ソーラータクシーの開発者、国連環境賞を受賞
スイス人のルイス・パルマー氏が国際連合 ( UN ) の環境賞の一つ、「創造と行動」賞を受賞した。パルマー氏は2008年、ソーラータクシーで世界を巡る旅に出かけ、一躍有名になった。
「地球大賞 ( Champion of the Earth ) 」は国連環境計画 ( UNEP ) が2004年から毎年贈っているものだ。
今年はパルマー氏のほかに、メキシコのフェリペ・カルデロン大統領やベナン出身の音楽家アンゲリク・キジョ氏など4人が選ばれた。
「今回の受賞は本当に光栄だ。これによって、わたし自身はもちろん、わたしがここまで来るのを支援してくれたすべての人の努力が認められた」
とパルマー氏は受賞の喜びを語る。
「わたしの使命は化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を果たすことだが、その実現に向けて今後も努力を続けていかなければならない」
授賞式は、国連環境計画親善大使でトップモデルのギゼレ・ビュンドヒェン氏が司会を務めるセレモニーの中で行われ、会場となったアメリカ自然歴史博物館は式典にふさわしい雰囲気を演出した。
パルマー氏とソーラーカー
いつか環境に優しい車で世界中を回ってみたい。そんな夢を子どもの頃から抱いていたパルマー氏は、ルツェルンで教師として働いている。その彼の夢が2008年、ついに実現することとなった。
特注で作ったソーラーカーには潘基文 ( バン・キムン ) 国連事務総長も乗車。ニューヨークの町中を潘国連事務総長の勤務先である国連本部へと走った。パルマー氏はまた、国連環境会議の会場となったインドネシアのバリ島やポーランドのポツナン ( Poznan ) を訪問し、ソーラーカーを走らせた。こうした取り組みが、再生可能エネルギーの重要性を多くの人々に訴えるきっかけとなっていった。
現代のジュール・ヴェルヌ
国連環境計画事務局長のアヒム・シュタイナー氏は、『80日間世界一周』の作者でSFの父とも呼ばれるジュール・ヴェルヌにちなんで、パルマー氏を「現代のジュール・ヴェルヌ」と称したことがある。なぜかというと、パルマー氏は近年開催された「ゼロレース ( Zero Emission Race )」と呼ばれる、80日間で世界中を駆け巡るレースの主催者だからだ。参加したのは太陽光発電のみで動く自動車4台で、どの車も排気量はゼロだった。
その次のプロジェクトとして今秋予定されているのが、車20台でパリからチェコの首都プラハまでを駆け抜けるレースだ。
「わたしがすべき課題はまだ終わっていないことが、今回の受賞ではっきりした。来年は40台ぐらいの参加があると期待している。いつか193の国連全加盟国からそれぞれ1台ずつレースに参加してくれたらと思う」
とパルマー氏は受賞式のスピーチで今後の抱負を述べた。
遅れているスイス
今回の受賞はパルマー氏にとってどんな意味があるのだろう。パルマー氏は「わたしの人生で最高のとき」だと言う。
「わたしがしていること、つまり太陽光エネルギーへの取り組みが重要であるということが、この賞でさらに強調された。言い換えれば、この賞によってソーラーカーだけでなく、太陽光エネルギー全般の重要性が高まったのだ」
スイスは太陽光エネルギー分野でかなり遅れを取っているという。
「スイスは太陽光エネルギーをもっと大々的に促進しなければならない。どの屋根にもソーラーパネルを設置する必要がある。原子力エネルギーからの脱却は可能だ」
先を行くドイツ
エネルギー効率に関して言えば、スイスにはまだ膨大なエネルギーを節約できる見込みがあるという。スイスはドイツの例に倣うべきだとパルマー氏は語る。
「いったんライン川を越えたドイツは、スイスとはまるで違う」
屋根の上にソーラーパネルをスイス全土で設置するという案には、歴史的建造物の保全に努める人たちが反対している。だが、パルマー氏の意見は別だ。
「わたしたちは化石燃料から脱却すべきだ。さもなければ地球は破壊されてしまう。美を競うことが問題の焦点ではない」
その他の受賞者
地球大賞に輝いたのは、パルマー氏のほか4人だ。メキシコのフェリペ・カルデロン大統領は気候変動問題に際し、多国間の協力を仰いだことが評価され、今回の受賞となった。また、環境にやさしい経済を支援するためのプログラムを多く実行し、メキシコ国内でも環境保護のロールモデルとなっている。
ロシアの活動家オルガ・スペランスカヤ氏は、旧東側諸国に残る化学汚染地域への取り組みで高い評価を得た。同氏が作るネットワークは残留性有機汚染物質 ( POP ) の除去を目指しており、今日70以上のプロジェクトを手がけている。
旧東側諸国の多くには、殺虫剤や有毒性化学物質が大量に放棄されている。これらは環境や人の健康を脅かす危険なものだ。
そのほかの受賞者に中国の実業家ツァン・ユエ氏がいる。近年に中国で起きた大地震の後ツァン氏は、たった24時間以内で完成し、しかもマグニチュード8の地震にも耐えられる家を設計した。
パルマー氏と同様「創造と行動」部門で受賞したのは、ベニン生まれの音楽家アンゲリク・キジョ氏だ。社会正義に対する取り組みが評価され、今回の受賞に至った。キジョ氏はとりわけ、貧困撲滅、女子の学校教育、持続可能な発展における女性の地位の強化などに力を注いできた。ニューヨークでの式典では、キジョ氏が奏でる音楽が夕べを飾った。
パルマー氏以外にも、太陽光エネルギーに取り組み、発明家としての才能を発揮しているスイス人はいる。
ベルトラン・ピカール氏は1999年に熱気球で無着陸のまま地球を1周した。現在は太陽光エネルギーで動く飛行機「ソーラー・インパルス ( Solar Impulse ) 」で世界を1周するのが目標だ。
スイスでの初テスト飛行は無事に終わり、つい先日もスイスのパイエルヌ ( Payerne ) からベルギーのブリュッセルまでの飛行を成功させている。
ヌーシャテル州出身のラファエル・ドムジャン氏は、プロジェクト「プラネット・ソーラー ( PlanetSolar ) 」の立役者。このプロジェクトの目標は、ソーラーボートで世界を1周することだ。ソーラーボート「MSトゥラノー・プラネット・ソーラー号 ( MS Tranor PlanetSolar )」は2010年10月27日、モナコを出航。電力源として、537㎡ものソーラーパネルが使用されている。
2011年5月には全行程の52%を成し遂げ、太陽光エネルギーで動く乗り物で最高距離の記録を叩き出した。
2007年には医師マルティン・フォッセラー氏率いるグループが、ソーラー双胴船「サン21号 ( sun21 ) 」で大西洋の横断を成功させている。
ベルン州にあるトゥーン湖では、プロジェクト「ゴールド・フィッシュ ( Goldfisch ) 」が企画されている。このプロジェクトに登場する乗り物は、太陽光エネルギーで動く世界初の潜水艦だ。
( 独語からの翻訳、鹿島田芙美 )
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