スイスの電動飛行機ソーラー・インパルス2は1カ月前の7月3日、日本・ハワイの5昼夜ノンストップ飛行目標を貫徹しハワイに降り立った。しかし、飛行中過度に断熱したためバッテリーがオーバーヒート。その損傷は大きく、世界一周の旅は、ほぼ半ばで中断。来春までハワイにとどまることになった。しかし、延期には経費がかかる。パートナー企業からの支援は続くのだろうか?
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「ソーラー・インパルス計画に参加する約120人のスタッフの給料と飛行にかかる経費を合計すると、来年の飛行に約2千万フラン(約25億円)が必要になる」と、計画の発案者で操縦士でもあるベルトラン・ピカールさんはスイスインフォに対し話した。
スタッフの多くは、本来の仕事を中断してこの計画に参加した人たち。いずれにせよ、この夏の終わりには契約が終了することになっていた。「ただ中には、来年も仕事が続けられる保証が必要な人がいる。つまり、来春に飛行を再開するということは、まったく新しい組織作りが必要だということだ。今年中に完了していれば、問題はなかったのだが…」とピカールさんは続けた。
バッテリーの極端な断熱が災い
最大の難関といわれた日本・ハワイ間の5昼夜連続飛行の後、飛行を延期した主な原因は、極端な断熱が災いし、バッテリーがオーバーヒートしたからだ。今後ハワイで、四つのバッテリーを取り替える必要がある。特に断熱の度合いを減少させ、オーバーヒートを防ぐための換気装置が必要になる。
「ハワイに向け日本を飛び立ったとき、初めのうちバッテリーを極度に断熱した。そのうえ急上昇させたためオーバーヒートした。だが、断熱の作用がその後も続き、温度を下げることができないままハワイに着いた。このミスを今後改良しなくてはならない」とピカールさんは説明する。
新しく改良されたバッテリーは、9月か10月には完成するという。しかし、秋に入ると一日の日照時間が短くなるため、ソーラーエネルギーが不十分になり世界一周の旅は続けられない。
そして来春まで待つ間、次のチャレンジに向けての経費を確保しなくてはならない。
数社がすでに支援を約束
だがピカールさんは、かなり楽観的にこう語る。「今まで資金援助してくれたパートナー企業のいくつかが、すでに計画続行の支援を約束してくれた。というのも、この段階までだけでもパートナーにとっては大きな成功になったからだ」。「延期は、ある意味でパートナーにとっても良い結果だ。さらに長期に企業を宣伝できるわけだから。今年の冒険は、世界中の人々にたくさんの想像をかきたてた。だから、来春の再スタートはもっと爆発的な人気を呼ぶだろう。(そうすれば、パートナーの知名度はさらに高まるだろう)」
企業ではないが、パートナーの一つとして、スイス政府も参加している。政府は、当初の予算1億500万フランのうち、600万フランを提供している。
一方、計画を支援する主要パートナー企業4社の一つに、エレベータ製造大手シンドラーエレベータがある。同社の広報担当、フロリアン・マイヤーさんは、「ソーラー・インパルス計画は、今最も興奮に満ちたクリーンテクノロジーのプロジェクトだ。われわれは、飛行機が世界一周を成し遂げる最後のときまで、パートナーシップを続けていく」と宣言する。「支援額は明かせないが、ソーラー・インパルス計画と密接な関係を続け、他のパートナー企業と一緒に良い方向での解決を探っていく」
4社のうちのもう一つ、ベルギーの化学大手ソルベイも同じような考えだ。ソーラー・インパルス計画が発足したのは13年前だが、「12年前、初の支援企業として契約したときは、まだアイデアがあるだけといった状態だった。実現可能度の調査さえされていなかった。その後2004年からは、各発展の段階に付き添ってきた。この計画と一体化している。リスクも承知のうえだ」と同社の広報、ラミア・ナルシスさん。
ソルベイはパートナー企業として資金援助するだけでなく、ソーラー・インパルス機に潤滑油や軽材料を提供している。「ソーラー・インパルスチームと、次のステップに向けて毎日のように話し合いを続け、可能な『最良のシナリオ』を探っている」(ナルシスさん)
