あなたの町はスマートシティー?
街灯が故障している?アプリを使って報告すればいい。市民が憩う森に病害発生?被害状況はドローンが確認してくれる。繁華街の渋滞に巻き込まれる配達トラックが多すぎる?ラストワンマイルに物流センターを作って自転車と電気自動車を配備しよう。
先端技術を駆使して住民の暮らしを便利にする。世界中の都市でそんな取り組みが盛んだ。スマートシティー(次世代都市)のランキング上位には、バルセロナやコペンハーゲン、シンガポールといった都市と並んでスイスからはチューリヒやジュネーブ、そして比較的地味な町ヴィンタートゥールも名を連ねる。
チューリヒから北に電車で30分のヴィンタートゥール市では、スマートシティーはサステナビリティー(持続可能性)抜きには語れない。
国際経営開発研究所(IMD)の「スマートシティー指標外部リンク」にあるように、スマートシティーは人類が抱く究極の願望をいくつも装備し、テクノロジーは暮らしやすさや社会の調和のために使われると謳う。一方で、それは人工知能(AI)や自動化装置に支配される全方位監視システムのようなもので、管理社会の恐怖が具現化しかねないという声も一部にはある。
2019年版スマートシティーランキングのトップ10は、シンガポール(1位)、チューリヒ(2位)、オスロ(3位)、ジュネーブ(4位)、コペンハーゲン(5位)、オークランド(6位)、台北市(7位)、ヘルシンキ(8位)、ビルバオ(9位)、デュッセルドルフ(10位)。調査対象は102都市。
ヴィンタートゥール市は連邦エネルギー省の支援の下、エネルギー消費のパターン分析を行った。人口約11万5000人の同市は、主な目標にエネルギー消費の削減を掲げている。
同市のスマートシティー事業部長を務めるチューリヒ応用科学大学(ZHAW)教授のヴィンチェンテ・カラビアス氏は、「家庭でエネルギー消費を追跡し削減につなげられるよう、フィードバックを受け取れるアプリを開発した」と説明する。この「ソーシャルパワープロジェクト」のテスト運転に参加した世帯の省エネ率は8%以上に上った。「現在、プロジェクトは第2段階に入り、他都市とも一種の競争をしている」
青信号
ヴィンタートゥール市では今年9月初め、スイスグリーンエコノミーシンポジウム(SGES2020外部リンク)が開かれ、その中心テーマがスマートシティーだった。
SGES2020のパートナー国オランダでは、アムステルダム・ロジスティック・シティハブ外部リンク社がアムステルダムに集まる物流の合理化と脱炭素化に向け、2022年までの達成を目指し取り組んでいる。市全域に巡らされた運河網を活用し、配達トラックの代わりに電動ボートを投入するという案もアイデアの一つだ。
また、デンボス(またはスヘルトヘンボス)市では、未来型サイクリング都市を目指し、子供や年配者にアプリをテストしてもらっている。
同市のジャック・ミッカーズ市長によると、アプリのデータのおかげで自転車が赤信号で停止しなくて済むようになる。アプリが自転車の接近を信号機に知らせるからだ。ヴィンタートゥール市でも、インフラの強化に自転車や歩行者の動きを記録するアプリの利用を検討している。その際、個人データは匿名化される。
モニタリング
オランダでは、既にアルガレオ社が歩行者の流れのリアルタイムでのモニタリングを実用化している。新型コロナのパンデミックが起こると、このデータは人の密集度の可視化に利用された。ジェロエン・ステーンバッカー同社社長は、データは匿名化されているため個人の特定は不可能だと述べる。
路上のデータ収集としては他にも、「スマートボックス」という装置を車の屋根に設置し、大気の質や光害、建物効率に関する情報を記録するというコンセプトがある。
スイスのエンジーサービス外部リンク社ビジネス開発部門の責任者ジャンピエール・モレリ氏は、その実行には「町をくまなく走るゴミ収集車が使える」と考えている。低炭素エネルギーソリューションが専門の同社は、ルツェルン応用科学大学と共同でスマートボックスの開発を行っている。
スマートさを測る
デンボス市に設立されたデータ専門大学の第1号「ヒエロニムス(・ボッシュ)・アカデミー・オブ・データサイエンス」を市の誇りと呼ぶミッカーズ市長は、「スマート化はあらゆる都市で進行中だ。不便でいいと思う都市などあるはずがないから」と冗談めかす。
前出のカラビアス教授にとって、ランキングは自らの目標到達度を知る手段の一つで、刺激をくれる。「競争があるからこそさらに工夫に励む。順位が低ければ、他の都市でうまく行っているのはなぜかを見てみる。取り入れられそうな活動や施策はあるだろうか、と」
