太陽光だけで飛ぶスイスの電動飛行機「ソーラー・インパルス2」。これまで悪天候で出発が延期されてきたが、9日朝、世界一周の旅に向けてアブダビ空港を飛び立った。同機が最初に向かうのは、オマーンの首都マスカットだ。
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ソーラー・インパルス2は日の出直後の現地時間7時12分、パイロットのアンドレ・ボルシュベルクさんの操縦でアブダビ空港を離陸した。最初の目的地マスカットまでは、飛行距離400キロ、所要時間約12時間が予定されている。
出発は先週土曜日が予定されていたが、週末に吹き荒れた強風により延長を余儀なくされていた。
今日9日、同機はついに総飛行距離3万5千キロの旅に出た。航行は東回りで、アラビア海、インド、ミャンマー、中国、太平洋、米国、大西洋、南欧、北アフリカを通り、今年8月に出発地アブダビに戻ってくる予定だ。
最大のチャレンジは、太平洋および大西洋の横断だ。120時間、つまり昼夜問わず5日間をノンストップで飛行しなければならず、前人未到の挑戦となる。
スイスをアピール
今回の旅に向けた研究開発と資金集めには、12年の月日が費やされた。資金は主に民間企業・団体から提供されているが、ソーラー・インパルス2でスイスを世界にアピールできるとの理由で、スイス政府も支援している。
連邦外務省は「ソーラー・インパルス、スイス生まれのアイデア」というスローガンで支援・宣伝活動を行っている。ソーラー・インパルスは自然と気候が尊重される未来の世界を世界に伝えられると、同省は期待している。
ディディエ・ブルカルテール外相は月曜日に発表した声明で、こう語っている。「私はこの前人未到の冒険を高く評価する。実現不可能と思われた世界が我々の手の届く範囲にあることを、若い世代に示しているからだ。(技術の)進歩、そして地球への敬意。これこそ、スイスがソーラー・インパルスで伝えようとするメッセージだ」
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ソーラー・インパルス2で世界一周 パイロットは催眠・ヨガで活力維持
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太陽エネルギーだけで飛ぶ電動飛行機「ソーラー・インパルス2(Si2)」が、ついに世界一周飛行に挑戦する。だが、この冒険で利用されるのは、太陽のエネルギーだけではない。2人のスイス人パイロットは、自己催眠や瞑想、そしてヨガの「エネルギー」も活用する。
翼幅はボーイング747より 広いが、重量は自家用車程度のSi2。革新的なクリーンテクノロジーや工学的設計に費やされた膨大な時間と労力については、これまで多くが報じられてきた。
しかし最先端技術が用いられてはいても、今回の世界一周の旅は飛行機が発明された頃に似た部分がある。パイロットはたった1人で、困難な状況に対応しなければならないところだ。人間の精神力と耐久力が試される。
3万5千キロメートルに及ぶこの挑戦の旅では、スイス人冒険家ベルトラン・ピカールさん(56歳)と元戦闘機操縦士アンドレ・ボルシュベルクさん(62歳)が交代で操縦する予定だ。合計25日かかり、途中で12回着陸することになっている。
しかし、地球一周の間には極限状況が予想される。気温は、高度8千メートルでのマイナス40℃から、一部地域の高度3千メートルでの40℃まで大きな幅がある。暖房がなく与圧されていない3.8立方メートルのコックピットでほとんど眠ずに最長5昼夜連続の単独飛行を行うのは、身体的にも精神的にも極めて過酷な試みだ。
「技術面では飛躍的な進歩を遂げたので、残っているのは人間の生理的な限界に対する挑戦だけだ」とピカールさんは言い切る。
この人類史上初の冒険に挑む2人のパイロットは、リラックスし、健康を保ち、エネルギーレベルを維持し、睡眠を管理するために、少し変わった方法を取ることにした。
ピカールさんとボルシュベルクさんはいずれも、20分間の睡眠ないしは休息を何度か取り、1日合計2〜6時間の「睡眠」を確保するという「多相性睡眠」を行う予定だ。睡眠・休息期間中は自動操縦に切り替える。
しかし、この変わった睡眠管理のアプローチは2人のパイロットでそれぞれ違う。精神科医・心理療法士の資格をもつピカールさんは、自己催眠法の利用を好む。
「疲れているが眠ってはいけないときに注意力を維持するには、催眠が必要だ。また、疲れていないが眠らなければならないときにも必要になる」とピカールさん。
飛行中は、親指に注意を集中したり、数を数えたりといった方法を用いる予定だ。また、「大洋の上空を飛ぶ退屈な時間」で長いと感じる感覚を縮めたり、20分間の仮眠の短いと感じる感覚を引き延ばしたりする「時間ひずみ」を感じる技術を、ドイツ人心理学者・催眠術療法士ベルンハルト・トレンクルさんなどから学んでいる。
トレンクルさんとピカールさんによると、こういった高度な技術によってパイロットは最大20分間トランスに似た状態に入ることができる。身体は脳から切り離されたようにリラックスし、一方の脳は注意力を維持する。それにより、元気を回復できるという。
