スイスの視点を10言語で

スイスの大学が対面授業再開 人数制限も

大学
スイスの大学で、オンライン講義を行う教授 Keystone / Gian Ehrenzeller

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で遠隔授業が続いていたスイス国内の大学は19日から、対面授業が再開される。ただし制限がある。

スイスの大学は昨年春の感染第1波以降、対面授業が一時的に認められた時期があったものの、遠隔学習が約1年間続いていた。スイス学生連合などの学生団体は政府に対し、対面授業の再開を求めていた。

おすすめの記事
現在、スイスの学生はオンラインで授業を受けている

おすすめの記事

新型コロナでキャンパス閉鎖、学生らが講義再開を要求

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの学生が大学での授業を再開するよう訴えている。スイス政府は来週、現行の新型コロナウイルスの感染拡大防止対策を継続するか、あるいは緩和するか決める予定だが、学生らは自分たちの悩みを受け止めるよう求めている。

もっと読む 新型コロナでキャンパス閉鎖、学生らが講義再開を要求

これに呼応するかのように連邦内閣は14日、セミロックダウンに対する主要緩和策の1つとして、19日から大学機関での対面授業再開を認めると発表した。ただしクラスの人数は50人以下、室内の定員の3分の1を超えてはならないというルールを設けた。マスクの着用や衛生対策は引き続き順守しなければならない。

スイス学生連合は政府の発表を歓迎。連合はこれまで、学生の研究活動における影響や、アルバイト先の減少に伴う経済苦、パンデミックによる精神面の負担に懸念を表明していた。

同連合のエリシャ・リンク共同会長は「大学が幅広い複合型(オンラインとキャンパス)学習の機会を提供し、(感染に)注意しなければならない人、あるいは自発的に注意したい人も参加できるようにすることが重要だ」と話す。

一方で、多くの学生がアルバイトする外食部門の雇用が以前の状況に戻るまでには長い時間がかかるとし、学生の経済問題は引き続き懸念事項だと指摘する。

国内大学の連合団体スイスユニバーシティーズ外部リンクのマルティナ・ヴァイス事務局長はswissinfo.chに対し、大学での学習には学生と講師の交流が非常に重要だとし、政府の発表はこれに「一歩近づいた」と歓迎した。

しかし、大学はすでに適切な感染防止措置を講じているため、クラスの人数制限は必ずしも必要ではないと感じている、と述べた。国内の大学は昨年秋、一時的に対面授業が再開したが、その後感染の第2波に見舞われ再び遠隔授業となった。

各大学の対応は

チューリヒ大学は15日の年次記者会見で、大学の今後の対応に言及した。ミヒャエル・シェプマン学長は優先事項の1つとして、専攻分野の性質上、遠隔授業で学習への支障が懸念される学生を現場に戻す点を挙げた。同氏はオンライン会見で「例えば医学、または化学と生物学の実験室における研究などだ」と語った。

次のステップに関しては、20日の会議で決める。同氏は、研究室への復帰は極めて速く実施できるが、学生本人にも調整の余地を与える必要があると述べた。これは学生連合も懸念事項の1つに挙げている。

同氏はまた「試験はオンラインで行う、あるいはキャンパスで行うなどと週ごとに方針を変えるようなことはしたくない。学生は、学期を無事終えられるような方針を必要としている」と語った。

またキャンパス学習のみ、オンラインとキャンパスの複合型、オンライン学習のみという3つの選択肢を選べるようになる可能性が高いとした。

大学は15日、デジタル技術の進歩と昨年のパンデミックで得られた経験を活用し、将来的にはキャンパス形式とオンライン形式を組み合わせた手法を検討すると発表した。

ミヒャエル・シェプマン学長は会見で「私たちが得た経験や、イノベーションやデジタルトランスフォーメーションの大いなる可能性を活用し、緊急時に限らない高品質の教育をさらに発展させたい」と述べた。同大は、複合型アプローチによって、より個別化した学習アプローチが可能になると期待する。

オンラインアプローチ

ジュネーブ大学は既に、5月28日の春学期の終わりまで遠隔学習を続けると発表している。

同大はswissinfo.chに対し、不確実性の高い現状下で、学生や講師に安定を与えるための措置だと説明。また、多くの学生が現在自分の家に戻っており、ジュネーブに戻るのは意味がないとした。

