米モデルナのワクチン製造ライン、スイスで立ち上げ進む
スイス南部ヴァレー(ヴァリス)州フィスプにある製薬大手ロンザ社の工場は今、慌ただしい雰囲気に包まれている。米バイオ企業モデルナが研究開発する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの今年後半の製造開始に向け、従業員は生産ラインの立ち上げに懸命だ。
2千平方メートルの敷地に誕生するフィスプのロンザ新工場は、現在まだ建設中だ。だがトーステン・シュミット工場長は6日、「12月には最初のワクチン生産をスタートする準備が全て整っているはずだ」と自信を持って記者団に語った。
ロンザは2億1千万ドル(約222億円)かけてフィスプに新しいワクチン製造ラインを3つ建設し、米国以外の世界中に年間3億回分のワクチンを供給できるようにする。それと並行し、米ニューハンプシャー州ポーツマスの拠点にも新製造ラインを立ち上げ、11月から米国専用のワクチン医薬品有効成分の製造開始を目指す。
この規模のプロジェクトは通常2年かかるが、パンデミックの緊急性を受け、完成までに与えられた時間はわずか8カ月だったとシュミット氏は言う。そのため3チームが毎日24時間体制で動いているという。
「機器の納入が大きなネックだった」と同氏は通信社ロイターに語る。「納期は通常12カ月だが、今回は4~5カ月程度しか猶予がない。最終的には、最高経営責任者(CEO)がサプライヤーのCEOと話し合い、機器を納入してもらうことになった」
その一方で、ロンザはフィスプの工場施設「アイベックス(Ibex)」における生産ライン稼働に必要な労働者200人の採用を進めている。同工場は、完成時には6つの建造物で構成される予定だ。
科学者や製薬会社が懸命に進める効果的なCOVID-19ワクチン開発は、時間との戦いだ。未だ承認されたワクチンは存在しないが、ファイザー、ジョンソン・エンド・ジョンソン、モデルナなど、11種類のワクチン候補で順調に試験段階が進んでいると報じられている。中でもモデルナのワクチン候補は、免疫反応の引き金にヒトの細胞を利用するという、これまで承認されたことのないmRNA技術をベースにしている。
ロンザの記者会見が開かれた6日、医薬品を認可・監督するスイスの政府機関スイスメディックは、ライバル候補である英アストラゼネカの評価を始めたと発表した。オックスフォード大学と共同でワクチンを開発した同社は、10月初旬にスイスメディックに申請書を提出した。製薬メーカーがスイスでの承認を求めCOVID-19ワクチンを提示したのは初めてのことだ。
ワクチンの原薬
原薬供給に関し、ロンザはモデルナと10年契約を締結した。これにはCOVID-19ワクチンの年間最大10億回分の原薬供給も含まれる。だがこのワクチンは未だ米国やスイスの規制当局から正式な承認を受けていない。
ワクチンの成分には、人工的に合成した遺伝物質「メッセンジャーRNA(mRNA)」が含まれる。脂質ナノ粒子と呼ばれる小さな脂肪滴の中に詰め込まれたこの成分は、コロナウイルスが複製できない型のスパイクタンパク質を作るようヒト細胞に指示し、体内で免疫反応を引き起こす。
ワクチンの原薬はマイナス70℃で冷凍保存され、フィスプからスペインの医薬品会社Laboratorios Farmacéuticos Rovi(ROVI)に出荷され、そこで製造の最終段階である「充填・仕上げ」が行われる。
スイスへのワクチン供給
スイス政府は8月、米バイオ企業モデルナとの間で、同社が開発するCOIVD-19ワクチンへの早期アクセスを確保するための契約を締結したと発表した。
スイスには450万回分のワクチンが供給される。もしも見込み通り患者1人につき2回の接種が必要な場合でも、これで225万人分のワクチンを確保できる。
この合意と並行し、スイス政府はワクチンの更なる確保に向け「多様なアプローチで」他の企業との協議を続けている。また、将来的にワクチンの公正供給を目指す多国間プロジェクトの支援も継続中だ。
尚、連邦政府はワクチン調達に3億フラン(約330億円)を拠出している。
スイスで行われた最近の世論調査では、「効率的なワクチンがあればCOVID-19のワクチンを接種する」と答えた人が半数を占めた。また、女性よりも男性の方が接種する可能性が高いという結果が出た。
(英語からの翻訳・シュミット一恵)
JTI基準に準拠
この記事にコメントする