ジュネーブモーターショー、 電気自動車が夢から日常の中へ
3月3日からスタートした第81回ジュネーブモーターショーは昨年に引き続きエコカーが主流で、それがワールドプレミア、ヨーロッパプレミア170車種のうち4割を占めた。
特に、「2011年は電気自動車が初めて大規模に実用化される年」と関係者が口を揃えて言うように、主要メーカーも含め電気自動車の展示が目を引いた。
スイスメイドの電気自動車
こうした電気自動車の実用化を象徴するかのように、80日間世界一周レースを終え2月24日にジュネーブに戻ったばかりの電気自動車「ゼロトレイサー( Zerotracer ) 」が会場に展示されている。
スイス製のこの電気自動車はちょうど軽自動車を縦半分に切ったような形だ。自身でデザイン、製作を手掛け、世界一周の運転も行ったトビアス・ヴュルザー氏は
「水滴のようなこの流線型は空気抵抗が少ない。そのため夜間に2時間充電すれば平均時速80キロで翌日300キロメートル走れる。現代の移動とエネルギー、そして車の在り方を考えるとき、この車こそ明日から日常的に使える理想の移動手段になる」
と力説する。
あらゆる悪天候や砂漠地帯など多様なコンディションを経験したが、「あまりの問題のなさに自分でも驚いたくらいだ」と言うヴュルザー氏は、この車に自信を持ちレースを終えた現在、大量生産に取りかかるという。
一方、ここ4年間革新的な電気自動車のコンセプトカーを発表してきたチューリヒの設計工房、リンスピード ( RINSPEED ) は今年も「バンブー( BAMBOO ) 」を展示。超小型トラックのようなカジュアルなこの車には、ドアにガラス窓がなく荷台には日よけのテントだけがついている。
「タイなど熱い国で使ってほしい。ビーチなどでは荷台のテントが役に立つ。昨年の夏に空を眺めていてふっと思いついた」
と話す設計者フランク・リンダークネヒト氏にとって、アイデアとは次々と浮かぶものらしい。
バンブーの傍には、このショーのために三菱と協力してわずか6週間で仕上げたという都会用の小型電気自動車もある。これは、インターネット接続やiPod使用もできるよう設計されている。ところで、こうしたインターネット接続などの内部装置のさらなるデジタル化は今年のもう一つの潮流でもある。
夢の世界のものではない
しかし、電気自動車の実用化という意味での代表格は何と言っても日産の「リーフ( Leaf ) 」のようだ。昨年はまだコンセプトカーだった「リーフ ( Lesf ) 」は、昨秋に売り出しを開始。すでに3万5000台を完売し、その性能が買われて27カ国で「2011年のベスト車」に選ばれた。
「電気自動車を年間10万台売ろうという計画はどこの会社もやっていない。しかしうちは、単に生産だけではなく実用化に向けてのインフラ整備を国や自治体に働きかけ本気で一般への普及を考えている」
と、日産商品企画本部の潮崎達也氏はスポーツタイプの電気自動車のコンセプトカー「エスフロー(ESFLOW)」の前で熱っぽく語る。
家で夜間8時間充電すれば翌日160キロメートルは走れるリーフ。
「人は1日平均車で50キロメートル走るという統計からしても、リーフには何の問題もない。今や電気自動車は夢の世界のものではなく、現実に生活で使われるもの。そのタイミングが来た。ただガソリンから電気へ切り替える不安をいつ吹き払うのかという問題があるだけだ」
と続ける。
また、大手ではルノー ( Renoult )をはじめ、BMWも2人乗りの電気自動車のコンセプトカーでマルチメディアに接続できる機能を備えた「ヴィジョン・コネクティッド・ドライバー( Vision Connected Driver ) 」を展示している。
一枚岩ではない
しかし、電気自動車実用化への賛同は一枚岩ではない。スイス環境・交通協会 ( ATE ) は電気自動車を「奇跡を起こすような解決策ではない」と言う。電気自動車が普及すれば、原子力発電や火力発電による電力生産が高まる懸念があるからだ。
そのため同協会は2011年の「お勧めエコカー」のリストに天燃ガス使用のフィアット ( FIAT ) の「500C」とトヨタのハイブリッド車「レクサスCT200n」をトップに挙げた。
特にハイブリッド車を
「移行期にある現在、環境に対する悪影響が一番少ない。二酸化炭素 ( CO2 ) の排出量がガソリン車に比べ極めて低い上、CO2以外の窒素酸化物などの有害ガスの排出量も少ない」
と高く評価する。
実際今回トヨタはハイブリッドだが都会用の軽自動車「ヤリス ( Yaris ) 」をコンセプトカーとして発表。2011年秋には発売にこぎつける予定だ。
また、ハイブリッドでありながら充電でき、例えば街中を電気だけで20キロメートルは走れる、新しいタイプの「プリウス・Plug-in Hybrid」も、コンセプトカーとして展示されている。現在600台が世界中で試運転中だが、2012年中旬には市場に出るという。
ところで、 スイス環境・交通協会がトップに上げたフィアットの500シリーズ (チンコチェント ) だが、これは国によって、従来のガソリン使用もあればスイスのように天燃ガス使用のタイプもある。ガソリンの場合、「CO2排出量を1キロメートルにつき90グラム台に抑え、ヨーロッパで現在一番エコな車」と自負するフィアットは、今回グッチ ( Gucci ) と提供し、グッチの緑・赤・緑の線が車体やシートにもデザインされた「500バイ・グッチ ( 500 by Gucci ) 」を発表。これは4月からオンライン予約を開始するという。
フィアットのパオロ・ガグリアルド氏は
「フィアットは乗り心地、スピード、デザインなど自動車が本来持つ魅力を捨てずに、エコも目指す。いわば『美味しいケーキを食べながら太らない』をモットーにしている」
と、イタリアの自動車会社のマーケッティング部長らしい例えを引用しながら微笑んだ。
2011年3月3日から13日までジュネーブのパレクスポ ( Palexpo ) で開催されている国際モーターショー。
今年は昨年より70車種多い約170車種のワールドプレミア、ヨーロッパプレミア車が展示されている。特にエコカーの進出は昨年より目覚ましく、この170車種のうち4割がエコカー。
世界31カ国から260社が参加。8万㎡の会場に約700車種を展示している。
会期中は昨年と同様、約70万人の訪問者が見込まれている。
パリ、フランクフルトなどのショーより規模は小さいが国際モーターショーのトップ5の一つ。車を生産しない「中立国」スイスでの開催のため参加者に対して平等で、また時代を先取りするショーとしても評価が高い。
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