、コンピューター。こうしたものすべての技術革新をソーラー・インパルスは推進したことになる。ただし、飛行機そのものの技術革新を除いて…
数字で見るソーラー・インパルス
飛行距離 3万5千キロメートル
合計飛行時間 500時間
最高巡航高度 8500メートル
速度 毎時36〜140キロメートル(高度による)
プロジェクト期間 5カ月(2015年3〜8月)
コックピット容積 3.8立方メートル
1人乗り 最長で5〜6昼夜連続で飛行
天候条件 マイナス40〜プラス40℃
酸素ボンベ 6台搭載
パラシュート 1台
救命ボート 1台
1日に食料2.4キログラム、水2.5リットル、スポーツドリンク1リットル
翼幅 72メートル(ボーイング747より広い)
平均的自家用車と同程度の重量(2300キログラム)
リチウム電池 633キログラム
太陽電池パネル 1万7千枚(厚さは各135ミクロン)
構想開始 2003年
チーム構成員 70人
パートナー企業 80社
予算 1億5千万ドル(約178億円)
(仏語からの翻訳・編集 里信邦子)
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ソーラー・インパルス2で世界一周 パイロットは催眠・ヨガで活力維持
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太陽エネルギーだけで飛ぶ電動飛行機「ソーラー・インパルス2(Si2)」が、ついに世界一周飛行に挑戦する。だが、この冒険で利用されるのは、太陽のエネルギーだけではない。2人のスイス人パイロットは、自己催眠や瞑想、そしてヨガの「エネルギー」も活用する。
翼幅はボーイング747より 広いが、重量は自家用車程度のSi2。革新的なクリーンテクノロジーや工学的設計に費やされた膨大な時間と労力については、これまで多くが報じられてきた。
しかし最先端技術が用いられてはいても、今回の世界一周の旅は飛行機が発明された頃に似た部分がある。パイロットはたった1人で、困難な状況に対応しなければならないところだ。人間の精神力と耐久力が試される。
3万5千キロメートルに及ぶこの挑戦の旅では、スイス人冒険家ベルトラン・ピカールさん(56歳)と元戦闘機操縦士アンドレ・ボルシュベルクさん(62歳)が交代で操縦する予定だ。合計25日かかり、途中で12回着陸することになっている。
しかし、地球一周の間には極限状況が予想される。気温は、高度8千メートルでのマイナス40℃から、一部地域の高度3千メートルでの40℃まで大きな幅がある。暖房がなく与圧されていない3.8立方メートルのコックピットでほとんど眠ずに最長5昼夜連続の単独飛行を行うのは、身体的にも精神的にも極めて過酷な試みだ。
「技術面では飛躍的な進歩を遂げたので、残っているのは人間の生理的な限界に対する挑戦だけだ」とピカールさんは言い切る。
この人類史上初の冒険に挑む2人のパイロットは、リラックスし、健康を保ち、エネルギーレベルを維持し、睡眠を管理するために、少し変わった方法を取ることにした。
ピカールさんとボルシュベルクさんはいずれも、20分間の睡眠ないしは休息を何度か取り、1日合計2〜6時間の「睡眠」を確保するという「多相性睡眠」を行う予定だ。睡眠・休息期間中は自動操縦に切り替える。
しかし、この変わった睡眠管理のアプローチは2人のパイロットでそれぞれ違う。精神科医・心理療法士の資格をもつピカールさんは、自己催眠法の利用を好む。
「疲れているが眠ってはいけないときに注意力を維持するには、催眠が必要だ。また、疲れていないが眠らなければならないときにも必要になる」とピカールさん。
飛行中は、親指に注意を集中したり、数を数えたりといった方法を用いる予定だ。また、「大洋の上空を飛ぶ退屈な時間」で長いと感じる感覚を縮めたり、20分間の仮眠の短いと感じる感覚を引き延ばしたりする「時間ひずみ」を感じる技術を、ドイツ人心理学者・催眠術療法士ベルンハルト・トレンクルさんなどから学んでいる。
トレンクルさんとピカールさんによると、こういった高度な技術によってパイロットは最大20分間トランスに似た状態に入ることができる。身体は脳から切り離されたようにリラックスし、一方の脳は注意力を維持する。それにより、元気を回復できるという。
