スイス公共放送協会(SRG SSR)などスイスの報道機関が配信したオンライン記事の一部が、犯罪者や汚職政治家から依頼を受けたレピュテーション・マネジメント会社「エリミナリア」によって削除されていたことが、偽情報に関するグローバル調査で明らかになった。
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フランス語圏スイス公共放送(RTS)のジャーナリストが入手した機密文書によると、世界のメディアが配信した数千点に上る調査記事が、インターネット上で削除されたり、閲覧不可になったりしていた。
エリミナリアはスペイン資本のレピュテーション・マネジメント(評価管理)会社。「あなたの過去を消し去り、未来を支援する」というキャッチフレーズのもと、スイスの3事業所を含めた数十の事業所を世界中に構え、デジタルタトゥーの削除サービスを展開している。同社は「不当な」オンライン攻撃の被害に遭ったという顧客を対象に、合法的な手段でインターネット上の写真や否定的なコメントの削除を請け負っているというが、RTSの報道外部リンクによると、実態は異なる。
偽情報撲滅キャンペーンの一環としてグローバル規模で行われた同調査は、フランスのNGO「Forbidden Stories」が主導し、RTSなど30の報道機関が参加した。RTSが入手したエリミナリアの顧客リストには、有罪判決を受けた性的人身売買業者、武器商人、詐欺師、チリで拷問を行っていた人物などの名前があった。顧客数は世界中で1500人以上に及ぶ。RTSはスイス国内の43人を特定したが、うち数人は南部ティチーノ州在住のイタリア人で、イタリアのマフィアビジネスに関するデジタルコンテンツから自身の名前を削除するよう求めていた。脱税や暗号通貨詐欺に関与している人物のほか、未成年者への性的暴行で最近有罪判決を受けたサーカス団員もいた。エリミナリアの利用料金は数十万フランに上ることもある。
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デジタル・ヒットマン
デジタル法の専門家セバスチャン・ファンティ氏によると、欧州連合(EU)の「忘れられる権利」や、検索エンジンへの情報の削除依頼は、特定の場合に正当化されることがある。
ファンティ氏はRTSに対し「若さゆえの過ち、(あるいは)10代ゆえの愚かさによる行いが、インターネット上で一生ついて回るべきものになってはならない」と話した。しかし、「エリミナリアは『忘れられる権利』に関連したものではない。ジャーナリストの調査活動、(そして)真実を消し去るものだ。この会社はデジタル・ヒットマンだ」と指摘した。
エリミナリアは、オンライン上のあらゆるニュース記事を消去できるという。今回のグローバル調査によると、仏日刊紙ル・モンドやVice News、そしてスイス公共放送協会(SWI swissinfo.chの親会社)やLocal.ch、24 Heuresをはじめとするスイスメディアの記事が、さまざまな手法で削除されてきた。
手法の1つは「ドローニング」と呼ばれるテクニックだ。CNN News TodayやTaiwan Timesといった名前の偽のオンラインメディアを何百と使い、顧客に関するポジティブな内容の記事を掲載する。そして、これらの記事がグーグルの検索結果の上位に表示されることで、ネガティブな内容の記事を埋もれさせてしまう。エリミナリアは、検索エンジンから記事を削除させる手法も持っているという。
調査団体からのコメントの要請にエリミナリアは応じておらず、代わりに法的措置を取るという書面を記者たちに送ってきた。エリミナリアの創設者である大富豪ディエゴ・「ディダック」・サンチェス氏に関しては、ポジティブな内容の記事やビデオのみオンライン上に存在する。RTSは、同氏がエリミナリアのサービスを利用し、自身に不利となる内容のオンラインコンテンツを削除しているのだろうと推測している。
英語からの翻訳:大野瑠衣子
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