技術と人間の忍耐力の限界を超えた
主要パートナー企業4社のさらにもう一つが、スイスの電気技術会社ABBだ。ソーラー・インパルス2のプロペラの部分に描かれた「ABB」の文字でおなじみの同社も、2016年の支援を続けていくと表明する。
「ソーラー・インパルス2は、技術の限界と人間の忍耐力の限界を超えて前進している。来年まで飛行延期を宣言したのも、そのこと自体がいかに大変な挑戦かということを示している。同時に、この段階ですでに世界一周の半分の行程を達成し、数々の新記録を打ち出してきた。われわれは、この計画に参加していることを非常に誇りに思う」。「また、(今回の延期にしろ、日本への着陸にしろ)リスクをきちんと計算し、人命を不必要に犠牲にしないということこそ、イノベーションということの基本の態度だ。来年には、世界一周を必ず達成するという信頼を彼らに置いている」
そして最後の主要企業、スイスの時計大手オメガ・ウォッチも、他の3社同様に、支援続行を約束して、こう表明する。「ソーラー・インパルス計画が2016年も続くことになったが、我が社は誇りを持って計画を支援していく。今まで続けてきた技術的支援においても、注いできた情熱においても変わることはない」
「また、これほどの規模のプロジェクトには、いつも新しい挑戦が付きまとう。そのことを理解しているからこそ、今回の出発延期の決定にも賛成し、来春の再出発に対し期待を持って見守っている」
(英語からの翻訳・編集 里信邦子)
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太陽エネルギーだけで飛ぶ電動飛行機「ソーラー・インパルス2(Si2)」が、ついに世界一周飛行に挑戦する。だが、この冒険で利用されるのは、太陽のエネルギーだけではない。2人のスイス人パイロットは、自己催眠や瞑想、そしてヨガの「エネルギー」も活用する。
翼幅はボーイング747より 広いが、重量は自家用車程度のSi2。革新的なクリーンテクノロジーや工学的設計に費やされた膨大な時間と労力については、これまで多くが報じられてきた。
しかし最先端技術が用いられてはいても、今回の世界一周の旅は飛行機が発明された頃に似た部分がある。パイロットはたった1人で、困難な状況に対応しなければならないところだ。人間の精神力と耐久力が試される。
3万5千キロメートルに及ぶこの挑戦の旅では、スイス人冒険家ベルトラン・ピカールさん(56歳)と元戦闘機操縦士アンドレ・ボルシュベルクさん(62歳)が交代で操縦する予定だ。合計25日かかり、途中で12回着陸することになっている。
しかし、地球一周の間には極限状況が予想される。気温は、高度8千メートルでのマイナス40℃から、一部地域の高度3千メートルでの40℃まで大きな幅がある。暖房がなく与圧されていない3.8立方メートルのコックピットでほとんど眠ずに最長5昼夜連続の単独飛行を行うのは、身体的にも精神的にも極めて過酷な試みだ。
「技術面では飛躍的な進歩を遂げたので、残っているのは人間の生理的な限界に対する挑戦だけだ」とピカールさんは言い切る。
この人類史上初の冒険に挑む2人のパイロットは、リラックスし、健康を保ち、エネルギーレベルを維持し、睡眠を管理するために、少し変わった方法を取ることにした。
ピカールさんとボルシュベルクさんはいずれも、20分間の睡眠ないしは休息を何度か取り、1日合計2〜6時間の「睡眠」を確保するという「多相性睡眠」を行う予定だ。睡眠・休息期間中は自動操縦に切り替える。
しかし、この変わった睡眠管理のアプローチは2人のパイロットでそれぞれ違う。精神科医・心理療法士の資格をもつピカールさんは、自己催眠法の利用を好む。
「疲れているが眠ってはいけないときに注意力を維持するには、催眠が必要だ。また、疲れていないが眠らなければならないときにも必要になる」とピカールさん。