「催眠を使えばより素早くリラックスし眠りに入ることができ、20分後に目覚めたときには気分がすっきりし、頭も冴えている」とピカールさんは言う。2013年に72時間のシミュレーション飛行を行ったとき、催眠によるトランス状態にあったが、技術チームが合図のアラームを鳴らした1.5秒後に、彼は操縦パネルの前に座った。それは極めて早い反応だったという。
2人のパイロットを検査したヴォー州立病院(CHUV)の睡眠管理専門家ラファエル・ハインツァーさんは、2人とも適切な準備ができていると話す。
「睡眠時間が普段より短くても、このような短時間の仮眠を24時間にわたって繰り返すことで、パイロットたちは72時間後も反射反応を維持していた。神経学的検査の結果も良好で、安心できるものだった。ピカールさんの普段の睡眠時間は1日8〜9時間と長い方で、一方のボルシュベルクさんの平均睡眠時間は5〜6時間だが、2人とも全く問題なくテストに合格した」
ただしハインツァーさんは、テストは5日間に及ぶものではなかったこと、未知のリスクが存在することを認めた。
ヨガの実践
ピカールさんの催眠法に対し、ボルシュベルクさんが集中力の維持と睡眠パターンの管理に用いるのは、ヨガと瞑想だ。「手段は違っても似た結果が得られる。リラックスし、精神的に疲れる思考から逃れるために瞑想と呼吸法を用いる。そうすることで心臓の鼓動が落ち着き、数分で眠りにつける」
10年以上前からヨガをしているボルシュベルクさんは、ラジャスタン出身の経験豊富なインド人ヨガ行者サンジーヴ・バーノさんに頼んで、今回のための特別プログラムを組んでもらった。プログラムには、体温を上下させるプラーナーヤーマ呼吸法や、血流と筋肉の緊張を整える伝統的なヨガのポーズが含まれる。多くは目隠しをして行われる。
脊椎マッサージ機能が備わった操縦席は、後ろに倒せば平らなベッド兼ヨガマットになる。コックピットは狭いが、ボルシュベルクさんはこのシートの上で肩立ちのポーズなどを行える。
長距離飛行の懸念
バーノさんは、2人のパイロットは十分な準備をしているが、特に長距離の飛行については懸念が残ると話す。
「コックピット内には圧力や温度の調節装置がない。電熱式の手袋と靴と衣服だけだ。しかし、マイナス40℃の環境で座った状態では、厚着をしていても厳しい。体を動かせれば何とかなるが、マイナス40℃の中で座りっぱなしなのは難しい」
「同じ場所でほとんど動かず、20分しか眠らない状態が2、3日続くと、認識調整機能が完全に狂ってしまう。幻覚症状が出たり、体内の窒素量が激増したりする可能性がある。また血液の循環も悪くなる」
バーノさんは地上から飛行機の進行状態を見守り、上空のパイロットがヨガのポーズや呼吸法で助けが必要なときに備えて、コミュニケーションツール「グーグル・ハングアウト」で連絡を保ちながら待機するという。
「例えば3日目頃から、睡眠不足と疲労、窒素過多、体のむくみなどから深刻な影響が現れる可能性がある。これらはいずれも解決すべき課題となり得る」
数字で見るソーラー・インパルス
飛行距離 3万5千キロメートル
合計飛行時間 500時間
最高巡航高度 8500メートル
速度 毎時36〜140キロメートル(高度による)
プロジェクト期間 5カ月(2015年3〜8月)
コックピット容積 3.8立方メートル
1人乗り 最長で5〜6昼夜連続で飛行
天候条件 マイナス40〜プラス40℃
酸素ボンベ 6台搭載
パラシュート 1台
救命ボート 1台
1日に食料2.4キログラム、水2.5リットル、スポーツドリンク1リットル
翼幅 72メートル(ボーイング747より広い)
平均的自家用車と同程度の重量(2300キログラム)
リチウム電池 633キログラム
電池 4×260ワット時毎キログラム
太陽電池パネル 1万7千枚(厚さは各135ミクロン)
構想開始 2003年
チーム構成員 70人
パートナー企業 80社
予算 1億5千万ドル(約178億円)
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