スイスの視点を10言語で

スイスの大学、人工肺でコロナの血栓研究

X線写真
新型コロナウイルス感染症疑いの患者の肺を写したX線写真。2020年3月24日 Keystone / Stephanie Lecocq

連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究者たちが、新型コロナウイルス感染症が特定の患者に血栓を引き起こすプロセスを詳しく調べるため、マイクロチップ型の人工肺を開発した。

最近の研究では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した患者の約10%に血栓が生じることが分かっているが、詳しい原因ははっきりしていない。深刻なケースでは、血栓が脳卒中を引き起こす可能性もある。

この現象とCOVID-19に関連する他の感染症を詳しく調べるため、EPFLの研究者たちは人間の肺をモデル化し、構造の一部を複製したマイクロ流体チップを開発した。

このチップには肺の上皮細胞、血管細胞、免疫系細胞があり、ウイルスがどのようにヒトの細胞を攻撃し、血栓の形成を引き起こすかを直接観察できるという。

研究チームは、ウイルスが血栓形成を引き起こすとき、2つのメカニズムが発生している可能性を指摘する。1つは、免疫細胞に命令を伝達するためのたんぱく質、サイトカインが過剰生産される「サイトカインストーム」現象だ。これが血管損傷や血栓形成を引き起こし、死に至ることもある。

もう1つは、肺の血管の内層(または内皮)が傷つけられるという可能性だ。肺にはこのような組織が多く、これが損傷すると血液が凝固しやすくなり、血栓形成につながりやすいという。

「肺チップ」

EPFLの研究チームは、新型コロナウイルスが肺に与える攻撃の個々のプロセスをモデル化するため、マイクロチップ型の人工肺デバイスを開発・改良した。このデバイスには、チップ上の細胞に栄養素を供給するマイクロ流体チャネルが流れ、これにより肺の一部がチップ上で再現されるーという仕組みだ。

チップの内部には、肺を覆う上皮細胞の層と、血管の内表面を構成する内皮細胞の層がある。2つの層は膜で分離されている。

実験では、新型コロナウイルスがこのデバイスに侵入すると自然感染の場合と同様、最初に上皮細胞の外層を攻撃した。研究チームは、ウイルスが1日以内に内皮細胞の内層に到達し、その後数日で深刻な損傷を引き起こしたことを突き止めた。

博士課程のヴィヴェク・タッカー研究員は「内皮を破壊し、血管内の血液を空気にさらすのに十分な損傷が認められ、これにより血栓形成を引き起こした」とし 「私たちの『肺チップ』によって、ウイルスが内皮を直接攻撃することで血栓を引き起こす可能性があることが分かった。だがそれは、サイトカインが関与せず、事態を悪化させない―ということを意味するものではない」と述べた。

研究チームは今後、実際の血液サンプルを使って血栓形成の過程をより詳しく調べる予定だ。

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

ベルジエ報告

おすすめの記事

「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱

このコンテンツが公開されたのは、 スイス最大手のUBS銀行の資料室には、第二次世界大戦中の行動に関する秘密がまだ残されている可能性がある――。過去にスイスの銀行と独ナチス政権とのつながりを調査した歴史家、マルク・ペレノード氏は、再調査の必要性を強調する。

もっと読む 「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱
整備中の飛行機

おすすめの記事

スイス航空の緊急着陸 客室乗務員の死因は酸欠

このコンテンツが公開されたのは、 スイスインターナショナルエアラインズ(SWISS)のブカレスト発チューリヒ便が先月オーストリアのグラーツで緊急着陸した後、客室乗務員(23)が死亡した事件で、死因は酸欠だったことが分かった。複数のスイスメディアが報じた。

もっと読む スイス航空の緊急着陸 客室乗務員の死因は酸欠
署名の入った箱

おすすめの記事

国民投票に向けた署名がまたも偽造

このコンテンツが公開されたのは、 医療品の安定供給を求める国民投票に向けて集められた署名のうち、3600筆以上が無効な署名だったことが明らかになった。

もっと読む 国民投票に向けた署名がまたも偽造
エリック・ヘンニさん

おすすめの記事

スイスの柔道家エリック・ヘンニ、86歳で死去 東京五輪柔道銀メダリスト

このコンテンツが公開されたのは、 1964年東京オリンピックで銀メダルを勝ち取ったスイス人柔道家のエリック・ヘンニ(Eric Hänni)さんが25日、86歳で死亡した。スイス柔道・柔術協会が発表した。

もっと読む スイスの柔道家エリック・ヘンニ、86歳で死去 東京五輪柔道銀メダリスト
T字型リフトに乗る子ども

おすすめの記事

スキー初心者泣かせのT字型リフト 生誕から90年

このコンテンツが公開されたのは、 スイス発祥で、今も国内のスキー場で使われているT字型リフトが23日、東部ダボスの地で誕生から90年を迎えた。発明直後から急速に普及したが、現在ではチェアリフトへの転換が進む。

もっと読む スキー初心者泣かせのT字型リフト 生誕から90年

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部