飛行中は、親指に注意を集中したり、数を数えたりといった方法を用いる予定だ。また、「大洋の上空を飛ぶ退屈な時間」で長いと感じる感覚を縮めたり、20分間の仮眠の短いと感じる感覚を引き延ばしたりする「時間ひずみ」を感じる技術を、ドイツ人心理学者・催眠術療法士ベルンハルト・トレンクルさんなどから学んでいる。
トレンクルさんとピカールさんによると、こういった高度な技術によってパイロットは最大20分間トランスに似た状態に入ることができる。身体は脳から切り離されたようにリラックスし、一方の脳は注意力を維持する。それにより、元気を回復できるという。
「催眠を使えばより素早くリラックスし眠りに入ることができ、20分後に目覚めたときには気分がすっきりし、頭も冴えている」とピカールさんは言う。2013年に72時間のシミュレーション飛行を行ったとき、催眠によるトランス状態にあったが、技術チームが合図のアラームを鳴らした1.5秒後に、彼は操縦パネルの前に座った。それは極めて早い反応だったという。
2人のパイロットを検査したヴォー州立病院(CHUV)の睡眠管理専門家ラファエル・ハインツァーさんは、2人とも適切な準備ができていると話す。
「睡眠時間が普段より短くても、このような短時間の仮眠を24時間にわたって繰り返すことで、パイロットたちは72時間後も反射反応を維持していた。神経学的検査の結果も良好で、安心できるものだった。ピカールさんの普段の睡眠時間は1日8〜9時間と長い方で、一方のボルシュベルクさんの平均睡眠時間は5〜6時間だが、2人とも全く問題なくテストに合格した」
ただしハインツァーさんは、テストは5日間に及ぶものではなかったこと、未知のリスクが存在することを認めた。
ヨガの実践
ピカールさんの催眠法に対し、ボルシュベルクさんが集中力の維持と睡眠パターンの管理に用いるのは、ヨガと瞑想だ。「手段は違っても似た結果が得られる。リラックスし、精神的に疲れる思考から逃れるために瞑想と呼吸法を用いる。そうすることで心臓の鼓動が落ち着き、数分で眠りにつける」
10年以上前からヨガをしているボルシュベルクさんは、ラジャスタン出身の経験豊富なインド人ヨガ行者サンジーヴ・バーノさんに頼んで、今回のための特別プログラムを組んでもらった。プログラムには、体温を上下させるプラーナーヤーマ呼吸法や、血流と筋肉の緊張を整える伝統的なヨガのポーズが含まれる。多くは目隠しをして行われる。
脊椎マッサージ機能が備わった操縦席は、後ろに倒せば平らなベッド兼ヨガマットになる。コックピットは狭いが、ボルシュベルクさんはこのシートの上で肩立ちのポーズなどを行える。
長距離飛行の懸念
バーノさんは、2人のパイロットは十分な準備をしているが、特に長距離の飛行については懸念が残ると話す。
「コックピット内には圧力や温度の調節装置がない。電熱式の手袋と靴と衣服だけだ。しかし、マイナス40℃の環境で座った状態では、厚着をしていても厳しい。体を動かせれば何とかなるが、マイナス40℃の中で座りっぱなしなのは難しい」
「同じ場所でほとんど動かず、20分しか眠らない状態が2、3日続くと、認識調整機能が完全に狂ってしまう。幻覚症状が出たり、体内の窒素量が激増したりする可能性がある。また血液の循環も悪くなる」
バーノさんは地上から飛行機の進行状態を見守り、上空のパイロットがヨガのポーズや呼吸法で助けが必要なときに備えて、コミュニケーションツール「グーグル・ハングアウト」で連絡を保ちながら待機するという。
「例えば3日目頃から、睡眠不足と疲労、窒素過多、体のむくみなどから深刻な影響が現れる可能性がある。これらはいずれも解決すべき課題となり得る」
数字で見るソーラー・インパルス
飛行距離 3万5千キロメートル
合計飛行時間 500時間
最高巡航高度 8500メートル
速度 毎時36〜140キロメートル(高度による)
プロジェクト期間 5カ月(2015年3〜8月)
コックピット容積 3.8立方メートル
1人乗り 最長で5〜6昼夜連続で飛行
天候条件 マイナス40〜プラス40℃
酸素ボンベ 6台搭載
パラシュート 1台
救命ボート 1台
1日に食料2.4キログラム、水2.5リットル、スポーツドリンク1リットル
翼幅 72メートル(ボーイング747より広い)
平均的自家用車と同程度の重量(2300キログラム)