「催眠を使えばより素早くリラックスし眠りに入ることができ、20分後に目覚めたときには気分がすっきりし、頭も冴えている」とピカールさんは言う。2013年に72時間のシミュレーション飛行を行ったとき、催眠によるトランス状態にあったが、技術チームが合図のアラームを鳴らした1.5秒後に、彼は操縦パネルの前に座った。それは極めて早い反応だったという。
2人のパイロットを検査したヴォー州立病院(CHUV)の睡眠管理専門家ラファエル・ハインツァーさんは、2人とも適切な準備ができていると話す。
「睡眠時間が普段より短くても、このような短時間の仮眠を24時間にわたって繰り返すことで、パイロットたちは72時間後も反射反応を維持していた。神経学的検査の結果も良好で、安心できるものだった。ピカールさんの普段の睡眠時間は1日8〜9時間と長い方で、一方のボルシュベルクさんの平均睡眠時間は5〜6時間だが、2人とも全く問題なくテストに合格した」
ただしハインツァーさんは、テストは5日間に及ぶものではなかったこと、未知のリスクが存在することを認めた。
ヨガの実践
ピカールさんの催眠法に対し、ボルシュベルクさんが集中力の維持と睡眠パターンの管理に用いるのは、ヨガと瞑想だ。「手段は違っても似た結果が得られる。リラックスし、精神的に疲れる思考から逃れるために瞑想と呼吸法を用いる。そうすることで心臓の鼓動が落ち着き、数分で眠りにつける」
10年以上前からヨガをしているボルシュベルクさんは、ラジャスタン出身の経験豊富なインド人ヨガ行者サンジーヴ・バーノさんに頼んで、今回のための特別プログラムを組んでもらった。プログラムには、体温を上下させるプラーナーヤーマ呼吸法や、血流と筋肉の緊張を整える伝統的なヨガのポーズが含まれる。多くは目隠しをして行われる。
脊椎マッサージ機能が備わった操縦席は、後ろに倒せば平らなベッド兼ヨガマットになる。コックピットは狭いが、ボルシュベルクさんはこのシートの上で肩立ちのポーズなどを行える。
長距離飛行の懸念
バーノさんは、2人のパイロットは十分な準備をしているが、特に長距離の飛行については懸念が残ると話す。
「コックピット内には圧力や温度の調節装置がない。電熱式の手袋と靴と衣服だけだ。しかし、マイナス40℃の環境で座った状態では、厚着をしていても厳しい。体を動かせれば何とかなるが、マイナス40℃の中で座りっぱなしなのは難しい」
「同じ場所でほとんど動かず、20分しか眠らない状態が2、3日続くと、認識調整機能が完全に狂ってしまう。幻覚症状が出たり、体内の窒素量が激増したりする可能性がある。また血液の循環も悪くなる」
バーノさんは地上から飛行機の進行状態を見守り、上空のパイロットがヨガのポーズや呼吸法で助けが必要なときに備えて、コミュニケーションツール「グーグル・ハングアウト」で連絡を保ちながら待機するという。
「例えば3日目頃から、睡眠不足と疲労、窒素過多、体のむくみなどから深刻な影響が現れる可能性がある。これらはいずれも解決すべき課題となり得る」
数字で見るソーラー・インパルス
飛行距離 3万5千キロメートル
合計飛行時間 500時間
最高巡航高度 8500メートル
速度 毎時36〜140キロメートル(高度による)
プロジェクト期間 5カ月(2015年3〜8月)
コックピット容積 3.8立方メートル
1人乗り 最長で5〜6昼夜連続で飛行
天候条件 マイナス40〜プラス40℃
酸素ボンベ 6台搭載
パラシュート 1台
救命ボート 1台
1日に食料2.4キログラム、水2.5リットル、スポーツドリンク1リットル
翼幅 72メートル(ボーイング747より広い)
平均的自家用車と同程度の重量(2300キログラム)
リチウム電池 633キログラム
電池 4×260ワット時毎キログラム
太陽電池パネル 1万7千枚(厚さは各135ミクロン)
構想開始 2003年
チーム構成員 70人
パートナー企業 80社
予算 1億5千万ドル(約178億円)
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ベルトラン・ピカールさんは今、大忙しだ。太陽光エネルギーで飛ぶ飛行機「ソーラー・インパルス」プロジェクトで注目を浴びているからだ。機会さえあれば、スポンサーたちはこぞって、この世界記録保持者である飛行家のもとへと押しかける。なぜスポンサーやパートナー企業は、これほどプロジェクトを重要視するのか。
ピカールさんとアンドレ・ボルシュベルクさんの太陽エネルギー飛行機「ソーラー・インパルス2(以下、Si2)」が、6月上旬にお披露目された。2015年にはその飛行機で世界一周をする予定だが、今二人が直面している課題は、技術的な問題だけではない。Si2の主要パートナーの一部が、現在のパートナーシップにあまり満足の表情を見せていないようなのだ。
「メディアに比べて、我々はそれほど特別扱いされていない。我々に対するケアがもう少しあってもよいのではないか」と関係者の一人が言うと、「確か年次総会か何かで、年に3回はピカールさんとお会い出来る機会があったはずなのだが」と、その同僚が続ける。
そして彼らは、パートナー企業である自分たちの会社が、前回のイベントで充分な露出があったかどうかについて問い始めた。ビジネス界やメディア関係者の、何百人という人々が注目するイベントのことだ。
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