政府のこれまでの制限措置は、1万9千人の学生と、校舎がジュネーブ市・州に点在する同大に「非常に大きな段取り上の問題」をもたらしたと述べた。ただし、小規模または実践的なセミナーは例外だったという。

同大は、対面教育が依然、高等教育の鍵だと述べ、感染状況が許せば直ちに以前の学習形態に戻りたい、と語った。「ワクチン接種キャンペーンの促進は、間違いなくそれを実現する鍵の1つだ。大学も関係者に参加を奨励している。ジュネーブ大学は、このキャンペーンが早く学生を対象に含めるよう期待する」

パンデミックの間、大学のキャンパス学習を停止したのはスイスだけではない。隣国のフランス、ドイツ、イタリアの大学も対面教育を取りやめた。英国は、早ければ5月17日から対面授業を再開する予定だ。

(英語からの翻訳・宇田薫)

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

笑顔で握手を交わす閣僚

おすすめの記事

2025年のスイス連邦大統領はカリン・ケラー・ズッター氏

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦議会は11日、カリン・ケラー・ズッター副大統領兼財務相(急進民主党、60歳)を新大統領に選出した。新副大統領にはギー・パルムラン経済・教育・研究相(国民党、65歳)が選ばれた。

もっと読む 2025年のスイス連邦大統領はカリン・ケラー・ズッター氏
健康保険カード

おすすめの記事

医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査

このコンテンツが公開されたのは、 大手金融機関UBSが12日発表した調査「心配事バロメーター」によると、依然として医療費と健康保険料の高騰が最大の懸念事項だったことが分かった。環境と年金も懸念事項にあがっている。

もっと読む 医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査
連邦工科大学の校舎

おすすめの記事

スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)と同ローザンヌ校(EPFL)が、留学生の授業料をスイス人学生の3倍に引き上げ、2025年秋学期から1学期当たり2190フランにすることを決めた。

もっと読む スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から
ベツナウ原発

おすすめの記事

世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの電力会社アクスポは5日、世界で最も古いベツナウ原子力発電所の稼働を2033年に終了すると発表した。33年までの運転継続にかかる追加事業費は3億5000万フラン(約600億円)を予定している。

もっと読む 世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了
アルコール検査

おすすめの記事

スイスのドライバー、2割が飲酒運転

このコンテンツが公開されたのは、 欧州など39カ国のドライバーを対象にした調査で、スイスでは2割超が飲酒運転をしたことがあると回答した。

もっと読む スイスのドライバー、2割が飲酒運転
銃口

おすすめの記事

狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部

このコンテンツが公開されたのは、 先月29日午後、スイス西部ヴォー州で64歳の男性が狩猟中に死亡した。イノシシを撃とうとした 猟友会のメンバーに射たれた。

もっと読む 狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部
サルコ

おすすめの記事

自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が釈放 70日拘束

このコンテンツが公開されたのは、 今年9月にスイスで初めて使われた自殺カプセル「サルコ」について、連邦内閣は、当分の間、立法措置は必要ないとの見解を示した。サルコ運営団体は2日、身柄を拘束されていたフロリアン・ヴィレ代表が釈放されたと発表した。

もっと読む 自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が釈放 70日拘束
金塊

おすすめの記事

スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの金融誌ビランツがまとめた長者番付2024年版によると、スイス在住の富豪トップに輝いたのは、仏高級ブランド・シャネルのオーナー家族の1人、ジェラール・ヴェルテメール氏だった。上位の顔ぶれはほぼ前年と同じだが、香料メーカーのフィルメニッヒ(Firmenich)創業家が初のトップ10入りを果たした。

もっと読む スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー
ポイ捨てされた空き缶と小鳥

おすすめの記事

スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査

このコンテンツが公開されたのは、 スイス・ポイ捨て防止コンピテンスセンター(IGSU)の年次アンケート調査によると、「スイスでは多くのゴミが適切に処理されていない」と考える人は16%にとどまった。

もっと読む スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部