リチウム電池 633キログラム
電池 4×260ワット時毎キログラム
太陽電池パネル 1万7千枚(厚さは各135ミクロン)
構想開始 2003年
チーム構成員 70人
パートナー企業 80社
予算 1億5千万ドル(約178億円)
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ソーラー・インパルス 最悪の事態に備えたパイロット訓練
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世界一周飛行に挑戦中の電動飛行機ソーラー・インパルス2。中国からハワイまでの区間を飛行中、太平洋上の気象条件が悪化したため、急きょ名古屋の県営名古屋空港(小牧空港)に着陸し、現在は日本で天候が回復するまで待機している。今後待ち受けるのは、最大の難所と言われる太平洋および大西洋の横断だ。そこで起こりうる最悪の事態を想定したパイロット訓練とは、一体どのようなものなのか。(SRF/swissinfo.ch)
ソーラー・インパルス・プロジェクトは、太陽エネルギーを主に再生可能エネルギーの普及促進をサポートするために立ち上げられた。中国の重慶市と南京市に途中着陸したのは、世界でも最も人口の多い中国で、太陽エネルギーのプロジェクトに対する意識を高める狙いがあったからだ。
この世界一周飛行は2015年3月9日、アブダビでスタートした。太陽エネルギーだけを動力とするこの飛行機は四つの大陸と二つの海を横断し、およそ500時間を掛け、3万5千キロの距離を飛行する。
その中でも極めて危険だといわれているのが、太平洋と大西洋の横断飛行だ。
そのためパイロットであるアンドレ・ボシュベルクさんとベルトラン・ピカールさんの二人は、太平洋上でコントロールを失うという最悪の事態を想定した訓練を出発前に行った。
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ソーラー・インパルス2 飛行中の食事や睡眠はどうする?
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太陽光だけで飛ぶスイス製電動飛行機「ソーラー・インパルス2」。現在はインド・アーメダバードで待機中だ。本来なら今日、次の目的地インド・バラナシへ飛び立つ予定だったが、濃い霧のため出発を延期した。先週9日アブダビ空港から始まった世界一周の旅はこのように天候次第。だが、踏破する総飛行距離は3万5千キロ。これを500時間かけて飛び8月、アブダビに再び戻ってくる予定だ。(SRF/swissinfo.ch)
この前人未到の挑戦は、12年かけた研究・開発で周到に準備された。その結果、2.3トンの機体に太陽電池パネル1万7千枚を載せた高性能の飛行機が誕生した。出発前のインタビューで、パイロットの1人、アンドレ・ボルシュベルクさんは「機能的に、機体はほぼ完ぺきな状態だ。これからはパイロットの体力的・精神的なチャレンジになる」と語っている。
中でも最大のチャレンジは、太平洋および大西洋の横断になる。120時間、つまり昼夜問わず5日間をノンストップで飛行しなければならない。その間、食事はどうするのか?そしてトイレは?操縦室は1人のパイロットしか入れない超小型。自動操縦に任せて仮眠を取りながら飛行するとはいえ、問題が起きれば直ちに手動に切り替える。それはいつ起こるかわからない。
ではどのように休息・仮眠を取るのか?スイステレビの記者が、操縦席に座るもう1人のパイロット、ベルトラン・ピカールさんにインタビューした。
なお、ソーラー・インパルス2はアブダビを3月9日に離陸した後、オマーンの首都マスカットでパイロットをボルシュベルクさんからピカールさんに替え10日の23時25分、インド・アーメダバードに着陸した。この1465キロメートルの飛行は、電動飛行機が飛んだ距離としては世界初で、国際航空連盟(FAI)に登録される予定だ。
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