絶滅の危機にひんした両生類を襲うツボカビ
近年、スイスではサンバガエルの数が半減した。この激減の背景にあると考えられる「カエルツボカビ」を、1人の動物学者が調査している。世界中の多くの両生類がさらなる脅威にさらされていると、自然保護論者が警鐘を鳴らす中、調査は行われている。両生類への関心の高まりから、2008年は「国際カエル年」に指定された。
チューリヒ大学 ( UZH ) 動物学科のウルシナ・トブラー氏は、数種のカエルの大量死や絶滅に関係がある「カエルツボカビ」の影響を調査している。
カエルツボカビ
「カエルツボカビは有機物を分解する菌類の1種です。両生類の皮膚で増殖し、ケラチンを分解します。両生類にとってカエルツボカビは病原菌です」
とトブラー氏は言う。
カエルツボカビは水中で見つかる。オタマジャクシの場合、口にのみ感染するが、成体への変態中にカビが広がる可能性がある。カエルツボカビは1928年に南アフリカで確認されたが、カエルの大量死は1990年代からオーストラリアや中央アメリカで起きている。カエルツボカビはスイスでも見つかっている。
このツボカビ症の ( 再 ) 発生には2つの説がある。1つは、南アフリカから伝播したという説だ。妊娠検査や実験に使われたアフリカツメガエルにカエルツボカビが見つかっている。
「もう1つの説は、もともと世界に分布していたカエルツボカビが、何かしらの環境の変化によって両生類の病原菌になったというものです」
とトブラー氏は説明する。
サンバガエル
サンバガエル ( 産婆蛙 ) は、孵化 ( ふか ) するまでオスがひも状の卵を背中に乗せて運ぶことから、このような名前がついた。スズガエル科に属すサンバガエルは、その特徴的な鳴き声からスイスドイツ語で「鈴ガエル」として知られている。
「スイスではまだ確認されていませんが、スペインではサンバガエルの大量死が報告されています。そのため、わたしたちはスイスのサンバガエルにも異変がないか調べているところです」
とトブラー氏は言う。これは、スイスでは最初の調査になる。
博士号の学位取得を目指すトブラー氏は、ツボカビ症を発見するためオタマジャクシの口を調べ、スイス国内の4地域にある池のサンプリングをおこなっている。また、感染したオタマジャクシを育て、変態途中で死亡するかどうかも観察している。3年計画の彼女のリサーチ・プロジェクトは、ロンドン動物学協会 ( Zoological Society of London ) の動物学研究所 ( Institute of Zoology ) と共同で進められている。
サンバガエルはスイスでもっとも絶滅の恐れのある種に入ると、チューリッヒ大学でトブラー氏を指導するベネディクト・シュミット氏は言う。また、サンバガエル以外の種を見ても、良い状況とはいえない。
脅威
「両生類の3分の1が、世界の絶滅危惧種のレッドリストに入っています。すべての脊椎動物の中で、もっとも高い割合です」
と、リストの作成に関わっているシュミット氏は言い、さらに続ける。
「スイスでは、両生類の70%が絶滅危惧種です」
カエルツボカビは、スイスから両生類が消えていく原因の1つだろうと、シュミット氏は言う。しかし、池の数が減り、生息地になる池が孤立するようになると、両生類の移動と再定着が不可能になり、このことも両生類の生息を脅かしている。洪水対策も障害になった。洪水の起きた地域には外敵がいなくなり、魚や両生類にとって格好の繁殖の場になるからだ。
「何百万年ものあいだ、両生類は生き続けてきました。しかし、もし彼らの生息地が奪われ、殺虫剤の問題や、本来魚がいないはずの池に人間が魚を放したり、たくさんの両生類が車にひかれるなど、多くのことが両生類を脅かすようになると、非常に困ったことになります」
と、シュミット氏は言う。
いったんツボカビが発生すると、池からツボカビを根絶させることはできない。しかし、わたしたち人間ができることは、靴や持ち物を消毒したり、池から池へ動物を移動をさせないことだ。
「もしサンバガエルの減少がツボカビによるなら、両生類の保護の方法をかなり変えなければいけません」
とシュミット氏は言う。
人々の関心が必要
カエルが直面している脅威への関心を高める手段として、シュミット氏とトブラー氏は「国際カエル年」を好意的にみている。
スイスでは、池の保存よりも新しいショッピング・モールの建設など経済的な要因が時に優先すると、両生類の専門家は言う。蝶、鳥、植物にはすでに作られているが、農地として使用しないカエルのための保護区域を作ったり、両生類にとって理想的な水があふれる池を作ることが解決策に挙げられる。
「カエルは過去40年間にわたって、法律で保護されてきました。しかし、カエルはまだ減り続けています。つまり、十分な保護がなされていないということです」
とシュミット氏は言い、さらに続ける。
「少数でもカエルの数が安定するならわたしも安心なのですが、わたしたちは減少の速度を緩めることすらできていないのです」
swissinfo、イソベル・レイボルド・ジョンソン、チューリヒにて 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳
西ヨーロッパの森や、池や川辺に生息する。全長約5センチメートル、丸々としてイボがあり、皮膚はダークグレー。スイスでは1980年代から個体数が半減した。
夜行性で陸生、鈴が鳴るような鳴き声で鳴く。
オスはひも状の受精卵を背中に乗せる。メスが卵を産み、オスは体外で受精を行う。オスは卵を自分の足に巻きつけ、水中の外敵から卵を守る。
孵化 ( ふか ) が近づくと、オスは浅瀬に入り、オタマジャクシが卵から飛び出せるようにする。
カエルに対する関心を高め、資金を募ることを目的に、「両生類箱舟プロジェクト ( Amphibian Ark ) 」の自然保護論者たちが2008年を「国際カエル年」に指定した。
スイスからは、バーゼル動物園、ゴルダウ自然・動物公園、ケルツェルス ( Kerzers ) のパピリオラマ基金、チューリヒ動物園、ローザンヌ生態動物園、チューリヒ市環境・公園課、ランゲンベルク野生動物公園、ジールの森が参加。
カエル、ヒキガエル、サンショウウオ、イモリ、アシナシイモリなどの既知両生類約6000種のうち、少なくとも3分の1が絶滅の危機にひんしているといわれる。
スイスでは1967年より両生類は保護され、現在も、もっとも脅威にさらされている動物の中に入る。
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