今年初めて実施された「スイス・スマートシティー調査外部リンク」にはスイスの都市の約半数が参加し、そのうち46%が個別の調査結果を公開している。「スマートシティハブ・スイス協会外部リンク」では、同じような目標を持つ会員同士交流することができる。2018年設立の同協会には現在13の自治体の他、スイス郵便(die Post)、スイス連邦鉄道(SBB/CFF)、通信最大手のスイスコム(Swisscom)が加盟している。また「スマートシティー同盟外部リンク」という組織には50を超える企業が参加している。
しかし、ランキングには、戦略開発のためのリソースを得やすい大都市が集まりがちだ。そこでZHAWで学ぶフィリップ・アルノルトさんは、修士論文の中で中小都市を念頭に置いた指標を作成することにした。カテゴリーはアメリカの都市・気候戦略家ボイド・コーエンの「スマートシティー・ホイール外部リンク」を参考に、「経済」「環境」「政府」「暮らし」「モビリティー」「ピープル」とした。
「カテゴリー毎に都市が互いの進行状況をチェックできるようにするのが目標。やり方を学ぶため現地を訪問するといったことにもつながれば」とアルノルトさんは説明する。アルノルトさんの論文はSGES2020で認められ、賞にも輝いた。
スイスのコンサル会社ブルーハブ外部リンクでサステナビリティー部門の責任者を務めるダニエル・クレーブスさんは、競争意識が邪魔になることもあると話す。「協力し合うべき場面でエゴが顔を覗かせる。自治体同士もっと協力すればより多くのことを達成できるはずだ」。クレーブスさんは、スマートシティーの実現には政府が調整役になるべきだと提唱する。
これに対し連邦エネルギー省エネルギー局(BFE)のウルス・モイリ氏は、政府による調整よりも自主性に任せるべきだと主張する。一方、連邦には、スマート化を追求する傍ら「2000ワット社会」目標の達成を目指す自治体のための支援プログラムがあり、モイリ氏は2030年までに「全ての都市にプログラムに参加してもらうことが目標だ」と話す。「2000ワット社会」構想は連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)が作成したもので、個人のエネルギー消費を国際平均である年間2000ワットに抑えることが狙い。スイス人の平均は現在、国際平均の3倍にもなる。
「住み続けられるまちづくり」は、国連の持続可能な開発目標外部リンク(SDGs)全17項目の一つ。
国連開発計画(UNDP)の報告によると、都市は面積では地球の土地のわずか3%に過ぎないのに、エネルギー消費量では60~80%、二酸化炭素排出量では70%以上を占める。また、人口の急増と移住の増加に伴う都市の急速な成長により、特に発展途上国でメガシティーが多く形成され、都市生活におけるスラムの存在感が増している。
「都市を持続可能にするということは、キャリアやビジネスのチャンス、そして安全で手頃な価格の住宅を生み、回復力ある社会と経済を作り出すということを意味する。そのためには、公共交通機関への投資や緑の公共スペースの創出、都市計画や都市管理を参加型で包括的な方法によって改良していくことが求められる」(UNDP)
時は熟した
気候変動や新型コロナウイルスの流行といった危機に直面し、都市のスマート化を急ぐべきだと感じた人は多いだろう。
2015年のパリ協定では、スイスを含め多数の国が、2050年までにゼロエミッション(温室効果ガス排出量ゼロ)を達成するという目標設定に同意した。それと並行してスイス政府は、CO2削減連邦法(CO2法)に基づき、2030年までに温室効果ガス排出量を半減させるという目標も掲げている。
しかし、そのスケジュールには既に遅れが出ている。連邦環境省環境局(BAFU)は、2020年の排出量を1990年比で20%削減するという目標は達成できないだろうとみている。
オランダのヘダ・サムソン駐スイス大使は、スマートで持続可能なあり方を目指す国や都市は、到達度の違いにかかわらずベストプラクティスやジレンマを共有することが大事だと強調する。「私たちに必要なのは(経済復興と脱炭素社会への移行を両立させる)グリーンリカバリーだ。千載一遇のチャンスが訪れている今、私たちはより優れた形で復興を遂げなければならない」
(英語からの翻訳・フュレマン直美)
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