スイスで電気自動車(EV)の新車販売が好調だ。ツーリングクラブ・スイス(TCS)の統計によると、従来予測を上回るペースで普及している。
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スイスでは2021年、代替燃料車(EV、プラグインハイブリッド車=PHV/PHEV、ハイブリッド車=HV、天然ガス自動車=CNG)の販売が急増し、全新車販売台数のほぼ半分を占めた。TCSによると、9~11月期はEVの割合が新車登録の18.3%、PHEVが28%を占め、それぞれ過去最高だった。
TCSは18.3%という割合がEV普及の「転換点」になり、EVが主流になる道筋が整ったとみる。
「絶え間ない技術進歩、社会的な受容の拡大、EVの選択肢増加などを考慮すると、EVの普及は予想以上に早い。EVが半数を超えるのは2030年頃になると多くの専門家が見ていたが、それよりも大幅に早く達成するだろう」
スイスの2021年の自動車販売は、新型コロナウイルスの流行やそれに伴うサプライチェーンの停滞、半導体の供給不足で全体的には振るわなかった。輸入業者団体「オート・スイス」によると、消費者の新車需要自体は旺盛だ。年間販売台数は23万8481台と前年よりわずかに増えたが、コロナ禍前の2019年に比べると4分の1近く少ない。
オート・スイスの広報担当クリストフ・ヴォルニク氏は、半導体不足がEVの販売に影響していると話す。
「半導体危機が始まって以来、自動車メーカーや輸入業者は生産・供給計画の中でEVを優先してきた」。貴重な半導体をガソリン車ではなくEVに振り向けた、とヴォルニク氏は説明する。
同氏は、こうした傾向が今後半年は続くとの見方を示した。22年は代替燃料車全体で50%を超えると予測。半導体不足や安いモデルの増加、欧州の排出ガス規制の強化を踏まえると、EVは18~19%になるとみる。
世界的にみればEVの普及度にはばらつきがある。スイスは世界ランキングの上位にあるが、ノルウェーは他の国を圧倒する。21年は新車販売の3分の2がEVだった。ガソリン車、ディーゼル車の販売をどの国よりも早く終了するという国家的目標を掲げていることが背景にある。
産油国であるノルウェーは、EV減税や各種インセンティブ、免税などを設け、ゼロエミッション車への切り替えを促している。スイスではプラグイン車に対するインセンティブも全国一律ではなく、州によって異なる。
メーカー別にみると、2019年比でスイス国内の売り上げを増やしたのはテスラ、ヒュンダイ、トヨタの3社だけだった。2020年末でスイスで販売されていたEVモデルは43車種。21年末には50%増えた。テスラのEVセダン「モデル3」が特に好調だった。これまでフォー・バイ・フォーを愛好していたスイス人だが、昨年登場したEVの小型スポーツ用多目的車(SUV)やクロスオーバーに乗り換えている。
スイス政府が昨年12月に発表した新CO₂法案は、自動車やEVに焦点を当てている。スイスの温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比で半減させることを目標とする。
新法では、スイスはEUのルールに即して自動車に厳しいCO₂排出制限を課す。自動車輸入業者が新しい目標を達成できなかった場合は罰則を与える方針だ。また環境車の輸入を促し、充電スタンドを配備するために2億1千万フランを投じる根拠法となっている。
欧州代替燃料観測所によると、スイスの公共の充電スタンドは2021年時点で合計8497カ所と、前年より600カ所以上増えた。公共の充電インフラは欧州平均とほぼ同じだが、個人の充電インフラは大きく後れを取っていると指摘されている。特に都市部ではEVの所有者が自宅で充電できる状態にない。
スイス・イーモビリティーのクリスピン・ロマンク常務は「自宅充電はアパートの所有者や居住者、路上に駐車する住人にとってはハードルが高すぎる」と述べる。スイス・イーモビリティーは政治的な対応を求めている。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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